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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編
1290/1357

1290 王家の公式発表



 リーナが企画した大イベントによって盛り上がる王都は、ついに最終日を迎えた。


 それは王太子の誕生日であり、王太子夫妻の結婚記念日でもある。


 クオンはこの日を待ち遠しく感じており、頭の中で指折り数えているほどだった。


「おはよう」

「おはようございます」


 目覚めると、隣にいるのは愛しい妻。


 この幸せをゆっくりと味わいたいと思いながらクオンはリーナを抱きしめた。


「二度寝はダメですよ。今日は予定がぎっしりですから!」


 伝わってくるのは優秀で働き者の妻が起きる気満々であること。


「そうだな」


 あと五分……。


 リーナを抱きしめる時間をクオンは決めたが、リーナの決めた時間はそれよりも早かった。


「そろそろ起きましょう。ダラダラしていると一日の時間が短くなってしまいます。大損ですよ!」

「わかっている。だが、寒いだろう? もう少しこうして温め合っていたい」

「厚手の衣装にすればいいだけです。今日の衣装は厚手なので温かいですよ」

「そうだな。揃いの衣装を着れば心も温まる」


 午前中に王家の公式発表がある。


 クオンとリーナは同じ刺繍を施した衣装を着用する予定になっていた。


「さっさと着替えましょう。そして、温かい朝食を食べればいいのです。すぐに温まりますよ!」

「そうしよう」


 リーナのためにクオンはゆっくりと起き上がった。


「鳴らしますね」


 ベッドの側にある紐を引っ張れば、呼び鈴がなる。


 別室に待機している侍従や侍女にも起床したことが伝わるようになっていた。


「おはようございます。王太子殿下、リーナ様」

「おはようございます! 寒いので衣装をすぐに用意してください」

「ただちに」


 優秀で働き者の妻に仕える侍女たちも優秀で働き者。


 温かいお湯で濡らした顔拭きタオルを持って来たり、カーテンを開けたり、温かいお茶を用意したりとせわしなく動いていた。


「どうぞ」


 リーナは侍女から渡された湯気の立ったカップをクオンに差し出した。


「熱いので気を付けてくださいね」

「ベッドで茶を飲むのか?」

「そうです。すごい贅沢ですよ!」


 クオンは温かいお茶の香りを確かめ、一口飲んだ。


「どうですか?」

「温かい」

「特別なサービスです。いつもクオン様はすぐに自室に行ってしまいますよね?」

「そうだな」

「今日はクオン様の誕生日です。だから、一緒にベッドでお茶ですよ!」


 リーナも侍女からお茶のカップを受け取った。


「乾杯しましょう!」

「グラスではないが?」

「いいのです。気分の問題なので」

「そうか」


 クオンとリーナは乾杯するようにカップを合わせた。


「クオン様の誕生日の始まりに」

「結婚記念日の始まりに」


 微笑みながら二人は温かいお茶を飲む。


 ベッドの上の特別なお茶会は、寒い朝を感じさせない温かさに満ちていた。





 王宮。謁見の間。


 かつて、王族の誕生日は重要な公式行事の一つだった。


 しかし、時代によって王族の誕生日の祝い方も変わっていく。


 現在のエルグラードは、王権を取り戻した国王が悲惨な国庫状態を知って決めたルールが継続中だった。


 つまり、特別な公式行事は行われず、王家の私的な行事としての食事会が開かれるだけ。


 去年の王太子の誕生日には結婚式が行われた。


 側妃との婚姻だけに、実際は国家行事規模であっても建前としては王家の私的な行事ということになった。


 そして、今年は王家の公式発表日になった。


 通常の公式発表は王族の側近や王宮関連の役職者が内容に応じて発表役や司会を務める。


 今回は国王や王族が直々に発表するために公式行事という位置づけになり、貴族たちが謁見の間にひしめきあっていた。


「国王陛下、王太子殿下、王家の方々のご入場!」


 華やかなファンファーレのあとに扉が開かれ、国王を先頭にした王家の者たちが姿をあらわした。


 貴族たちの視線が真っ先に向かったのは王太子、そして、そのうしろに続くはずのヴェリオール大公妃が横にいて、正式なエスコートをされていることに驚いた。


 二人は結婚式を連想させるような白い衣装で、エルグラードをあらわす赤いマントを羽織っている。


 また、衣装には緑色のアイビーの刺繍が二人をつなぐような位置であしらわれていた。


 アイビーの花言葉は永遠。


 王太子夫婦の心情と決意をあらわしていることは明白だった。


「特別な発表がある」


 エルグラード国王ハーヴェリオンは謁見の間にいる貴族たちを見回した。


「今日は王太子の誕生日だ。エルグラードの次期国王が誕生した喜びと感動を忘れることはない。エルグラードの未来は強く明るく輝いている。それは王太子クルヴェリオンのおかげだ!」


 大拍手がすぐに謁見の間の全てに広がった。


「昨年、クルヴェリオンは婚姻した。誕生日に愛する女性を妻にするという夢を叶えた。それもまた喜ばしい。国王として、エルグラード国民から選ばれたことを嬉しく思っている」


 国王はリーナを見て微笑んだあと、謁見の間を見渡した。


「エルグラードは強い。その強さをより強く大きくする力がクルヴェリオンにはある。極めて重要な決断をするにあたって、クルヴェリオンと話し合った。その結果をここで発表したい」


 ついに!


 いよいよだ……。


 誰もがそう思った。


「ザーグハルド皇帝家からの縁談は完全に断わる!」


 大きなどよめきが起きた。


「この件については最初から決めていた。縁談は何かにつけて申し込まれる。珍しくもなんともない」


 強大国であるエルグラード王家との縁談を望む者は多くいる。


 いちいち縁談が来たことを発表することもなければ、断わったことを発表することもなかった。


 だが、今回はザーグハルド側が勝手に公表してしまった。


 しかも、部外者や他国を巻き込み、国際的な事案にしようとした。


 エルグラード王家としては非礼かつ許しがたい行為だと感じたが、政治的には新設した経済同盟の審議に集中したい時期だった。


 そこで、縁談については通常対応としての無反応を貫いていたことを国王が説明した。


「クルヴェリオンからも説明がある」


 人々の視線がクオンへと集まった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ザーグハルド皇帝家からの縁談は完全に断わる!」 [一言] キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! 朝からのイチャップルにほのぼのした後に、 ついに来ましたね!!!! リーナのイベントは国…
2024/08/06 07:39 みんな大好き応援し隊
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