1276 報告謁見式
王宮ではヴェリオール大公妃及びその同行者が遠方視察の公務から戻ったことを報告する謁見式が開かれていた。
「遠方視察から戻りましたことをご報告申し上げます」
リーナが報告する相手は特別な公務を命じた王太子のクオン。
今回は重要度の高い長期公務を立派に務めたことを讃えるため、王家の者、重臣、高位の貴族たちも揃っていた。
「当初の予定は一カ月ほどだったが、延長によって約五カ月の長期公務になった。地方へ行くだけでも大変だというのに、多くの子どもたちを伴い、その安全と未来を守るための取り組みをした。王太子領や王太子宮における諸問題も解決した。王太子としてそのことを高く評価する」
「ありがとうございます」
深々と一礼するリーナを見て、クオンは力強く頷いた。
「今回の公務は大きな実績になる。結果を出しているだけに、特別な褒賞を与えたい。要望はあるか?」
リーナは緊張した。
「とても嬉しいお言葉ですが、私は王太子の妻としての務めを果たしたまでのこと。同行して支えてくれた者たちに報いてくださいますようお願い申し上げます」
「それについては考えてある。所属に応じて褒賞が与えられるだろう」
クオンはリーナを長期間支えてくれた者たちについても、しっかりと労うつもりだった。
「素晴らしい成果を出したことに報いるのは王太子として当然のことだ。何かないのか?」
「では、イベントを主催する許可をください」
「イベントを主催?」
驚く者が多数。
クオンもまたその一人だった。
「王太子領でいくつかのイベントを考え、実際に開催してみました。どれも良い結果が出たので、王都でもイベントをしてみたいのです」
「慈善活動か?」
「一部は。調査のためでもあるのですが、大部分は商業的な活動になります」
ざわめきが起きた。
王家の者は公平性の立場から、個人の利益を追求するような商業行為をしないことになっていた。
「どのような内容だ? 慈善バザーのようなものであれば、慈善活動になるが?」
物品を販売するバザーは商業行為に思えるが、慈善バザーの目的は慈善活動資金を集めることにある。
そのことを周知して開催し、実際に集めた資金を慈善活動に使用すれば、商業活動ではなく慈善活動だとみなされる。
「王太子領をアピールする物産展です!」
商業的なイベントだと思う者が多かった。
「王太子領には素晴らしいものが多くあります。今回の公務でそのことを知りましたので、多くの人々にも知ってほしいと思いました。経済同盟によってエルグラード製品に注目が集まります。領主代理の時に、もっと王太子領のことを国内外にアピールすべきだと思ったのです!」
リーナは謁見の間に集まっている人々にもアピールする気だった。
「新年謁見の時、多くの貴族が領地の特産品をアピールしていました。私も領主の妻です。夫の領地を盛り立てるようなアピールをしたいのです!」
「そうか」
クオンは自分や王太子領のためにイベントをしたいと言ってくれたリーナの気持ちが嬉しかった。
「では、領主の妻としてイベントをするわけだな?」
リーナは王太子の妻。
夫の領地である王太子領を盛り立てるための活動をするのはおかしくない。
領地の振興策として実行するのであれば、商業的でも問題なかった。
「クオン様はヴェリオール大公です。王都も領地ですよね?」
「そうだな」
「なので、王都も一緒に盛り立てようと思います!」
「王都を一緒に? どうやって盛り立てる?」
「福祉特区でイベントを行います!」
王都では孤児院問題が起きた。
問題だったのは一部だけだというのに、全ての孤児院を疑い、その存在すら否定するような人々の視線や声が増えてしまった。
各孤児院も行政も率先して対応や改善に動いている。
新しい福祉政策として福祉特区も誕生する。
それが発表されても、人々の中には不安がある。
その不安を取り除くため、福祉特区でイベントを行う。
孤児院問題は対処されている。順番に解決する。安心していい。
また、孤児院という組織に関係する問題が発生したせいで、より苦境に立たされてしまった子どもたちがいることにも気づいてほしい。
もう一度人々が信じ合い、助け合い、明るい気持ちを取り戻す。
そのためのイベントでもあるということをリーナは伝えた。
「王都にはエルグラードで最も多くの善意が集まっています。エルグラードで最も人口が多いですし、最も慈善活動が活発な場所です。慈善団体の数も群を抜いてあります。それらは王都が誇る特別なもの、特産物のようなものだと私は考えます。王都の領主ヴェリオール大公の妻、ヴェリオール大公妃としてそれをアピールします!」
だからこそ、福祉特区でイベントをするのが最適。
夫であるクオンの善意、人々を想い助けようとする気持ちを表している場所で、妻のリーナがイベントを行い、王都の特別さや人々の善意を盛り立てる。
「このイベントはクオン様の領支援、地方支援、慈善活動になります。多くの人々が特別なイベントを楽しみ、多くのことを学ぶ機会にもできます。とってもお得で素敵なイベントなのです!」
「壮大なイベントのようだ」
クオンの正直な感想だった。
「クオン様は許可をくださるだけで結構です。私が自分で考えたイベントなので、自分の力で成功させます。クオン様やエルグラードの力になれることを証明して、王太子の唯一の妻としての実力を国民に示します!」
クオンは驚きに目を見張った。
リーナには覚悟がある。
王太子の妻だからこその試練や悪意に直面しても、それを跳ね返すための方法をリーナは自分で考え、実行しようとしていた。
守られるだけではない。自分のことは自分で守る。
それどころか、クオンのこともエルグラードのことも守り、人々の心を明るくすることで支えようとしていた。
クオンはリーナに対する壮大さも感じずにはいられなかった。
「わかった。王太子領で見せた実力を王都でも発揮してほしい。だが、準備の方は大丈夫なのか? いつ頃する気だ?」
「もうすでに準備はしています。王太子領にいる時から少しずつ考えていたので、開催は十一月中です。クオン様の誕生月を祝うイベントもあります!」
クオンの誕生月を祝う企画は王太子領側から大歓迎されており、王太子の領民同士である王都民と一緒に祝おうと盛り上がっていた。
そのことを王都にいる協力してくれそうな相手に伝えると同じように喜び、ぜひ協力したいと言ってくれた。
「物産展への入場は無料です! でも、特別なイベントについてはチケットを販売して、その利益を慈善活動の資金にします。興味のある者はぜひイベントに来てほしいですし、慈善活動に貢献したい方はチケットを買ってイベントを楽しんでほしいです!」
リーナは物産展以外のイベントや有料のチケットがあることも伝えた。
「ちなみにチケットには種類がありまして、高価なものほど良い特典がつきます。王太子領産の希少なワインを試飲したり、王太子宮で饗される伝統的な料理を味わえる特典もあります! 本当に限られた人だけしか参加できない貴重な慈善パーティーということです!」
どよめきが起きた。
それは人々の興味を引き、心を動かした証拠だった。
謁見中で王族が揃っているのに、堂々と有料のチケットまで宣伝するリーナは凄すぎる……!
リーナの側近であるシャペルは動揺と感嘆の狭間にいた。
「十一月は楽しいことがいっぱいです! クオン様もここにいる皆もぜひ期待していてください!」
「大いに期待している。謁見を終了にする」
謁見式が終了した。
「リーナ!」
クオンは壇上から降りてリーナを迎えにいった。
「私や領地のことをここまで考えてくれるとは……とても嬉しい。このような謁見式になるとは思ってもみなかった!」
愛情と感情を伝えたくて、クオンはリーナを抱きしめた。
「まだまだこれからです。クオン様を幸せにします! 皆も幸せにします! 私はリーナ・リリーナ・レーベルオード、幸せを届けるスズランの花ですから!」
クオンは更に驚かされた。
謁見の間にいる人々も同じ。
エルグラードのスズランは一輪ではなかった。
王太子領で咲き誇った白い花は、王都でも強く美しく咲き誇ろうとしていた。
 





