1270 孤児院調査室
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リーナはウォータール・ハウスで王都の孤児院に関する情報を集めた。
それによると、遠方視察に行っている間はクオンが王都の孤児院への対策を指示していた。
王都内にある全ての孤児院は現在の状況や今後の見通しについての評価分けが行われ、それに基づいた優先順位で災害対策用の物資が支援された。
王都は人口が多いだけに災害対策用の物資も多く確保されており、それを届けるために王都警備隊と国軍が協力している。
限界を感じている孤児院や廃院届を出している孤児院もあるため、臨時の公的孤児院が各地区の公立小学校内に設置された。
「ちゃんと孤児院への対策がされていてよかったです」
リーナは報告を聞いて安堵した。
「でも、一時的な処置です。楽観はできません!」
すでに何カ月も経っており、災害対策用の支援物資は減り続けている。
王都の孤児院は本来民間運営だというのに、孤児院や慈善活動を支えようとする人々の声と力が戻っていかない。
それは孤児院への不信感が強く、払拭されていないことを示していた。
そのような状況で新しい民営の孤児院を作ろうと思う者がいるわけがない。
だからこそ、クオンは臨時の公的孤児院を作った。
王都の財政負担が増えることよりも、すぐに子どもたちの保護と安全、生活を守ることを優先にした判断だった。
この状況が長引きそうであり、福祉特区にできる大型の孤児院の完成を関係者が待ちわびていることもわかった。
「福祉特区の孤児院が完成すれば、孤児院の数は足りるということでしょうか?」
「臨時の公的孤児院はなくなる見込みです」
運営を継続できそうな民間孤児院については、王都の福祉部が積極的に監視することによって子どもたちの権利を守りつつ、必要な支援を行う。
臨時の公的孤児院にいる子どもたちについては、福祉特区にできる新しい孤児院が完成したらすぐに移動させる。
「福祉特区の孤児院は民営の予定でしたが、公的孤児院に変更されます」
当初は民営の孤児院を王都が積極的に支援するモデルケースにするつもりだったが、現在は王都の孤児院のほとんどが王都の公的支援を受けている状態にある。
臨時の公的孤児院にいる子どもたちをまとめて引き受けることもあり、福祉特区の大型孤児院は公的孤児院として運営されることになった。
「既存の孤児院はどこも本来の受け入れ数を大幅に引き上げており、それもまた負担になっているとのことです」
「できるだけ優良な孤児院に子どもたちをまとめたいですけれど、そのせいで運営が苦しくなってしまうと困りますね」
「その通りです」
リーナは考え込んだ。
そして。
「……これから成人する者がいると、その分は人数が減りますよね?」
「それを見越して、前倒しで子どもたちを受け入れている孤児院が多くあるようです」
「森林宮で子どもたちを保護した時、成人する予定の孤児が前倒しで出ていくよう言われているという話を聞きました。そうではない未成年も行方不明になっているそうです。安否確認はされていますか? ちゃんとした就職ができているのでしょうか?」
マリウスは気づいた。
孤児院にいる子どもを保護することばかりが考えられ、孤児院を出ていった者については考えられていない。
自分でなんとかするだろうという曖昧な期待と推測によって、保護すべき対象や注視すべき対象から除外されてしまっている。
リーナの指摘は、現在の対策における盲点だった。
「わかりません。それに関する報告がありませんので、安否確認はされていないように思います」
「孤児院への不信感が強まっているので、余計に就職は厳しいはずですよね」
路上生活を余儀なくされ、犯罪に巻き込まれてしまうのではないかとリーナは心配になった。
「孤児院を出ていった者や行方不明者の安否確認を行ってください」
「わかりました。ですが、難しいかもしれません。聞き込みをしても探しようがないといいますか」
「方法はあります」
孤児が頼るのは同じ孤児院にいた元孤児。
安定した職場にいる者は頼られやすく、情報を知っている可能性があることをリーナは説明した。
「私が文房具をたくさん購入したお店がありましたよね? 比較的近い場所で就職できた者は、同じ孤児院出身者の状況を耳にしていることが多いです」
だからこそ、リーナも元気だと伝えた。
そうすれば、勝手にリーナは大丈夫という情報が孤児仲間に伝わっていくのがわかっていた。
「王都内の各地区で就職している元孤児を探してください。その者から有力な情報を聞けるかもしれません」
「わかりました」
「それとは別に、私の方で安否確認ができていない者を募集します」
マリウスは驚いた。
「募集ですか?」
「森林宮の下働き見習いの求人を出します」
森林宮で子どもたちを保護した時、十五歳以上の者を森林宮の下働き見習いとして採用した。
職歴をつけ、少額でも給与を出すことによって今後への不安を軽減させたい。福祉特区の孤児院で働いてくれる者も確保できると考えた。
しかし、王太子領の制度や待遇、将来性を知ったことにより、ほとんどの者が王太子領への移民を選択した。
森林宮の下働きとして残ったのは数人のみ。
このままでは福祉特区に大型孤児院ができても、そこで働く職員や補助員を大勢募集しなければならない。
それなら森林宮の下働き見習いの求人によって行方不明者の興味を引き、安否確認をしようと思ったことをリーナは説明した。
「新聞と職業紹介所に求人を出します。各地区で就職している孤児院出身者からも情報を流してもらいます」
「なるほど」
孤児院を出た者にとって求人募集は極めて気になる情報だけに、それを活用した安否確認は有効かもしれないとマリウスは思った。
「求人募集をかけるのはいいとして、先にそのことを王太子殿下かパスカル様に伝えて許可をいただかないとでは?」
「クオン様とお兄様に手紙を書きます」
孤児院にいる子どもたちへの対策だけでなく、諸事情によって孤児院を出ている者への対策も必要だと知らせればいい。
福祉特区に建設中の孤児院の職員や補助員を確保するためにも、必ず許可してくれるとリーナは思った。
「イベントのこともありますし、やることがいっぱいで大変です!」
マリウスも思いついた。
「イベントの手伝いも、安否確認が必要な者の条件に適合させるようにすればいいのでは?」
「名案です!」
リーナはそうしようと思った。
「お父様にも手紙を書きます! マリウスがいてくれてよかったです!」
「リーナ様こそ名案ばかりで驚くばかりです。お役に立てるよう全力で励みます」
マリウスはにっこりと微笑んだ。





