1210 盛沢山
ヴェリオール大公妃のグループが王太子領で誕生!
その名称は『緑の守護団』!
リーナが新設したグループのことが新聞に載った。
ボランティア活動をするためのグループだが、参加希望者数があっという間に数万人になってしまったため、全員が活動するために集まる場所や日時を設定するのが難しくなってしまった。
そこで団員は運営団員と協力団員に分けられることになった。
運営団員は協力団員の中から選抜された者で、年間を通して緑の守護団がどのようなことをするのかを考え、イベント等の企画をする。
企画内容が決まるとイベントの主催者側になりたい協力団員を募って実行委員会を作り、実行委員会が詳細を決定して実行に移す。
団員は任意で一人一人が無理をしない程度に活動すればよく、会費もない。
新設だけに少しずつ模索しながら体制を整えるが、基本的な運営の費用は主催者であるヴェリオール大公妃が負担する方向で、イベント費用についてはチケットの販売、物販等の売り上げで賄う。
活動内容の告知募集については緑の守護団本部あるいは支部の掲示板で公示するため、団員が各自で都合がつく際に確認するという内容が報じられた。
「但し、緑の守護団の活動に協賛してくれる新聞と雑誌にも掲載される予定だって?」
「社会貢献活動のために無料で緑の守護団についての掲載をしてくれるわけね」
「緑の守護団を取材して記事にするだけだな」
「掲示板を見て丸写しするだけでいい」
「対象の新聞や雑誌を買って見れば、わざわざ掲示板を確認する必要はないわけだ」
「便利だな」
「いちいち団員に告知の手紙を送っていたら、その費用だけで大変だもの」
「経費節減になるわね。頭が良いわ!」
「新聞社や雑誌社はこぞって協賛するだろうな」
「団員が買ってくれるものね」
「興味がある者も買うだろう」
「専用コーナーを設けるかもしれない」
「ヴェリオール大公妃が主催する社会貢献活動への支援をすれば、その新聞や雑誌のイメージもよくなる」
「それで、どの新聞や雑誌が対象なんだ?」
王太子領民は自分達が普段から愛読している新聞や雑誌が、緑の守護団の活動内容や告知募集を掲載するのかどうかが気になった。
新聞社や雑誌社に問い合わせが殺到した。
そして、
当社は緑の守護団に協賛しています。新聞にて最新の緑の守護団の活動内容及び告知募集を確認できます。
今後発行される雑誌については緑の守護団の特別コーナーを設け、掲示板の内容を記載いたします。
社会貢献と正確な情報伝達のため、緑の守護団に協賛します。ご安心の上、引き続き愛読ください。
などといった告知が各新聞や雑誌に掲載された。
これで新聞社と雑誌社は大丈夫だろうと思った。
ところが、その次はどうやって緑の守護団に入ればいいのか、連絡先はなどの問い合わせが日に日に増えていった。
「ヘンリエッタ、ちょっといいですか?」
「はい。何か?」
ヘンリエッタは遠方視察の後発隊に配置され、移住する子供達の面倒を見る侍女達を束ねる責任者を務めていた。
王太子宮に到着してからは移住する子供達全員の世話についての担当責任者になっていたためにリーナの側につくことはできなかったが、ようやくリーナの所に顔を出せるようになっていた。
「孤児院の方ですが、特別本部から何か聞いていませんか?」
「申し訳ございません。まだ、書類が届いていません」
孤児院の建物に対する改善については、福祉省内に作った特別本部が試験的取り組みを参考にして手掛けることになった。
「孤児院への移動予定日の最終報告がありませんが?」
「孤児院の方で受け入れ準備中です」
王太子領への移住手続きが終わった子供達は、夏休み中に孤児院の方へ移ることになった。
「トピアリーの贈呈式については? 予定日はどうなりましたか?」
すべての孤児院に対してヴェリオール大公妃の名代が順次派遣され、トピアリーの贈呈式を行う。
その際、ヴェリオール大公妃からの贈り物として子供達に好きなカーテンと枕カバーを選んでもらうことにもなった。
「建物に対する改善が終わっている孤児院から贈呈式を行うことになりました。ですので、改善作業がいつ終わるのかを確認しなければなりません。その調査中のようです」
「私が贈呈式に出席したいと伝えていましたよね?」
「はい。ですが、領都は信じられないほど混雑しています。王太子軍が大反対しているようです」
リーナが公式に孤児院に行くと、相当な警備負担になってしまう。
安全第一ということで、リーナの公式外出は無理だというのが王太子軍の回答だった。
「側近の方も領都の混雑ぶりが異常だということを確認され、公式外出は無理だと思われているようです」
「お忍び外出ならできるでしょうか?」
「子供達のことを大切にしたい気持ちはわかります。ですが、ヴェリオール大公妃というお立場を考えますと、安全が第一ではないでしょうか? お忍びのつもりでも隠し通せるかわかりません。王太子領中の注目がリーナ様に集まっておりますので」
「一般人に溶け込む自信はあります。護衛が沢山いるせいで目立つ気がします」
「護衛がつかないわけがありません」
「リーナ様、庭園の一般公開の件でご相談をしたいのですが?」
様子を見ていたメイベルが尋ねた。
「あ、はい。どうぞ!」
クオンの許可が出たため、王太子宮の庭園の一般公開が八月から行われることになった。
すでにその告知は王太子宮の公式発表で行われており、報道機関によって王太子中に知られていた。
「宮殿長から報告があったのですが、事前に用意していたチケットがすべて完売してしまったそうです。追加発行するかどうか検討して欲しいということでした」
「もう完売ですか?」
チケット販売は開始されたばかり。
これほど早く完売してしまうというのはリーナの予想外だった。
「全然足りないという声が上がっているようです。ですが、王太子軍の送迎馬車の数からいって追加分には限度があるということです」
王太子宮の庭園の一般公開については門から庭園まで距離があるため、王太子軍が所有する馬車で送迎体制を整えることになった。
だが、警備のために多くの馬車が必要になることもあって、見学者のための馬車を確保できず、結果としてチケットの販売数も少なくなってしまっていた。
「警備が優先ですので、追加販売は難しいです。庭園の公開はお金儲けのためではないので、経費がかかり過ぎるのも困りますし」
「わかります。ですが、チケットを買えない者が多いことでの悪影響も懸念されております」
王太子宮にと追加販売を希望する要望が殺到することや完売したチケットの高額転売が発生する。
偽物のチケットが出回る可能性もある。
「それはセイフリード様にも指摘されたのですよね」
あまりにも多くの人々が殺到して見学できなくなる状況を防ぐため、入場チケットを発行して人数を絞ることになった。
その際、経費の一部はチケット代で回収することや偽造されないチケットを発行するようセイフリードから注意されていた。
「困りましたね。みんなが喜べるようにしたいのですが、安全や犯罪の抑制対策が必要ですし」
リーナはなんとかならないだろうかと考え込んだ。
「一日の見学者数を増やすのではなく、見学期間を延長する方向で検討しましょうか」
クオンが見学を許可したのは八月のみだったが、それを九月末まで延長して貰えばいい。
そうすれば延長分のチケットを発行でき、より多くの人々が庭園を見学できるようになるとリーナは思った。
「王都に伝令を送って確認しましょう」
「わかりました」
ドアがノックされた。
「失礼します」
部屋に来たオグデンの表情は浮かないものだった。
「領首相がご相談したいことがあるそうです。すぐに会議の予定を入れてもよろしいでしょうか?」
「構いません。もしかして、孤児院のことですか?」
「いいえ。王太子領のことです」
「私も庭園の一般公開のことでオグデンとお兄様に相談したいです。時間を貰えませんか?」
「それは後程と言うことで。まずは会議室の方へご移動ください」
リーナが会議室に移動すると、セイフリードとパスカル、沈痛な面持ちの重職者達が揃っていた。
どう見ても問題が起きたのは明らかだった。





