1239 延長追加
夏夜会が終わった翌日、ラブたちは王都に帰るために出立した。
セブンは正式な出張として王太子領に派遣されているため、パスカルやオグデンから収集した情報を早急に持ち帰らなければならない。
ラブとメロディも大学の講義があるため、かなりの強行日程になっていた。
リーナも九月中、なるべく早く王都へ戻る気でいたが、予定変更をする羽目になった。
「まだ王太子領にいるのですか?」
パスカルとオグデンから報告を受けたリーナは驚いた。
「王太子殿下は領主代理として励まれているヴェリオール大公妃の手腕を高く評価されています。もうしばらく王太子領に留まり、指揮を執ってほしいとのことです」
筆頭側近であるオグデンが報告した。
「内密の指示ということで、ディヴァレー伯爵が直接伝えに来ました。本来であればすぐにお伝えすべきだったのですが、夏夜会までは何かと忙しいことを見越し、終了後にお伝えするようにという指示でした」
「そうですか」
リーナはそう答えたが、予想外の指示に困惑していた。
「でも、私が遠方視察に派遣された目的はほぼ達成されています」
王太子領に移住する子供たちの手続きは全て終了しており、八月中に全員が孤児院へ入った。
各孤児院の改善は福祉省内に設置された特別本部が行っており、現状においてはうまくいっている。
緑の守護団を発足させ、知名度と安心感を高めるための活動も成功した。
滞在中に発生した諸問題への対策もしている。
「王太子宮の庭園公開は九月末までになりました。直接監査されては?」
オグデンが提案した。
「宮殿長に任せたことです。問題がないのであれば、余計な口を出したくはありません。私は王太子領にずっといるわけではないので、王太子領にいる者だけで対応できるようにしておくことが重要ですよね?」
「緑の守護団の活動についてご検討されては? 緑の通り道のイベント期間が終了しました」
「期間終了後は片付けをする期間になります。あくまでも任意参加でしたので、参加者によっては片付けないかもしれません。通行を邪魔するようなものでなければ、緑のある風景を維持してもらえるのは歓迎です」
「街中ピクニックについてはいかがでしょうか?」
「街中ピクニックは領政府のイベントです。飲食業界の状況を見て領首相が判断すればいいと思います。農作業と観光による繁忙期のピークを越えたので、徐々に落ち着いていくのでは? 領営食堂の混雑状況を考慮すればいいと思います」
リーナ様は本当に優秀な方だ。成長されたというべきかもしれないが。
オグデンはそう思わずにはいられなかった。
「公務が続きましたので、ゆっくり休まれては?」
「睡眠時間はしっかりと確保しています。休むように言われても、かえって困ってしまうというか」
「お忍びで外出されては?」
パスカルに提案にリーナは驚いた。
「外出してもいいのですか?」
偶然バーベルナに遭遇したことで周囲の空気が変わり、警備がより厳重になった。
不要不急でなければ外出は難しいと言われ、王都に帰る時まではずっとそのままだろうとリーナは思っていた。
「夏休みを利用して、フェリックスがこちらに来ています。グランドール・ホテルに滞在しているのですが、明日には王都に戻るために出立してしまいます」
素性を隠して王太子領に来ているだけに、公式な身分として王太子宮へ招待するのは難しい。
一緒に過ごすのであればグランドール・ホテルで会う方がいいとパスカルは思った。
「王太子領は観光業も盛んです。グランドール・ホテルは王太子領で最高評価を得ているホテルですので、安全面への対策もしっかりしています。視察するにも良いのではないかと」
「オグデンはどう思いますか?」
「勉強と息抜きになるので、丁度良いのではないかと。大公子も喜びます」
「そうですね。では、フェリックスに会いに行きます!」
喜ぶリーナを見て、パスカルとオグデンは安堵した。
オグデンに留守番を任せ、リーナはパスカル、リリー、ロビン、護衛騎士たちに守られながらグランドール・ホテルに出かけた。
フェリックスは最終滞在日ということもあって、ホテルの隣にあるショッピングモールへ外出した後だった。
「午前中だけだ。ホテルのレストランで昼食を予約している」
保護者であるフレデリックは部屋にいたため、面会することができた。
「ショッピングモールではプライベートな話はしにくいだろう。昼食を一緒にどうだ?」
リーナはパスカルを見た。
「受けても大丈夫でしょうか?」
「問題ないよ」
「では、そうします」
「パスカル、二人だけで話せないか?」
フレデリックは丁度良い機会だと感じた。
「リーナに無礼な発言をした女のことだ」
バーベルナのことであるのは明白だった。
「お兄様はフレディ様とお話をしてください。せっかくの外出ですので、私はショッピングモールに行ってきます。フェリックスがどんなものを買っているのかも気になりますし」
リーナは配慮してそう言った。
「わかった。でも、気を付けて。リリー、ロビン、頼んだよ。ラグネス達も」
「はい!」
「わかりました!」
「お任せください」
リーナ達はショッピングモールへ向かった。
最高級ホテルに宿泊する客が必要品や土産物を買えるようになっているだけに、ショッピングモールはかなりの広さがある。
フェリックスを見つけるのは大変かもしれないとリーナは思ったが、何人もの護衛を引きつれている子どもの一行はかなり目立っており、すぐに発見することができた。
「姉上!」
フェリックスはリーナと会えたことに喜びを隠せず、子どもの特権を堂々と行使して抱きついた。
「まさかここで会えるなんて! やはり僕は幸運の持ち主です! 買い物ですか?」
「会いに来ました。ホテルに行ったのですが、こっちにいると聞いたので」
「そうでしたか。でも、兄上は一緒ではないようですね?」
「特別なお話があると言われて、部屋の方にいます」
「ああ、なるほど」
フェリックスは誰と何の話をしているのかを察した。
「姉上は非常に無礼な女性と遭遇したようですね。その件だと思います」
「それって……クオン様の友人の方のことですか?」
「そうです。さっさと帰国すればいいというのに、グランドールでバカンスを楽しんでいるとは。図々しいとしか言いようがありません」
「お兄様から聞いたのですか?」
「今回は私的旅行で勉強優先なので、姉上や兄上に会いに行くのはよほどのことがない限り控えることになっていました。偶然会えないかと思い、緑の守護団の本部を張り込ませていました」
「フレディ様が配慮してくださったのですね。優しいです」
「フレディは優しくありません」
「でも、私にはとても親切ですし、優しいですよ?」
「それは父上に返しきれない借りがあるからです」
リーナは首をひねった。
「借りですか?」
「国境を越えるには証明書と資金が必要です。それを提供しているのが父上です」
「なるほど」
「僕が言うのもなんですが、うちの家の男性陣は揃いも揃ってろくでもない者ばかりです」
「そんなことはありません。良いところだってあります」
「姉上は本当に優し過ぎます。何かあればいつでも僕に相談してください。姉上のために全力で動きます。帰省も大歓迎です。父上も母上も泣いて喜びます!」
リーナとフェリックスは多くの同行者を連れており、しっかりと守られている。
会話も小声で周囲に聞こえにくいようにしていた。
だとしても。
それって、ミレニアスに来てってこと?
明らかに勧誘だよね?
そういう話はホテルの部屋でした方がよろしいかと。
リリーやロビン、護衛たちは心の中で呟いた。
お読みいただきありがとうございました。
久々に短編を投稿しました。
「人間のふりをした魔人の王妃~魅了眼を使って国造り無双をもくろむ~」
タイトルはファンタジーみたいですけれど、話は恋愛ジャンルです。
軽~くゆる~くささっと読める感じですので、よろしくお願いいたします!





