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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
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12 急な休み

 下働きの制服は灰色だったが、召使いの制服は紺色だ。


 白い帽子は縁部分にあしらわれたフリルの大きさが変わり、腰から下だけだったエプロンは、胸部分もあるものになった。


 リーナは召使いの制服に着替えると、下働きの制服・帽子・エプロンをまとめた。


「勿体ない」


 借金をしてまで高い制服代を支払った。だというのに、もう使わない。


 だが、仕方がない。召使いになった以上、下働きの制服は着用できない。


 リーナはため息をつくと、衣装部にもう一度向かった。


 無事に返却を終えてマーサの元に向かうと、一緒に昼食を取るよう言われた。


 召使いは一日三食。これから毎日、リーナは昼食を取ることができる。


 笑顔になったリーナを見てマーサも微笑んだ。


「元気が出たようですね」

「はい!」


 早めの時間のせいか食堂は空席が多く、それほど人もいない。


 だが、リーナは自分に注がれる視線を感じずにはいられなかった。


 リーナが昇格したことは制服の色を見れば明らかだ。


 若くして召使いになるのは採用時の評価が良かった証拠だが、リーナの場合は違う。


 下働きからわずか数カ月で昇格だ。


 普通に考えればエリートコースに乗ったということになる。


 リーナが昇格したことを知った者は驚くような表情をしながらジロジロと遠慮ない視線を注いだ。


 マーサもそのことに気づく。


 だが、昇格を隠す必要はない。堂々としていればいいだけだ。


「気にしないように」

「はい」


 リーナはマーサが一緒で良かったと思った。


 昇格したのは嬉しいが、周囲がどう思うかについては考えていなかった。


「貴方が昇格したのは、私が教えたことをしっかり守り、真面目に真摯に仕事をしたからです。そのことを忘れてはいけません」

「はい」

「召使いになった以上、今まで以上に真摯に仕事に励みなさい。経験は少なくても勤勉さと能力で周囲を納得させ、理解して貰えるよう努めるのです。わかりましたね?」

「わかりました」


 リーナはしっかりと頷いた。


 マーサの言う通り、これからも頑張るしかないと思った。


 食事が終わると、リーナは休んでいいと言われた。


 リーナはこれまで一日も休みをとっていない。


 試用期間や見習いの間は元々休みがないが、下働きは希望すれば休みが取れる。


 但し、休みをいれると評価が下がり、給与が減る可能性もある。


 借金を早く返したいリーナは休みをいれていなかった。

 

 正直に言えば、休みを入れてもすることがない。


 孤児院育ちのため、余裕がある生活環境ではなかった。


 趣味はない。持ち込んだ私物もほとんどない。


 購買部に行けば本や裁縫道具を買うこともできるが、借金が増えると思うと買う気がしない。


 自由時間は誰かと会話をするか、寝るか、立ち入り可能な場所を散歩という名目でうろつくようなことしかできない。


「マーサ様」

「何ですか?」

「お仕事をいただけませんか? 少しでも早く借金を返したいのです」


 マーサはリーナの勤勉さを褒め称えたくなった。


 だが、仕事は与えられない。


 これからリーナの新しい仕事を考えるのだ。


「休んでも給与は減りません。昇格した褒美のようなものです。ゆっくり体を休めなさい」

「でも、特にすることがありません」

「では、挨拶に行きなさい」


 マーサはメリーネに昇格の報告と挨拶をしにいくことを提案したため、リーナはそうすることにした。


 リーナは地上に出ると、一階にある侍女見習いの休憩室に向かった。

 

 リーナはメリーネとほとんど会うことがないため、この時間にどこにいるのか知らなかった。


 二階にあるという侍女の休憩室さえも知らない。


 そこで侍女見習いの休憩室に行き、侍女の休憩室がどこか教えて貰おうと思った。


 だが、侍女見習いの休憩室には誰もいなかった。


 最も込み合う昼食時間のせいかもしれない。


 リーナは困ってしまった。


 これでは侍女の休憩室がどこにあるのかわからない。


 周囲にも全くひと気がなく、偶然通りがかった者に聞くというのも無理そうだった。


 仕方なくリーナは一階を適当にうろつくことにした。


 そして会った者に侍女の休憩室がどこか尋ねようと思った。


 リーナは一階を歩き回るが、こういう時に限って誰もいない。


 地下の食堂にいって、上級召使いに聞けば……。


 リーナはそう思ったが、多くの視線を感じて居心地悪くなったことを思い出した。


 なんとなく行きたくない。


 今の時間にいけば、食堂は大混雑している。


 さっきよりも多くの視線が集まりそうで怖かった。


 リーナは途中にあった中庭まで戻り、ベンチに座って休憩することにした。


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