1234 王都からの一団
もうすぐ八月が終わるという頃。
領都に王都からの一団がやって来た。
「リーナ様ーーーーー!!!」
「お会いできて嬉しいですわ!」
「ラブ、メロディ、ようこそ王太子領へ! 大歓迎です!」
ラブとメロディは大学の夏季休暇を利用して王太子領に行くことにした。
メロディとリーナが手紙をやり取りして約束したピアノ演奏会に合わせて王太子領へ行くことになり、セブンが直接指揮するウェストランドの一団に守られながらグランドールへ到着した。
「カミーラとベルも会いたがっていたわ。でも、無理だから、王宮の夏の大夜会に出席して報告書を書いておくと言っていたわ」
王太子領に向かう日程から考えると、夏の大夜会には参加できない。
身重のカミーラが馬車の旅をできるわけがなく、ベルも休日返上で後宮の方をメリーネと一緒に管理している。
ラブとメロディを羨ましがりながらも、二人は出発の際にはわざわざ時間を取って見送りをしてくれた。
「お土産もいっぱい持って来たわよ!」
「お土産ですか?」
リーナはキョトンとした。
「何でしょうか?」
「王太子殿下からの贈り物よ!」
「クオン様から?」
リーナは喜びが溢れるような笑顔を浮かべた。
「お兄様が側近に渡して、問題がないか確認してからになると思うわ。なので、どんなものかは内緒ね。それから手紙兼報告書。ざっくり言うと、問題はないって。買物部と購買部はエリア設定の見直しでびっくりするほどの大盛況らしいわ」
リーナとセイフリードが出発する前にエリア分けの設定自体は終わっており、段階的に様子を見ながら解除していくことになっていた。
王族付きが後宮に行けるようになると、購買部や買物部は驚くほどの大盛況になり、次々と商品が完売。
なかなか売れなかった高価な品も売れてしまい、このままでは購買部が開店休業状態、黒字になるチャンスを逃してしまうかもしれないほどだった。
そこでメリーネが後宮統括でもある宰相の所へ行き、詳細状況や今後の見通しを丁寧に説明したところ、追加発注の許可が出た。
リーナの指示でカミーラとベルが進めていた新規の取引も、短期間のみという条件付きで認められた。
後宮との新規取引に力を入れたい商人達の努力もあって、素早く購買部の商品が補充され、飛ぶように売れる状態になったことをラブは説明した。
「すごいです!」
リーナは歓喜の笑みを浮かべた。
「皆のおかげですね!」
「リーナ様のおかげよ」
莫大な負債を抱えた組織の再生は難しい。
通常は再生を諦め、多くの犠牲と痛みを伴う強制的な清算を実行する。
だが、リーナは諦めなかった。
後宮の人々の生活と雇用を守るために立ち上がり、後宮の莫大な負債を減らしながら、多くの人々に喜ばれる方法を模索して実行した。
「お母様も暇だから手伝っているらしいわ」
「ウェストランド侯爵夫人が? 慈善バザーのお店ですか?」
「そう。ドレスを寄付するための団体を作ってバックアップしているのよ」
寄付額を競うのはよくあることだが、ドレスの寄付を競うことにすれば、ドレスを腐るほど持っている裕福な女性たちが飛びつく。
ウェストランド侯爵夫人はそう考え、ドレスを寄付できる慈善団体を作り、様々な項目によっての評価を競い合えるようにした。
その結果、多くの貴族女性が不要になったドレスを慈善団体に寄付するようになり、そのドレスを現金化するために火星宮の慈善バザーの店に並べることになった。
「すごいわよ。ガンガン売れているらしいわ」
「古いドレスが安く買えるからですか?」
「売っているのはリメイクドレス用の素材よ」
寄付されたドレスはわざとパーツごとに解体して一部分だけを売る。
その方が元の持ち主がわかりにくくなり、個人情報の流出を防ぐことができる。
買ったものを自由に組み合わせてドレスを作ることができるため、布から作るよりも手間がかからず料金も安くなる。
お洒落にこだわりたい者や裁縫が得意な者に大人気で、入荷パーツを日々チェックする常連がいるほどだった。
「わざわざドレスを解体して一部分だけ売るなんてと思ったけれど、相当売れているらしいわ。その方が自分のサイズに合うものを組み合わせられるみたい。パーツを有料でくっつけてドレスにしてくれるサービスもあるのよ」
「火星宮の方もうまくいっているようで良かったです」
「そうね。利益が出るほど慈善活動への寄付金が増えるし、後宮の人々の益にもなるわ。お茶の方も追加分が入って来たって」
定期便はまだないが、デーウェンとカルナッドは海が荒れる冬になる前にできるだけ多くの貿易品を運びたがっている。
必ず売れる商品であり、今後の販路を拡大するためでもあるため、かなりの増便をしてエルグラードへの輸入品を運びまくっていた。
「価格を下げるほどではないけれど、カフェの方には安定的に供給されるらしいわ。余剰が出て来たら官僚食堂の方でも出すかどうかを検討するらしいわ」
「そうですか。まずは輸入が増えることが重要ですよね」
「経由地になるデーウェンの方にも多くの品が入るから、その影響で茶葉やコーヒーの価格が徐々に下がるだろうって。リーナ様のおかげでエルグラードもデーウェンもカルナッドも得得得まみれよ!」
「良かったです!」
「私にもお話をさせてくれないかしら? ピアノの演奏会のことで打ち合わせをしないといけないわ」
メロディがそう言うと、ラブとリーナはハッとした。
「そうでした!」
「まずはそっちの予定をこなさないとね!」
「会場を確認したいのですが、今日中に見ることができるでしょうか?」
「案内できるように指示してあります。必要なものは手配するので、なんでも言ってください。オーケストラの方も準備とリハーサルをしますので、一緒に練習するための時間調整をした方がいいですよね?」
「お願いします」
「頑張ってね」
ラブはメロディの準備に付き合うつもりはなかった。
「私はリーナ様と一緒におしゃべりタイムだから!」
「さっさと私を見捨てる気ね?」
「私は演奏者じゃないし、打ち合わせの話を聞いていることしかできないもの。でも、大丈夫。護衛を分けてあげるから」
「ところで、今夜の夕食を一緒にどうですか? ラブとメロディとディヴァレー伯爵を招待したいと考えています」
「ぜひ!」
「光栄です!」
ラブとメロディは即決した。
「お兄様からディヴァレー伯爵にも確認すると思います。到着したばかりですので、まずは各自でやるべきことをやるということにしましょうか」
「了解!」
「わかりました」
一旦は解散。
ラブたちが来たことで、リーナのやる気はますます増えていった。





