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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第二章 侍女編
120/1357

120 駄目出し



 数日後、ジェイルが来た。


 ロザンナが実家から連れて来た侍女のイブリンがリーナに化粧を施した。


 誰もが美しく変貌したリーナの姿に驚き、これなら絶対に合格できると確信した。


 ところが。


「よくない」


 ジェイルは駄目出しをした。


「なぜ?」


 尋ねたのはロザンナだった。


「以前会った時よりも美しく見えるからだ」

「美しいのは良いことでしょう? なぜ、以前よりも美しいとダメなの?」


 イブリンの仕事ぶりをみたロザンナは問題ないと思っていた。


 それだけに、ジェイルがなぜ駄目出しをするのか理解できなかった。


「侍女見習いは下の立場だ。上の立場である侍女やロザンナ嬢よりも目立ってはいけない。だが、このような姿では目を引いてしまう。元々美しいのであれば仕方がない。だが、化粧美人だ。化粧で調整できる」


 誰もが納得する理由だった。


 ジェイルはリーナの方に顔を向けた。


「それにしても驚いた。自身で化粧を施したのであれば褒めるが、短期間でここまで上達するのは難しい。他の者が化粧を施したのではないか?」

「イブリンがしたのよ」


 ロザンナが答えた。


「綺麗にお化粧すれば、二度とジェイル様に注意されないでしょう? 侍女見習いのせいでジェイル様が私のところに来なくなったら嫌だから、イブリンに命令したの」

「それでか」


 ジェイルはイブリンに視線を移した。


「特別な技能を持った侍女ということだな?」

「そうよ。お化粧や髪型を整えるのが得意なの」

「では、侍女見習いの化粧を全て落とし、最初から化粧をするようイブリンに命じることはできるか? どのように化粧を施せば、これだけ変化するのかに興味がある」

「いいわよ。イブリン、最初から化粧をやり直して」

「はい」


 リーナはもう一度化粧をやり直すことになった。


 特別にロザンナのバスルームでリーナの化粧が全部落とされ、ロザンナやジェイルの前で素顔の状態が確認された。


「さっきと全然違うわね!」


 全く化粧をしていないリーナは、若く素朴な可愛らしさがある顔つきだった。


「化粧を落とすと印象がだいぶ変わる」

「ドレスが全然似合っていないわ。大人っぽい雰囲気だもの」

「髪もほどけ。全部やり直しだ」


 リーナのアップになった髪がほどかれた。


 長い髪はリーナをより若く感じさせた。


「何歳なの?」

「十九歳です」

「私より一つ下なのね。十六歳位かと思ったわ」

「童顔か」

「では、化粧を始めます」


 イブリンは下地作りから取り掛かった。


 リーナは若く、購買部で売っている高級な化粧品を使用しているため、肌の状態はかなり良い。


 しっかりとした陰影をつけるだけではおかしく見えるが、その上に粉をはたくことで顔が立体的になり、肌色を美しく整えることができた。


 細かいパーツごとの化粧は控えめにすることで、派手さを抑えるようにする。


「化粧が終わりました。髪型を整えます」


 現在の状態では化粧を施した美人顔と何もしていない髪型が全く合っていない。


 そこで年上に見えるように髪をまとめてアップにする。


 露出がある制服と合わせるにもその方がよく、髪の流れを出すようにする。


 職種を考慮してシンプルに。ほつれ毛によって崩れてこないようにきっちり留める。


「終わりました」

「確かに腕がいい」


 ジェイルはイブリンの技術を評価した。


「ここまで変わるとは思っていなかった」

「若くて素朴な感じから、綺麗系の美人になったわ! これなら制服もおかしくないわね。さすがイブリンだわ!」

「お褒めに預かり光栄です」


 イブリンの口調は淡々としていたものの、その表情には自信と喜びが溢れていた。


「では、この者の化粧を落とせ。次はヘンリエッタが化粧をしろ」

「私が化粧をするのですか?」


 ヘンリエッタが驚いた。


「そうだ。筆頭侍女の技能を確認する」


 ヘンリエッタは眉をひそめた。


 化粧の腕に自信がないわけではないが、化粧の腕だけで判断されたくもなかった。


「美しくする必要はない。侍女見習いとして相応しい程度の化粧でいい」

「化粧道具がありません」

「私のものを貸してあげるわ。ヘンリエッタの腕前を見たいから」


 ロザンナが挑戦的な笑みを浮かべて言った。


「わかりました。ロザンナ様のものをお借りします」


 またしてもリーナの化粧が全て落とされ、髪もほどかれた。


 ヘンリエッタは下地用の化粧品を使わなかった。


 リーナの肌の状態がよく、わざわざ顔つきを変えるような化粧は必要ないと判断した。


 若く素朴な可愛らしさをそのままに、それでいて年齢相応にきちんとした印象を伝えるような化粧にした。


 髪型もイブリンとは違い、編み込みをしたアップスタイルだった。


 侍女見習いは何かと急いで動かなければならないことが多い。


 仕事中に短い毛が崩れて見目が悪くならないよう防止するためでもあった。


「終わりました。普段の勤務中はこの程度でいいかと。いかがでしょうか?」

「これでいい。これからはこの程度の化粧をするよう指導しろ」

「はい。ですが、ご心配には及びません。すでにこの者は化粧について学び、この程度の化粧については問題なくできるようになっております」

「改善できたのであればいい。他の者にも身だしなみについて注意するよう伝えろ」

「その点も問題ありません。この者と共にロザンナ様付きの侍女と侍女見習いは勉強会や臨時講習会をしております。各自で美意識を高めながら、技術の向上に努めております」

「わかった。王宮に戻る」


 ジェイルが椅子から立ち上がった。


「ジェイル様、お待ちになって。まだお話があるの」


 ロザンナが呼び止めた。


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