119 ロザンナ
リーナはロザンナに呼び出された。
「貴方が私の足を引っ張っている侍女見習いね!」
リーナは困惑した。
これまで一度も会ったことがないロザンナに、なぜそのようなことを言われるのかがわからない。足を引っ張ったこともないと思った。
「ヘンリエッタ、この者をクビにして!」
「それはできません」
ヘンリエッタは冷静に答えた。
「側妃候補は後宮の人事に口を出すことはできません」
「だったら、ヘンリエッタがクビだと判断すればいいわ。上司でしょう?」
「できません」
「なぜ? この侍女見習いを庇う気?」
「人事権がありません」
後宮で人事権を持つのはかなりの上位者のみ。
側妃候補付きは筆頭侍女であっても人事権がないことが説明された。
「側妃も同じです。側妃には侍女をやめさせる権限がありません」
「側妃でも侍女を解雇できないの?」
ロザンナは驚いた。
「どうして? 後宮で最も偉いのは側妃でしょう? それとも正妃なの?」
「後宮の頂点に立つのは国王です。人事権は国王にあります」
「それはわかるけれど……いちいち侍女見習いを解雇するのに国王の許可がいるの?」
「後宮の役職や権限は複雑です。側妃候補付きについては特殊な人事権を持つ者だけしか判断できません。第二王子殿下であれば、人事権をお持ちだと思われます」
「だったらエゼルバード様に手紙を出すわ」
リーナは落ち込んだ。
ロジャーのおかげで貴族として後宮に就職できたというのに、側妃候補の不興を買って解雇になりそうだと思った。
「ロザンナ様にお伺いしたいことがあります。この者とは面識がないはず。だというのに、なぜ足を引っ張っていると思われたのでしょうか?」
ロザンナがリーナを解雇したがる理由をヘンリエッタは知らない。何らかの誤解があるのではないかと思っていた。
「ジェイル様に何度も注意を受けたと聞いたわ。そんな者を側に置くのは嫌に決まっているでしょう? ジェイル様の機嫌を損ねるということは、第二王子殿下の機嫌を損ねるのと同じなのよ!」
「ご心配は無用です。化粧について注意されたのは事実ですが、すでに改善しております」
「化粧? 素行が悪いわけではなかったのね」
ロザンナは注意の内容を知らなかった。
「見たところ、普通よね? 以前はどんな化粧をしていたの?」
「口紅だけでした。もっと化粧をするよう言われたのです」
「ああ、そういうこと」
ロザンナは呆れたように答えた。
「ずっと口紅だけしかつけていなくて、何度も注意されたのね?」
「いいえ。二度目は化粧が濃いと言われました」
「濃い? 大人しそうに見えるけれど、本当は派手好きなの?」
「いいえ。年上の侍女が化粧の仕方を教えていた時で、普段よりも濃い目の化粧をしている状態でした。ジェイル様は若さや侍女見習いの立場を考慮され、もっと控えめにするようおっしゃられたのです」
「侍女ならいいけれど、侍女見習いとしてはダメな化粧だったということ?」
「そうです。現在は程よく適切な化粧をするよう心がけていますので、次回は問題ないかと。そうなりますと、第二王子殿下に手紙を出す意味はなく、かえって側近の方々の手を煩わせることになってしまい、ロザンナ様にとってよくないのではないかと思われます」
ロザンナは考え込んだ。
「……そうかもしれないわね。またジェイル様に注意されたら、解雇してくれるように言うわ」
ロザンナは実家から連れて来た侍女のイブリンを見た。
「イブリン、今度ジェイル様が来る時は、この侍女見習いに化粧をしてあげなさい。綺麗に仕上げて、私の侍女が優秀であることを証明するのよ」
「かしこまりました」
イブリンは自信満々に頷いた。





