1279 後宮デート
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王族会議が終わると、王妃、第一側妃、第二側妃、第三側妃と合流しての昼食会が行われた。
そのあと、クオンはリーナとデートするために後宮へ向かった。
王族エリアからは後宮につながる連絡通路があり、雨天でも歩いて後宮へ行けるようになっているが、クオンはあえて馬車での移動を選択した。
「リーナに喜んでもらえそうな秘密を打ち明ける日が来た」
「喜んでもらえそうな秘密?」
リーナは何だろうと思った。
「このタイミングで言うとなると、後宮のことですか?」
「そうだ」
「どんなことでしょうか?」
「後宮を変えてしまった」
「後宮を変える? 王太子は後宮に口を出せないはずですよね?」
「父上にとって都合の良いことであれば耳を傾けてくれる。許可を取ればできる」
「では、国王陛下にとって都合が良いことで、許可を取って何かを変えたわけですね?」
「そうだ」
リーナは思いついた。
「もしかして、補修してくれたのですか?」
後宮は老朽化が進んでおり、補修が必要な場所が山ほどある。
しかし、赤字運営だけに補修予算を組みにくく、どうしても不可欠という場所以外の補修を行うことができていなかった。
「馬車で行けばわかる」
「馬車で?」
そして、馬車が到着した。
「屋根がありますね。ここはどこですか?」
後宮にとっての正面出入口は王宮との連絡通路。
立派な門や大扉があるが、連絡通路と直結しており、馬車で乗り付けることができるようにはなっていない。
馬車で行くには通用口としての場所へ行く必要があり、屋根がついていなかった。
「降りよう」
馬車を降りたリーナは驚いた。
「ここは……連絡通路ですね!」
王宮と後宮を結ぶ連絡通路の途中に新しい馬車乗り場ができていた。
屋根付きの馬車乗り場になっているため、雨天でも濡れることなく馬車から降りて後宮に行くことができる。
「すごく便利です!」
「そうだろう?」
クオンは得意気だった。
「去年の茶会で多くの客を後宮に呼んだが、舗装された屋根付きの馬車乗り場がないということで天候が心配だった」
「雨や雪だと困りますよね」
王宮のような馬車乗り場がないことについてはわかっていたが、茶会は一日だけということで仕方がないということになった。
「去年の茶会はとても評判が良かった。また後宮で茶会をするのはどうかと思っていただけに、舗装と屋根がある馬車乗り場を新しく作ってみた」
「後宮をなくしたいクオン様が作ってくださるなんて……」
リーナは驚くしかない。
「私とリーナの茶会のためだ。月光宮や木星宮の爆破で出た廃材を再利用できるとセイフリードに言われた。内緒で作って驚かそうと思った」
リーナが遠方視察で頑張っていることから、帰って来た時に備えて喜びそうなものを用意したいとクオンは思った。
リーナと言えば後宮。
茶会の時に舗装された屋根付きの馬車乗り場があればというのを思い出し、クオンは自分の予算から費用を捻出して作ることにした。
後宮の予算ではないだけに、国王も宰相もすぐに許可を出した。
購買部や買物部にも近いため、通常時は荷物を運ぶためや警備車両を置く場所として使い、催しの時には客用の馬車乗り場として使うことになった。
「実際にこの馬車乗り場を使ったらどうかを確認するため、馬車での移動にした」
「自分で体験することは大事ですよね!」
二人は馬車乗り場の階段を上って連絡通路に行き、そのまま連絡通路を歩いて後宮の正面玄関から中へ入った。
正面玄関口は広いホールになっており、曲がって大廊下を進む。
「購買部が改装されています!」
以前よりも広く綺麗になったとリーナは感じた。
「茶会の時に配車を待つための場所にしただろう? また茶会を開いた時に待合室のようにする可能性が高い。大勢の客が一気に来ても対応しやすいように変えた」
正面玄関のホールに多くの椅子を置いて待合室にすることもできるが、すぐ側にある購買部で買い物ができるようにしておけば喜ばれるだろうとクオンは思った。
「これも茶会を開催するための変更なわけですね!」
「そうだ。個人的な都合だけに、私の方で費用を出した」
後宮は王家の私的な宮殿だけに最高級の石材が使用されている。
そのせいで何百年経っても立派に見えるが、木材で作られた場所は耐久度が低いために改修や補修を繰り返していた。
後宮が莫大な負債を抱えていることもあって、長年大掛かりな改修は行われていない。
リーナや多くの王族付きが出入りする場所の安全を確保するためにも、馬車乗り場の件と一緒にセイフリードに改装プランを考えてもらったことをクオンは話した。
「後付けの木製壁は壊せる。一部を壊して新しい補助壁を作った。それに合わせて棚の位置も変更することになった。全体的な印象も変わっただろう?」
「すごく広くなった感じがします」
「購買部だけを改装すると、リーナが作った買物部が見劣りしてしまう。買物部の壁も補強用の新しい柱を入れるために変えた」
「買物部の方も?」
二人は手をつなぎながら買物部に向かった。
「本当です! 変わっています!」
壁には柱が増え、区切られた壁面に洒落た装飾の窓やドアがついていた。
「廊下は暗くなりやすい。採光用に大きな窓をつけた。宮殿の中であっても廊下からウィンドウショッピングが楽しめる」
大廊下は明るく開放的な印象に激変していた。
「火星宮でも廊下の採光についてセイフリード様は考えられていました。同じように明るくなるようしてくださったのですね!」
「買物部で扱っているのは王宮購買部とほぼ同じだが、印象が違うだろう?」
「とってもお洒落になりました!」
購買部は高級感があるだけに、買物部はナチュラルな印象にした。
店舗内はそれでよかったが、廊下から入った時の印象の差がかなりあった。
お洒落な装飾を施した窓やドアが、高級感とナチュラルな印象をうまくつないでくれているとリーナは感じた。
「床板が壊れた倉庫部屋も直しておいた。強度も上げておいた」
「ありがとうございます!」
「茶会に来た客は購買部や買物部を見ながら大廊下を奥へ進み、大宴の間を目指して進むだろう」
「私たちはお茶会に来た招待客になったような体験をしているわけですね!」
「あとは大宴の間だ」
「改装したのですか?」
「行けばわかる」
そして、大宴の間に入った。
「どこが変わったかわかるか?」
「カーテンです!」
赤いカーテンが深緑のカーテンになっていた。
「大宴の間のカーテンは相当な古さだった。特注サイズだけに、新しいカーテンに代えるだけでかなりの費用がかかる」
「後宮で一番大きな広間なので窓も多いです。余計に費用がかかってしまいますよね」
「カーテンを新調する費用を出すため、緑にするよう条件をつけた。父上も宰相も緑でいいと答えた」
「クオン様らしい色です」
「リーナが喜びそうな方法で聖夜の茶会のための下準備をしたという秘密を打ち明けた。未来の予定を聞いて少しは楽しくなったか?」
「とっても素敵な秘密でした! 聖夜の茶会が楽しみですね!」
リーナは笑みを浮かべた。
「また二人で開こう」
「はい!」
「このまま月光宮まで歩く。距離があるが、腹ごなしの散歩だ。途中で改善すべき点がないかどうかも確認できる。カフェで一休みするにも丁度良いだろう」
「そうですね!」
リーナもそうしたいと思った。
「月光宮にカフェを作って良かったです。後宮の人々のために作ったのに、ちゃっかり自分でも利用しています」
「父上はリーナのために許可を出した。リーナが使うのは当然だが?」
「そう言えばそうでしたね」
王都では多くの噂が飛び交っており、その中には王太子夫婦の不仲説もあった。
だが、王太子夫妻の関係はすこぶる良好。
護衛しながら様子を見守る騎士たちは、心の底から安堵していた。





