1288 後宮の協力者たち
昼食後、リーナは大勢の同行者を連れて後宮へ向かった。
「ヴェリオール大公妃、これは……」
「想定外です」
後宮監理官や後宮長は予想を上回る同行者たちを見て驚かずにはいられなかった。
「後宮の協力内容が大注目されているので、私の方から同行しないかと誘いました」
「ヴェリオール大公妃から?」
「役職者たちをですか?」
後宮監理官や後宮長は驚いた。
「王宮の者は後宮の協力内容が気になっています。勤務終了後に王族付きの人々が来ると混雑してしまうでしょう。ですので、役職者を通じて情報を流しておくことにしました。そうすることで、買物部や購買部が混雑しにくくなるのではないかと思って」
「なるほど。買物部や購買部のためでしたか」
「警備隊の負担も減りそうです」
後宮監理官や後宮長は納得した。
「では、説明をお願いします」
「私の方から説明します」
後宮監理官が説明役になることを申し出た。
「通常のイベントにおける協賛は資金や物品の提供をします。ですが、後宮は何かと予算面で厳しく、国王陛下も各自の権限でできる範囲ということでした。ですので、既存の役職者の権限でできる範囲内ですることにしました」
「私もそのように聞いています」
「ヴェリオール大公妃はお忙しいと思いましたので、国王陛下の側妃様方のご要望を聞きました。すると、側妃様方も楽しめるようなイベント、できるだけ豪華にしてほしいと言われました」
「豪華に? 無理ですよね?」
「後宮の予算では無理です。ですが、国王府の予算があります」
リーナは驚いた。
「国王府の予算?」
「後宮統括や後宮監理官は後宮という名称がつきますが、国王府に所属する官僚です。ですので、後宮統括や後宮監理官の権限で動かせる予算は国王府の方にあるのです」
「知りませんでした!」
「国王府のことですので当然です。側妃様や後宮が自由にできる予算でもありません」
通常は後宮の予算で催事をするが、後宮統括や後宮監理官が許可を出せば、国王府の方にある予算からも費用を出せる。
とはいえ、後宮は莫大な赤字を抱えていただけに、国王府の方にある予算は赤字補填に回されていた。
しかし、リーナの取り組みによって後宮の赤字は少しずつ減っている。
それに役立つ催事であればいいとして、後宮統括である宰相が国王府の方にある予算からの支出を認めたことが説明された。
「では、宰相閣下がイベントをする許可だけでなく、費用の工面についても支援してくれたのですね?」
「そうです。赤字でなくなるまでは絶対に補填用だと言い張っていたのですが、ヴェリオール大公妃が宰相閣下の心を動かしたのです」
「宰相閣下の善意です」
リーナの取り組みはうまくいっているが、永続的な成功と借金の返済を確約するわけではない。
それでも、宰相はリーナや後宮の人々の心と力を信じた。
だからこそ、協力してくれたのだとリーナは思った。
「後宮が良い方へ改善していけるように、宰相閣下は応援してくれているのです!」
「そのようです」
後宮監理官も同じように思っていた。
「ですので、国王府にある方の予算で……とはいっても、一部だけですが」
「大丈夫です。気持ちだけで嬉しいです!」
「そうですか。購買部は王都フェアをしています。ミニ物産展です」
外部から仕入れるという意味では同じ。購買部で扱う品のほとんどは王都で作られた製品でもある。
だからこそ、国王と後宮統括である宰相の許可があれば実行するのは簡単だった。
「買物部は王太子領フェアをしています。緑色の文具の入荷を増やしました。期間内だけ値引きしています」
元々が安い上に値引きすると、売り上げが減る。
しかし、数量を限定することで減収分の上限を設定しておき、必ず儲かる軽食販売の売り上げでカバーすることが説明された。
「遠方視察に同行した真珠の間の侍女たちから、王太子領についての聞き取り調査を行いました。それを参考にして軽食課が王太子領らしいものを作り、販売することになりました」
「素晴らしいです!」
リーナは任せて良かったと思った。
後宮の人々の自主性や積極性をうながし、それぞれが持つ能力を発揮させる機会になったと感じた。
「王宮には購買部しかありませんが、後宮には購買部と買物部があります。それで王都担当と王太子領担当に分けたのもいいアイディアです!」
「どちらも王都と王太子領のフェアをすると、差をつけにくくなります。最初から王都と王太子領で分けようということになりました」
後宮の購買部で扱う商品は王都製が多いため、王都フェアの方がしやすい。
買物部は軽食課で作るものを変更できるため、王太子領らしいものを提供できる。
それぞれの得意な部分をうまく活かすことで、後宮内での協力を分担していた。
「私からは以上です。次は後宮長です」
「後宮長から? 住み込みをしている者への食事についてとか?」
王宮省大臣と王宮長がぴくりと反応した。
「日常食の変更についても案が出たのですが、軽食課が王太子領らしいものを作ります。日常食で王太子領らしいものを作るとかぶってしまい、軽食が売れなくなるのは困るだろうとなりました」
「ですので、カフェで特別なメニューを提供することになりました」
またしても王宮省大臣と王宮長が反応した。
「王都セットと王太子領セットを販売することになりました。お茶と菓子がセットになったメニューになります」
王都セットは華やかな香りがする花のフレーバーティーで、花の形をしたクッキーがつく。
王太子領セットは爽やかな香りがするハーブティーで、盾の形をしたクッキーがつく。
王都を象徴する赤系の飲み物、王太子領を象徴する緑系の飲み物で分け、菓子にも違いをつけたことがわかった。
官僚食堂はお茶や菓子を売っていない!
かぶったようで、かぶってなかった……!
説明を聞いた王宮省大臣と王宮長はホッとした。
「説明は以上です。いかがでしょうか?」
「素晴らしいです!」
リーナは叫んだ。
「王宮と後宮がどのような協力をするのか気になりましたが、どちらも素晴らしい内容です! 王宮でも後宮でも楽しめますね!」
「ヴェリオール大公妃にお尋ねしたいことがあります」
「王宮はどのような協力をしているのでしょうか? 王宮省大臣と王宮長に聞いたのですが、情報漏洩になると困るということで教えてくれませんでした」
リーナは王宮省大臣と王宮長に顔を向けた。
「同じですね?」
「お伝えしていませんでした」
「その部分がかぶっていました」
「まずは後で協力内容を実施している現場を見に行きます。そのあと王宮に戻るので、後宮監理官と後宮長は一緒に来てください。私と一緒に説明を聞いていたレイチェルから説明させます。要望があれば、購買部と官僚食堂を見学できるように私付きの侍女に案内させます」
「ありがとうございます!」
「要望いたします!」
「これで王宮側も後宮側も大丈夫ですね!」
「ヴェリオール大公妃のおかげです!」
「ヴェリオール大公妃が王宮と後宮をつなげてくれています!」
王宮と後宮が独立性を保ちながら協力し合い、支え合い、つながりあっていけるようにする。
それがヴェリオール大公妃リーナの手掛ける後宮改革だった。
「皆の力になれてよかったです」
リーナはにっこりと微笑んだ。





