1206 直接呼びかけて
大会議の後は昼食時間を挟み、セイフリード主催の政治的な監査質問会が行われる予定だった。
リーナは自分の予定をお茶会の主催にしており、王太子宮、領政宮、軍本部に勤務する上位の女性達を招待した。
「お茶会に参加してくれてありがとう。早速ですが、皆を呼んだのはお茶会を楽しむためだけではありません。午前中の大会議で発表したことについて、守秘義務を課した上で話します」
リーナは緑の守護団についての説明をした。
「王都では貴族や裕福な女性達がグループを作って様々な社会貢献をするための活動をしています。王太子領では領民全員が労務という形で社会貢献をしているので、私的に社会貢献をするようなグループがないと聞きました。まずは緑の守護団についてどう思うのか正直に教えてくれませんか?」
「高潔な取り組みだと思います」
すぐに答えたのは総侍女長だった。
「私はヴェリオール大公妃の構想をお聞きして大変感銘を受けました。ですが、王太子領は自立心を尊んでいます。力を合わせて何かをやり遂げるのはいいとして、誰かの助けによってやり遂げるという方法は喜ばれないと思います」
「総侍女長のおっしゃる通りです」
女官長も同意した。
「王太子領民は誇り高いので、何でも自分でするということを大事にしています。他人の力を使わなければできないということを屈辱と感じてしまう者がいるのではないかと」
「おっしゃりたいことはわかるのですが、王都と同じようにはいかないこともあると思います。王太子領のやり方に合わせないとうまくいきません」
リーナの案は素晴らしい。
だが、王太子領には誰かに頼ることを嫌う風潮が強くある。
教育活動には熱が入るが、慈善活動には関心がない者が多い。自力でなんとかすべきであると思う者が多いという意見が出た。
「非情に聞こえるかもしれませんが、王太子領ではそれが普通なのです」
「軍事拠点だった歴史があるせいです、何かと厳しい風潮があるといいますか」
「周辺地域の治安を守っている王太子軍の本拠地でもありますので」
「王太子領は実力主義です。実力がなければ下の方になるのは当然です」
「能力がない者が重要視されないのは仕方がありません」
女性達の意見はリーナの想定内だった。
「王太子領が実力主義なのは知っています。でも、子供達の成長には個人差があります。小学校に入った途端、何でも自分でしろというのは厳しいというよりも酷だと感じます。偏った実力主義であることも気がかりです」
ヴィクトリアによる調査結果でわかったが、中学校の上位成績者には女性が多くいるにもかかわらず、進学も就職状況も男性よりはるかに厳しい。
官僚としての女性の採用枠は王宮以上に少ない。
王太子領では女性が活躍していると言われているが、給与や出世面で男性の方が優遇されている。
これらのことを考えると、男女間の差が大きい。
女性の実力が劣っているからではなく、偏った実力主義が社会的な常識になっているのだとリーナは話した。
「官僚には男性も女性もいますが、女性の大臣は一人もいません。その理由はクオン様が女性を差別しているからではありません。大臣になれそうな候補として女性が推薦されないのです。女性が男性と同じような実績を作れる環境もありません。教育については男女平等でも、それが就職や職場での平等につながっていないのです」
リーナの指摘が正しいと感じた女性達は表情を暗くした。
「誰かに認めて貰うのはとても大変です。努力をしても認められないことは普通にあるので、性別だけを理由にはできません。でも、クオン様は私の身分や出自、性別に関係なく努力していることを認めてくださいました。私も同じように努力している人々を認めていきます。緑の守護団は女性の優秀さや実力を証明する場になれます。女性の立場を向上させることにもつながるはずです」
女性達の表情が変わった。
「私は男女関係なく多くの人々が任意で参加してくれることを願っています。でも、会議に参加するのは男性ばかりなので、私の声は男性の方にだけ届く気がしました。そこでお茶会を開き、直接女性に声を届けたいと思いました。皆も女性の参加者を増やすために呼びかけてくれませんか?」
「わかりました」
総侍女長が答えた。
「侍女全員に通達します。参加するかどうかは任意ですが、多くの者が賛同するはずです」
「私も女官達に呼びかけます」
女官長も力強く答えた。
「領都にいる貴族の女性や裕福な女性に呼びかけることができそうな者はいませんか? 王都にいる貴族の女性や裕福な女性達のように社会貢献や慈善活動に興味を持って欲しいのです。緑の守護団が主催する催しに参加すれば、様々な価値観や活動があることを知ることができるはずです。どうでしょうか?」
「お力になれます!」
「私も!」
「家族に話します。コネがあるので」
「親族にも協力してくれるように伝えます」
「友人達に呼びかけます」
「私的なグループの方で宣伝します」
次々に協力の声が上がった。
「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいです。やっぱり王太子領の女性達は強くて頼もしいですね!」
リーナはにっこり微笑んだ。
「重要なお話はこれで終わりです。お茶会なので、一緒にお茶とお菓子を楽しみましょう。実は試食会も兼ねているのです」
「試食会ですか?」
「何か変わったものがあるのでしょうか?」
「今日のお茶会のために用意されたスイーツにはすべて野菜が入っています!」
リーナは満面の笑みを浮かべた。
「果物を使ったスイーツはよくあると思うのですが、野菜を使ったスイーツは珍しいですよね? 王宮の厨房部で作らせるという話が出ていたのですが、そのことが王太子宮の厨房部の耳に入ったらしく、ぜひ自分達も作ってみたいと言ってきたのです。どんな味に仕上がっているのか、皆で味見しましょう!」
「野菜入りのスイーツ!」
「珍しいですわ!」
「王宮の厨房部より先に試してしまうなんて!」
「さすが王太子宮の厨房部です!」
「凄いお茶会です!」
女性達は喜々として野菜入りスイーツの試食に取り掛かった。





