1261 妹のお願い
次の日の朝もリーナはなかなか起きなかった。
遅めの朝食を取ったあと、パスカルと話したいと伝えた。
「お兄様に聞きたいことがあります」
「何かな?」
「お兄様はクオン様の味方ですか? それとも私の味方ですか? どちらかを選んでください」
意味深な質問だった。
「リーナの味方に決まっているよ。僕は兄だからね」
「では、王太子領に戻らなくてもいいですか?」
「体調がよくないのかな?」
「王太子領のことは手紙で指示を出して、信頼できる重臣や領民に任せればいいと思いました。結局は王都に戻るわけですし、今また王太子領へ戻るのは時間と労力の無駄です」
リーナはじっくりと考えた。
「王宮も王都も大変な状況のはずです。こんな時だからこそ、お兄様は一刻も早く王宮に戻るべきではないでしょうか?」
ユーウェインはパスカルの護衛任務に専念すべき。
王太子領にいる者も早急に戻らせ、オグデンにはクオンを支えてほしいこともリーナは伝えた。
「私はウォータール・ハウスで休養しながら、王都の孤児院の情報を調べたいと思っています」
王太子領にいたせいで、王都の孤児院の状況がわからなかった。
新聞をつぶさに確認していたが、縁談や大同盟の話ばかりが取り上げられていた。
クオンのおかげで多くの孤児を保護できたが、王都にある孤児院を取り巻く状況がすぐに回復するわけがない。
報道されていないだけで、王都の孤児院は厳しい状況が続いている。
まだまだ困っている孤児や関係者が大勢いるはずだとリーナは思っていた。
「私がしたいことは王太子領ではなく王都にあります。お兄様が王宮に戻ったら、福祉省の対策がどうなっているのか調べていただけませんか?」
「そのためにも僕には王宮に戻ってほしいわけか」
「私が王太子領に行った後で、危機的状況になってしまった孤児院があったら大変です。ちゃんと保護できているのかも知りたいです」
「わかった。調べてみる。でも、リーナがここにいることを知られてはいけないよ?」
「それはわかっています。なので、一般品の便箋と封筒を購入しました」
ウォータール・ハウスにいるのはヴェリオール大公妃の命令を受けたリリー。
王太子領にいるヴェリオール大公妃が王都に戻るまでに、王都の孤児院の状況について調査する設定をリーナは話した。
「そのために一般品を購入したのか」
「リリーが私やレーベルオードの専用品を使うのはおかしいので」
リーナなりに考えているとパスカルは思った。
「わかった。王太子殿下と話してみるよ」
「お願いします。でも、お兄様は臣下です。説得するのが難しいようであれば、フレディ様を引き込んでください。いとことして力になってもらいたいです」
私の持つ全ての力、正式な命令権を行使してでも王都に行きます!
王太子宮でそう宣言したリーナの気持ちは変わっていない。
リリーとして王都に戻るだけでは足りない。ヴェリオール大公妃リーナとして戻るため、ミレニアスの力も活用する覚悟だということだった。
「僕が話をつける。いとこの出番はないよ」
兄としてのプライドにかけて、パスカルは力強く答えた。





