1249 延長の使者
いつもお読みいただきありがとうございます。
つらいお話が続いていると感じた読者様、すみません。
これからはリーナ側のお話になっていきますので、よろしくお願いいたします!
十月に入ってすぐのこと。
特使として王都から王太子領に派遣されたのはユーウェインだった。
「王太子殿下より追加の指示をお伝えいたします。ヴェリオール大公妃はもうしばらく王太子領に留まり、新案の計画をしっかりと進めるようにとのことです」
リーナが考えた王太子宮敷地内の森林に管理兼騎馬訓練用の道路整備、自然保護と領民の憩いの場の確保を両立させる森林公園新設に対する正式な許可はすでに出ている。
大規模な計画だけに、リーナが王太子領に滞在している間に詳細な計画を立て、初動監査をするようにという指示もあった。
それについてリーナが指揮を執るため、王太子領への滞在を延長する内容だった。
「具体的な延長期間は明示された?」
パスカルが確認した。
「取りあえずは十月中旬までということです」
「すぐだな」
「そうですね。帰還する準備をしなくてはなりません」
ユーウェインは視線を下へ向けた。
目は口程に物を言う。
ボスからそう教えられていたリーナは見逃さなかった。
「私には話しにくいことがありそうですね?」
パスカルとオグデンはハッとした表情を浮かべたが、ユーウェインは平常心を心の中で念じていた。
「ユーウェインはヴェリオール大公妃付きの騎士です。信用にかかわるので、私に隠し事をするのはよくありません。正直に話してください。十月中旬までの延長を伝えるために、ユーウェインを送って来たとは思えません。本当はもっと長いのでは?」
ユーウェインがヴェリオール大公妃付きなのは事実。そして、第一王子騎士団の騎士に相応しくなりたくもある。
だからこそ、はぐらかすことはできないと判断した。
「秋の大夜会が中止になる可能性があります。その場合は十一月末まで延長する可能性もあるようです」
「十一月末? クオン様の誕生日を過ぎてしまいます!」
リーナはクオンの誕生日を一緒に過ごす気でいた。
それまでに王都に戻るというのは当然過ぎることだったが、そうではないかもしれないと知って動揺した。
「十月末ではなく、十一月末なのか?」
オグデンも信じられないといった表情になった。
「それはつまり、十二月になってから帰還するということになるわけだが?」
「秋には福祉特区内の孤児院が完成する予定だったはずだ。冬は慈善活動が増える。十二月になってから戻ると、ヴェリオール大公妃の公務や冬籠りへの差し入れに影響が出る」
パスカルもまたユーウェインの話に驚いていた。
「あくまでも可能性の話です。実際にどうなるかは状況次第であり、別の使者が伝えるとのことでした」
「何かあったのか?」
オグデンはそうとしか思えなかった。
「王太子殿下はヴェリオール大公妃の帰還を待ち望んでいるはずだ。だというのに、そのような想定をしているということは、今後の見通しが悪いということか?」
「孤児院の建設に遅れが生じているのかな? 何か知っているのであれば教えてほしい」
「申し訳ございません。他のことはわかりません。王都に戻ったあとはセイフリード王子殿下の護衛につくことになり、王宮での宿直勤務でした。そのせいで第一の騎士との接触についても限定的でした」
それは王太子殿下が情報制限を見据えて、セイフリード王子の護衛を命じたということか?
ユーウェインに余計な情報を与えないため?
オグデンとパスカルはユーウェインが暗にほめのかしたことを察した。
「特使として命じられたのは指示をお伝えすること、そのあとはレーベルオード子爵の護衛に戻ることです。詳しいことは王都に使者を送り、確認していただくしかありません」
「だったら特使として王都へ行く。リーナ、ヴェリオール大公妃として命じてくれないかな?」
「お兄様を特使に?」
リーナもオグデンも驚かずにはいられなかった。
「事情を把握していない者を送っても、知りたい情報は得られない。何度も往復するだけで日数がかかってしまう。セイフリード王子殿下やレーベルオードの件でも気になることがある。王太子領はオグデンの管轄だけに、新案を進めるにはオグデンが残るしかない」
「オグデンはどう思いますか?」
リーナは筆頭側近であるオグデンに尋ねた。
「今後のことを考えますと、王太子殿下にしっかりと確認しておくべき点があります。選定した特使によっては、情報開示ができないということで、何も教えられないかもしれません。そうなると、パスカルが最も適任そうではあります」
オグデンは正直に答えた。
「そうですか。でも特使を誰にするかについては熟考します。猶予をください。ユーウェインは大変だったと思うので、体をしっかりと休めてください」
リーナは即断を避けた。
「では、そのように」
オグデンは熟考するというリーナの考えを尊重した。
「パスカルも熟考しろ。王太子殿下の指示は、王太子領においての実績づくりが極めて重要だからだ。ユーウェインは護衛任務に早く戻るためにも、しっかりと休養を取れ」
「では、検討時間を設けるということで。ユーウェインもしっかり休んでおいてほしい。特使になった場合、同行を頼むかもしれない」
「わかりました」
猶予は準備期間。
パスカルは王都へ戻れるように関係者と打ち合わせを行い、指示を出しておくことにした。





