118 化粧
リーナがジェイルに注意されたことをきっかけに行われた勉強会は大好評だった。
ロザンナ付きの侍女見習いは全員が侍女への昇格を目指し、侍女も出世するために自身の能力、技能、知識を向上させようと思った。
その影響で、勤務中の待機時間を利用した臨時講習会が開かれるようになった。
同僚同士の会話も世間話や愚痴から化粧や髪型、衣装に関する話題に変わり、互いに評価し合ったり、改善点を教え合うようになった。
リーナのおかげね。
ロザンナ付きの筆頭侍女を務めるヘンリエッタは、バラバラだった全員が一つにまとまったことを喜んでいた。
リーナは仕事にも勉強にも真面目に取り組み、誰に対しても親切で優しく接していた。
ロザンナ付きにおけるリーナの評価は日に日に高まり、周囲の信用を築いていった。
翌月。
第二王子の側近ジェイルがロザンナの様子を見に来た。
ジェイルはロザンナ付きの侍女見習いに注意したことを覚えており、ヘンリエッタに化粧の改善をしたかどうかを確認すると伝えた。
「いかがでしょうか?」
呼び出されたリーナをじっと見つめていたジェイルはため息をついた。
「よくない。化粧をしすぎだ」
ジェイルは容姿端麗で冷たい印象がある。
そのせいもあって、余計にその口調は厳しく聞こえた。
「側妃候補付きの制服は露出が多い」
通常の侍女や侍女見習いの制服は誰にでも合いやすい無難なデザインになっている。
しかし、側妃候補付きの侍女や侍女見習いの制服はお洒落度を重視している。
体型を良く見せるためにウェストが細く作られ、胸の部分が少し開いているデザインだった。
「今の化粧は夜会に行く時のようにしっかりとしている。制服と合わせることによって効果が増す。大人の女性に見えると思っているのかもしれないが、私から見ると品がない」
リーナは肩を落とした。
「まだ若い。侍女見習いだ。露出の少ない制服にすることができない以上、化粧で調整するしかない。改善しろ」
ジェイルは行ってしまった。
「ヘンリエッタ様、申し訳ありません。また注意されてしまいました」
「そうですね」
ヘンリエッタはリーナを見るとため息をついた。
「いつも薄化粧だというのに、なぜ濃くなっているのですか?」
「昼休みに化粧の臨時講習会があり、親切な先輩方が細かく手直しをしてくれました」
やはりとヘンリエッタは思った。
昼休みの時間に侍女たちがリーナの化粧を直した。
侍女たちの平均年齢はリーナよりも上で、しっかりと化粧をする者がほとんど。
リーナの化粧はかなりの薄さに感じてしまうため、しっかりと化粧をした。
その結果、リーナの年齢や侍女見習いの立場に合わなくなってしまい、制服とのバランスも悪くなってしまった。
「私たちの制服は胸元のデザインが特徴的で、他の側妃候補付きと比較した時に露出が多いと思われてしまいます。胸元を隠すような工夫をするといいのですが、裁縫は得意ですか?」
「いいえ」
孤児院にいた頃に裁縫を習ったが、遅くて下手だと言われてしまい、内職係から外されてしまったことをリーナは思い出した。
「視線を上に向けるイヤリング、ネックレス、ペンダントなどを持っていますか?」
「持っていません」
「化粧で調整するしかなさそうです。いつジェイル様が来てもいいよう薄化粧にしなさい」
「わかりました」
この件はロザンナ付きの全員に通達され、次にジェイルが来た時には絶対に合格をもらえるように協力するよう伝えられた。
「リーナ、本当にごめんなさい」
「反省しているわ」
リーナの化粧を直した侍女たちは責任を感じたが、リーナは優しく微笑んだ。
「大丈夫です。化粧を衣装や状況に合わせ、適切に調整しなければならないことの大切さを学ぶことができました。次こそは絶対に合格をいただけるように頑張ります!」
「応援しているわ!」
「わからないことは聞いて!」
「相談に乗るわ!」
「ありがとうございます。ますますやる気が出ました! 頑張ります!」
リーナの言葉は全員のやる気と強い結束につながった。





