1237 打ち上げ女子会
夏夜会のフィナーレとして、オーケストラとメロディのコラボレーションによる演奏が行われる中、特大の花火が次々と夜空に打ち上げられた。
特別な夏は最後まで特別だったという印象を人々に与えるには十分なほど、美しく輝く花々が夜空に咲き誇る。
これにより、八月末日の公式予定が全て終了した。
「メロディは大変でしたよね。本当にお疲れ様でした」
リーナは王太子宮に一泊するラブとメロディや親しい女性たちと共に、打ち上げ女子会を楽しんでいた。
「リーナ様に喜んでいただけて良かったです!」
「あれほどピアノが弾けるなんて思いませんでした」
「国際大会で優勝するほどの実力者だもの。技巧的な選曲をしたせいもあって、余計にすごさを感じたわ」
「どんな曲にするかについてはヘンデル様に相談したのです」
メロディはベルに頼み込んでヘンデルと会い、ヴェリオール大公妃付き側近として、夏夜会で演奏する曲の助言を求めた。
「どんな曲を弾いても知っている人と知らない人がいるので、とにかくすごいと感じるような曲がいいと言われました」
「とにかくすごかったです。本当にびっくりしました」
リーナは正直に感想を伝えた。
「最初から力強い演奏だったので、これから何が始まるのかと、ワクワクドキドキしました!」
「リーナ様のイメージだと優しい曲なのですが、領主代理としてご出席されています。お声をかけていただいたからには、実力を証明しなければならないと思いまして」
「オーケストラとのコラボについては有名な曲にしたのが良かったわ。主旋律を知っている方が花火を楽しむ余裕ができるし」
「最後の曲が国歌だったのも良かったです。フィナーレという感じがしました」
「エルグラードで一体になる感じがして最高だったわ!」
リーナもラブもメロディのおかげで心から音楽を楽しむことができたことを伝え、メロディを褒めちぎった。
「気に入っていただけて良かったです。オーケストラの方々も関係者の方も親切でしたし、気持ちよく準備も演奏もできました。これまではコンクールで演奏してばかりでしたが、このような演奏会に参加する機会を増やしていきたいと思いました」
「メロディにはプロになれる実力があるわ。問題なのは人見知りの性格とプロとしての道を歩きたいかどうかじゃない?」
「大学でじっくりと音楽と向き合うわ。目標にしていたコンクールの優勝と最高賞を取りたいしね」
メロディにはいくつもの夢があった。
「未成年部門で優勝するのと、成人部門で優勝するのでは全然違うもの。私の演奏を愛してくれる人々のためにも、コンクールの成人部門で実力を証明したいのよ」
「そうね。コンクールで上位の成績を取れば、エルグラードでの知名度が一気に上がるし、領地経営にも婚活にも有利かもね?」
メロディの表情はみるみる明るくなった。
「私もそう思っているの! 夢を叶えるためにも全力を尽くすわ!」
「熱くなれるのが羨ましいわ。私の場合、まずは大学を卒業する方に頑張らないとかしらね」
「大学で学べるのは素晴らしいことだと思います。二人共、頑張ってくださいね」
「頑張ります!」
「私もリーナ様で元気を補充して頑張るわ」
リーナ、ラブ、メロディは音楽や大学の話題で盛り上がっていたが、ヴィクトリア、メイベル、ヘンリエッタはドレスの話題で盛り上がっていた。
「やはりリーナ様のお姿が一番だったわね」
「王太子殿下から特注のドレスが届くなんて思いませんでした」
「宝飾品もね」
リーナが夏夜会に出席することを考え、クオンは夏の大夜会のために用意したドレスと宝飾品を王太子宮に送り届けた。
「水色のドレスが本当に涼しげで、夏夜会にぴったりでした!」
リリーもちゃっかりとその輪に加わっていた。
「リリーのドレスも素敵だったわよ。美人度がアップしていたわ」
「アリシアに感謝しないとね。リーナ様のドレスと一緒にリリーのドレスも送ってくれて良かったわ」
「さすが元王太子付き筆頭侍女です。全てお見通しという感じでした」
「メイベルだって、ドレスを送って貰えたじゃない」
メイベルは夫であるエンゲルカーム子爵がドレスと宝飾品を手配して送って来た。
夏の大夜会用に用意したものだけに、そのドレスコードに合わせた水色のものだった。
「いいわよね。私は自分で用意しないといけないもの」
ヴィクトリアはため息をついた。
旅行に備えてさまざまなドレスを用意していたが、水色がなかったために現地で購入することになった。
「王都は何かと周囲が気になりますが、こちらでは好きなものを選べるという利点があります」
「グランドールで購入したドレスだけに、周囲に馴染んでいました」
「やっぱり王都とグラドールは違うわね。流行も何もかも」
現在、王太子領は空前のヴェリオール大公妃ブームになっている。
その影響はファッション業界に及び、灰色やくすんだ色合いが大人気を博していた。
「くすんだ色合にはパステル調も含まれるわ。優しくて落ち着いた印象よね」
「そうですね。夏夜会のドレスコードは必ず王宮の夏の大夜会と同じになるということでしたが、くすんだ水色が大人気でした」
「水色のドレスコードは大正解よ。涼し気だし、成人したセイフリード王子殿下への敬意を示せるしね」
「王宮の夏の大夜会もそう考えてのことだったはずです」
「なのに黒だなんて」
情報収集のために王都から取り寄せている新聞には、夏の大夜会において黒い衣装が人気だったことが掲載されていた。
「白鳥姫と黒鳥姫をイメージした衣装が流行っているのはわかるのよ。だったら白にすれば水色が目立つのに」
「ヴィクトリア様の言う通りです。ですが、公式行事の参加者の年齢を考えますと、黒になりそうではあります」
「年代が上になるほど黒が人気らしいから」
「公式行事の参加者には若い方が少ないのでしょうか?」
ヘンリエッタは地方の下級貴族出自。若くして後宮に就職したのもあって、王宮行事については詳しくなかった。
「公式行事への参加は爵位持ちが優先なのよ。若い内から爵位を持っている者は限られてしまうから、結果として年代が上がってしまうというわけ」
「それで黒い衣装の割合が増えたということですね」
「黒い衣装では水色の小物が目立ちにくい気がします。問題にならなかったのでしょうか?」
「たぶんだけど、問題になった気がするわ。王宮内のことについては報道規制があるだけに新聞に載らないことも結構あるのよ。だけど、社交界ではその話題で盛り上がっているでしょうね」
ヴィクトリアは社交界中で黒い衣装の話題が勢いづいている様子を思い浮かべ、うんざりとした。
「ラブとメロディに聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
リーナはそろそろ話題を切り替えようと思った。
「何?」
「どんなことでしょうか?」
「王都の状況について聞きたいのです」
キターーーーー!
やっぱり気になりますよね。
ラブとメロディはいずれそういう話になるだろうと思っていた。
お読みいただきありがとうございました。
新作「婚約破棄のあとで辺境(魔境)行きになった王子様」を投稿しました。
異世界恋愛とファンタジーでいつも迷うのですが……ファンタジーにしてみました。
ほのぼの家族生活のような訳ありメンバーのあれこれのような?物語です。
第一章まで完結していますので、読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします!





