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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編
1272/1357

1272 だんまり



「クルヴェリオン、なぜだ?」


 王族会議で、国王は尋ねずにはいられなかった。


「問題はほぼ片付いただろう? なぜ、縁談について公式発表するのに賛成しない?」

「父上の言う通りです」


 エゼルバードも不思議だった。


「経済同盟の問題は片付きました。孤児院の建設に必要な資材調達の目途も立ちましたが?」


 クオンは黙ったままだった。


「クルヴェリオン、何とか言ったらどうだ?」

「まさか、あの女との婚姻を本気で考えているとか?」


 セイフリードがそう言った瞬間、


「ありえません!」


 絶対的な拒否感を示すようにエゼルバードが叫んだ。


「私がいかにバーベルナを嫌っているかご存知のはず! 王家に入れないでください! レイフィールも同じことを言います!」


 レイフィールはまだ出張中だった。


「セイフリード、不吉なことを言うのは禁止です! 二度と口にしてはいけません!」

「兄上が即否定すると思った。だというのに、何も言わない」


 エゼルバードの不安が一気に膨らんだ。


「まさか……本当に?」

「そうなのか?」


 国王も心配だった。


「多忙なのはわかっているが、あまりにも疲労が濃い。冷静な判断ができなくなってしまわないか心配だ」

「体調不良なのですか? それならすぐに休んでください! 医者を呼ばなければ!」

「無理はよくない。兄上は働き過ぎだ」

「リーナが戻ってから発表しようと思っている」


 クオンは静かに答えた。


「まずは遠方視察から無事戻ることが重要だ。リーナは立派に役目を果たし、王太子領の問題にも見事に対処した。領民にも絶賛されている。しっかりと労いたい」


 パスカルがリーナとセイフリードの活躍を社交場で話し、その情報はみるみる拡散された。


 王太子領の新聞では連日のように報道されていたこともあって、過去に発行された新聞を取り寄せるだけで事実だとわかる。


 それを王都の新聞が取り上げたことで、リーナやセイフリードの活躍を讃える声が広がっていた。


「縁談を断ればリーナもかなりの影響を受ける。夫として支え続けることを伝えてから、公式発表を行いたい」

「なるほど。そういうことか」


 国王は納得した。


「理由は他にもある。私が縁談を拒否する場合は弟たちとの縁談にしたいという話だった」


 エゼルバードとセイフリードは気まずい表情になった。


「私は既婚者で最愛の女性がいる。断るのは当然だと思う者もいるだろう。だが、独身で婚約者も寵愛する女性もいない王子が縁談を拒否すればどう思われる? そのことについても検討中だ」

「私はバーベルナが嫌いです。仲が悪いことも友人たちは知っています。受けるわけがありません」

「ただの我儘だと国民に受け取られる。第二王子の人気が急落してもいいのか?」

「いいわけがありません。外務への影響が出ては困ります」

「レイフィールも同じだ。人気や評判が下がれば、国軍に悪影響が出る。それは国防への悪影響と一緒だ」

「確かにそうですね」


 レイフィールと国軍の関係を考えるとおかしくないとエゼルバードは思った。


「エゼルバードもレイフィールも保身していればいい。僕は学生としての立場を活用できる。縁談などどうとでもなる。数年内にあの女のことを排除すればいいだけだ」


 強気な発言をするセイフリードに、クオンは厳しい視線を向けた。


「成人したばかりのセイフリードは縁談の対象外だ。学生だと言うならしっかり勉強しろ。王立大学院に進んだ以上、王族に相応しく励まなければならない。王太子領に行ったことで休んでいた分を取り返す必要もある。学生の間は人事権の単独行使を停止する」

「抗議します!」


 セイフリードは即座に反対した。


「僕は成人王族です。人事権もあります。必要なら拒否権を行使します!」

「パスカルの判断を覆したことによって問題が起きた。このままでは、セイフリードには適切な判断ができないと思われてしまう。まだ学生だけに何事も勉強中だということで決着させる。それが最もダメージを少なくできるのはわかるな? 卒業後に挽回するための布石として割り切れ」


 セイフリードは悔しそうな表情で下を向いたが、反論はしなかった。


「あくまでも単独行使だけだ。私の承認を得てからであれば、人事権を行使できる。しっかりと反省した上で、学業と王族の務めを両立させてほしい。リーナは人事権がなくても立派に務めを果たしている。それについては見習ってほしくもある」

「さすが兄上です。リーナについてよくわかっています」


 エゼルバードは笑みを浮かべた。


「このところ疲れている。少し休みたい。先に退出する」


 クオンを止める者はいなかった。


 どう考えても疲労が溜まっている様子であり、誰もが心配していた。


「兄上は働き過ぎです。通常の執務だけでも多いというのに、経済同盟のための国内整備についても確認や指示出しをしなければなりません。王都政のこともあります」

「レイフィールが不在中だけに、軍務の判断や指示出しもあるからな」

「軍については父上が判断すればいい気がする」

「無理だ。現在の国軍配置は国内外の状況を考慮した上でクルヴェリオンが決めた。細かい部分まで知るのはクルヴェリオンとレイフィールだけだ」

「兄上から休むといってくれてよかったです」

「そうだな」


 エゼルバードと国王はそう思ったが、セイフリードは違和感を持った。


「兄上は本当に休むつもりなのだろうか? さっさと会話を切り上げたかっただけではないのか?」

「疑い出したらキリがありません」

「その通りだ」


 セイフリードの中に納得できない気持ちがあった。


 兄が休むと言ったことだけでなく、他のことについても。


「兄上はあの女が王太子領でリーナを軽視したことも、王都に戻って社交に励んでいることも知っている。だというのに、何もしないのか?」

「その件は私からも言いました。王太子領でのこととはいえ、衆目のある場所でリーナを怒鳴りつけたのです。縁談を断る口実にするのはどうかと思ったのですが、何もするなと言われました」


 リーナへの無礼によって縁談を断れば、ザーグハルド皇帝やバーベルナの悪意がリーナに向く理由を与えてしまう。


 純白の舞踏会の件でもヴェリオール大公妃への無礼が発端ということで、制裁を受けた国々の王家はリーナに対する悪意を強め、それが縁談の推薦状につながった。


 これ以上リーナへの悪意を増やさないためにも、現状では沈黙を貫く。


 まずは経済同盟の参加国との強い結束を確保する方が優先というのがクオンの判断であることをエゼルバードは説明した。


「バーベルナがのさばっているのは王宮や王立歌劇場ではありません。一部の社交場や貴族の屋敷でしかなく、王家が直接何かをするような場所ではないということでした」

「父上は国王だろう? あの女はエルグラードにとって害悪でしかない。追い出さないのか?」


 国王は苦虫を噛み潰したような表情になった。


「個人的には追い出したいが、国外追放を命じるほどのことをしていない。社交活動をしているが、慈善活動のためだとアピールしている。諜報活動の嫌疑をかけにくい」

「十月は風向きが変わりました。リーナが王都に戻れば、ヴェリオール大公妃への注目がより集まるでしょう」

「あの女については放置ということか」

「構っている暇などありません。忙しいのでね」

「無視でいい」


 国王とエゼルバードは部屋を出て行った。


 一人残ったセイフリードはそのまま考え込む。


「腑に落ちない」


 王太子だからこそ兄は熟慮する。忍耐力もある。とはいえ、縁談についてもリーナへの軽視についても心底激怒しているのは間違いない。


 西の経済同盟が強力に結びつくことはザーグハルドやバーベルナへの拒絶や報復になる。


 だとしても、兄上の怒りがそれだけで収まるのだろうか?


 収まるはずがないというのがセイフリードの推理だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 兄上の怒りがそれだけで収まるのだろうか? [一言] こういう人を怒らせるのが一番怖いですよね。 リーナへの危険を最大限に減らしつつ、強烈な一手を打ちそう 逆に絶対にクオン様に嫌われること…
2024/05/10 15:28 みんな大好き応援し隊
[一言] そろそろ、公式的にリーナが王都に帰還出来る日も近いのかもしれないですね。 クオンの思惑やリーナ独自の王都民へのアピールがどのような物 なのか楽しみです。
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