1195 大会議での追加
ヴェリオール大公妃と第四王子の一団が到着したことで、王太子宮内にいる人々の数は一気に増えた。
今回の遠方視察の目的は王太子から領主代理として派遣されたヴェリオール大公妃が領都に滞在しながら王太子領の福祉体制を主軸にして監査を行うことにある。
孤児院に問題がなければ、王都民から王太子領民になる子供達の手続きを行い、王太子領の孤児院に入れる予定だった。
ヴェリオール大公妃と第四王子関係者、王太子領の重職者を集めた全体会議が行われ、そのことが改めて通達された後、今後の滞在予定表及び内容を確認することになった。
すでにどのような滞在になるのかは到着前から計画され、側近と役職者で連絡を取りながら予定を組んでいる。
リーナとセイフリードはその内容を確認するだけの予定だった。
「ヴェリオール大公妃にお伺いいたします。こちらのご予定で問題はないでしょうか?」
領首相が発言した。
「追加して欲しいことがあります。王太子宮の庭園のことです」
リーナは昨日の内に庭園と庭師の問題をについて発言できるよう自分の考えをまとめておいた。
オグデンから報告された情報も合わせて検討した。
「私は王太子領に来てから、その魅力を随所に感じてきました。王太子領民の優しさと温かさ、クオン様への忠誠心の強さにも感動しました。だからこそ、庭園のことを聞いて驚きました」
王太子宮の維持費が年々上がっており、領首相は増額よりも節減をすべきだと判断した。
宮殿長は庭園に関わる経費が多いため、経費の削減案の検討を庭園管理部に指示した。
庭園管理部が経費の内訳を確認すると、最も多いのは人件費。
広大な菜園、果樹園、薬草園を維持するために大量の庭師、人手不足を補う臨時の庭師やアルバイトを募集している。
経費を削減するには人件費を抑えるしかない。庭師の解雇、庭園の縮小、維持費がかかりにくい庭園への変更といった案が出ている状態だ。
そのことは庭師達も知っており、庭園の現状維持を望んでいる。
ガーデンピクニックをした際、何とかして欲しいと懇願されたことをリーナは伝えた。
「この問題を解決するには、王太子宮の庭園についてしっかりと知っていなければなりません」
リーナは会議の出席者達を見回した。
「この件は議題に入っていないので、昼食時間を活用したいと思います。領首相と宮殿長にはすでに伝えていますが、会議の参加者は私と一緒に昼食を食べてください。以上です」
「かしこまりました」
領首相が全員を代表して答えた。
「セイフリード王子殿下、ご予定につきまして、何かありますでしょうか?」
「大学の視察を前倒ししたい。学生達の意見を聞けるようにして欲しい」
「わかりました。早急に大学側に連絡を取ります。他にはございませんか?」
「王太子軍の視察がないな?」
重職者達の表情が一瞬で変わった。
「リーナは女性だが、領主代理だ。王太子が来た時と同じく、軍本部の視察予定を入れろ」
「かしこまりました!」
嬉々として返事したのは王太子軍を指揮する軍統長。制服組のトップだった。
「オグデン、パスカル、何かあるか?」
「軍本部の視察について気になっておりました。セイフリード王子殿下の方からご指摘いただき、恐縮しております」
オグデンは丁寧に頭を下げた。
「別の点でもう一つ。予定表における視察はすべて日中です。夜間設備や夜間対応の状況がわかるような報告資料の作成を指摘しておきたいと思います」
「そうですね」
リーナはさすがオグデンだと思った。
「私からも要望を追加します。孤児院の夜間視察を入れて貰えませんか? 夕食の内容や対応がわかるような感じだと嬉しいです」
「夜間視察ですか?」
日中の視察が当然だと思っていた関係者は驚いた。
「お忍びの外出もしたいです。公式な視察ではなく、一般市民に混じって極秘に視察できるようなものだと嬉しいです。もっともっと王太子領民やその生活状況を知りたいのです」
「わかりました。その件につきましては改めて側近と関係者で話し合います」
突然の要望だけに領首相も答えにくいだろうと感じたパスカルが発言した。
その対応に誰もがホッとした表情を浮かべたが、
「僕もお忍びで外出する」
セイフリードも追加で要望を出した。
「公式視察はすべてが万全に整えられている。問題がなさそうな場所を見て問題ないとするだけでは不十分だ。僕やリーナ、王都から来た者の視点から王太子領を見る。そして、気づいたことを活かし、王太子領民の幸せや安泰につなげたい」
「わかりました。調整いたします」
パスカルが答えた。
「王太子宮の庭園につきましても、王太子領民の幸せと安泰につながるようになればと思われます」
オグデンが付け足した。
「そうですね!」
リーナもまたそうなって欲しい、自分がそうなるよう改善したいと思っていた。
「ヴェリオール大公妃、午前中はここまでにしては? 昼食は外になりますので、遅延しない方がいいかと」
「午前中の会議はこれで終わりにします。温室での昼食を楽しみに行きましょう」
リーナが満面の笑みで宣言した。
温室で?
食堂ではなく?
会議出席者のほとんどが驚くことになった。
急遽追加された温室の昼食会だったが、会議の参加者全員が出席を表明した。
重職者達は廊下にズラリと待機していた部下に素早く指示を与え、リーナと一緒に庭園に向かった。
「天気が良いですね」
広がる青空を見てリーナは笑みを浮かべた。
「晴れていると、それだけで元気が出ます。青い空って本当に綺麗ですよね」
そうなのか。
ヴェリオール大公妃の元気の秘訣は天気か。
雨だと元気がでないということだろうか?
王太子領の重職者達は心の中でそれぞれ考えを巡らせた。
「本当は敷物を敷いて、ガーデンピクニックを楽しみたかったのですが、サンドイッチだけだと午後の会議でパワーが出ないかなと思って」
「ご配慮いただきありがとうございます」
領首相が代表してお礼を伝えた。
「配慮というほどのことではないです。元々の昼食をお弁当箱に詰めて貰っただけなので」
王太子宮敷地内で働く者の食事時間、食べる場所、内容は決まっている。
住み込みの者は一日三食、通勤者は勤務時間に合わせた食事が無償で提供されていた。
「皆が普段どのような昼食を食べているのかわかりますね」
領首相達は驚き、少しだけ不安になった。
「宮殿長、大丈夫なのか?」
領首相はすぐに宮殿長と歩調を合わせ、小声で尋ねた。
「わからない。食事関連は厨房部が仕切っている。大きな催事は事前の確認があるが、日常食の確認はしない」
厨房部次第。
食堂に張り出される献立表を確認しておけばよかったと思う人々が続出した。
 





