1250 女性五人
王都からユーウェインが来たことで王太子宮は騒がしくなったが、ヴェリオール大公妃の滞在がより延長されそうだとわかり、喜ぶ声が多く上がった。
王都から取り寄せている新聞を見ると、王都の状況はヴェリオール大公妃にとって良い状態とは言えない。
それならば、王太子領で新案を推進するための指揮を執った方がいい。
ヴェリオール大公妃のためにも王太子領のためにも、それが最善かつ適切。
王太子の判断は間違いないと思う人々ばかりだった。
夜。
リーナは自分の部屋にメイベル、ヘンリエッタ、ヴィクトリア、そしてリリーだけを呼んだ。
「とても重要な話があります」
リーナの表情は真剣だったため、呼ばれた四人は緊張した。
「確認も兼ねて話しますが、王都からユーウェインが来ました。王太子領の滞在を延長して新案を進めるようにというのがクオン様の指示です。許可が出たのは嬉しいのですが、延長期間については疑問を感じました」
取りあえずは十月末までになっている。
公式行事である秋の大夜会が中止になれば、より長く延長可能というのもわかる。
しかし、エゼルバードが福祉特区に孤児院を建設中で、完成するのが秋頃の予定だった。
冬には慈善活動が活発になるため、ヴェリオール大公妃の正式な公務としての炊き出しをしようと思っていた。
妻としてクオンの誕生日を祝うことも、結婚記念日を大切にすることも、夫やその部下のために冬籠りの差し入れもしたい。
だというのに、十一月末まで滞在が延長になる可能性まであると聞き、違和感をぬぐえなかったことをリーナは打ち明けた。
「王都が大変な状況だということは新聞を見てもわかります。ですが、新聞では伝えられない事情についてはわかりません。お兄様が特使になると言い出したということは、十分な情報を持っていない証拠です。オグデンもお兄様が特使になるのを支持しています。側近の判断としては、王都に戻って確認しなければならない状況だということです」
リーナの言う通りだと思いながら、四人は頷いた。
「何か知っていること、私には教えないことで知らされていることはありませんか? そうであれば、正直に話してほしいのです」
四人は顔を見合わせた。
「私は何も知りません。内密というほどの指示も受けていません。お側にいて心を支えるように尽くすことだけです。それが仕事でもあり、友人の務めでもあると思っています」
真っ先に答えたのはリリーだった。
「メイベル、ヘンリエッタ、ヴィクトリアはどうですか? 三人を心から信頼しています。だからこそ、隠し事はしないでください。お願いします!」
メイベルはため息をついた。
「私が内密に指示されているのは、王都で発行される新聞の内容について注意を払うことです。あまりにも酷い内容がある場合は見せないことも検討してほしいと言われています。ですが、リーナ様が多くの情報を得ておくのは重要だと思い、全ての新聞をお見せしています」
「私も同じ指示を受けました」
ヘンリエッタも正直に答えた。
「王都の新聞は縁談や大同盟の話が多く載っています。しかも、縁談や大同盟に賛成するような内容です。なぜ、円満な王太子夫妻の関係に水を差すようなことに賛成するでしょうか? リーナ様や王太子殿下にとって不幸なことは、エルグラードにとっても不幸な結果にしかなりません」
「ヘンリエッタの言う通りだわ」
ヴィクトリアが同意した。
「王太子殿下はずっと妻は一人、愛する者だけだって宣言していたわ。ザーグハルド皇女と婚姻する勅命が出たら、王太子殿下は国王陛下に退位を迫るでしょうね。そうなったら、エルグラードは大変なことになるわよ」
新聞で報道されている内容については、ヴィクトリアも違和感を持っていた。
「貴族だって官僚だって、王太子殿下の信念がいかに強いかをわかっているはずよ。新聞で意見を述べている連中は節穴過ぎるわ。あれで社会的識者だなんて、あまりにも恥ずかしいわね!」
「ヴィクトリア様の言う通りです。夫も報道内容については疑問視していました。最初は聞こえが良い案に盛り上がったとしても、ここまで継続しているのは異常だと。裏で手を回している者がいそうだと言っていました」
メイベルの夫であるエンゲルカーム子爵も何かあるのではないかと勘繰っており、何かあれば知らせるとメイベルに約束していたが、王都に行ったきりだった。
「身分主義者や血統主義者のせいかもね?」
「レーベルオード子爵が王都に戻って状況や情報を確認したいと思われるのは当然だと思います」
「とても頭のいい人が見えないところで動いているのかもしれません。ザーグハルドの皇女の側にとても優秀な人がついていると思いますので」
リリーが暗に褒めのかしたのはボスのことだとリーナは思った。
「レーベルオード子爵を特使にして、確認していただいた方がいいと思います」
メイベルがそう言うと、ヘンリエッタが頷いた。
「そうですね。レーベルオード子爵であれば、詳しい事情を調べることができます」
「王太子領は王都から遠すぎるわ。王都に戻って確認するのが一番ね」
「パスカル様は誰よりもリーナ様の味方ですから!」
四人の意見を聞いたリーナは頷いた。
「私もそう思いました。でも、問題があります。お兄様が王都から戻って来なかったら、何もわかりませんよね?」
四人はハッとした。
「クオン様はお兄様に詳しい事情を話すかもしれません。王都の状況についても正確な情報を得られそうです。お兄様はそれでいいかもしれませんが、私にそれを伝えるかどうかは別ですよね?」
誰も反論できない。
リーナの言う通りだと思っていた。
「今回のことは政治が絡んでいます。ですので、女性には話せないと思われる可能性が高いです。違いますか?」
「そうですね」
メイベルは認めた。
「そうなる可能性が高いと思います」
「政治が関係すると、男性の役職者であっても情報制限が厳しくかかります」
「リーナ様に余計な心配をかけたくないという配慮もありそうよね」
「でも、何もわからないと困りますよね」
「ですので、どうすればいいかと考えました。協力してください!」
「わかりました」
「協力いたします」
「どうすればいいの?」
「何でも言ってください!」
現状において、リーナの女性側近ともいうべき四人は快諾した。
「じゃあ、言いますね。やっぱり協力しないというのは絶対になしですよ?」
リーナは自分の考えたことを話した。
それを聞いた四人は驚愕した。
「……リーナ様には本当に驚かされます」
「私たちの退路を完全に断ちました」
「しびれる案だわ!」
「まさか、本当にするなんて……」
「では、そういうことで。準備をお願いします!」
リーナはにっこり微笑んだ。





