1165 大増強
王太子府では王子府との合同会議が行われていた。
進行役は王太子の側近キルヒウス。
「王太子殿下はヴェリオール大公として王都の行政及び警察権に関わる。よって、王太子府内にヴェリオール大公の部署を新設する」
これまでは都知事と王都警備隊に任せて来たが、孤児院問題が発生した際の対応は遅く不十分だった。
そのせいで多くの人々の不安が増大し、社会的混乱が発生。
孤児院は多大な被害を受け、閉鎖や廃院に追い込まれた。
このような状況は前例がなく、王太子がヴェリオール大公令を出さなければ、王都の状況はより悪化していたかもしれない。
再発を防止するためにも、孤児院改革は必須であり急務だと判断された。
「王太子殿下は兼ねてより、エルグラード全土において貧富の差が広がっていることを懸念されていた」
エルグラードは国として繁栄している。身分社会でもある。
だが、過剰な格差社会は歓迎できない。
内務の見地から見ると、このままでは富の再分配が適切に行われず、国民は富裕層と貧困層という二極化へと進む。
中間層が減り続けるほど国内消費が落ち込み、国内経済が低迷。負の連鎖が起きる。
それを防ぐためには中間層と貧困層を支援していくことが重要。
まずは福祉政策を強化。貧困層を中間層へ押し上げる支援を積極的に進めながら、中間層の減少及び没落を阻止する対策を検討する。
加えて、富裕層の富が国内に流れるような施策を検討することをキルヒウスは説明した。
「施策に応じた特別対策室を設置。孤児院の改革についてはヴェリオール大公妃も担当者に抜擢する」
王子府内にあるヴェリオール大公妃の部署も人員を増強し、増えていく役割に対応できるようにしていくことをキルヒウスは説明した。
「次はブレア公爵から説明がある」
「ヴェリオール大公妃の執務を三つに分けることになった」
すでに実行しているのは二つ。
一つは王太子の妻として公式行事に参加すること。
本来は王太子妃の役目で、側妃は任意。しかし、王太子の妻はヴェリオール大公妃しかいない。
必然的に唯一の妻であるヴェリオール大公妃が妃の代わりをすることになる。
もう一つは後宮統括補佐として後宮改革を進めること。
後宮が持つ王宮や森林宮への支援力を強化しながら、黒字化運営を目指した取り組みをする。
そして、新たに王都の孤児院改革を進める執務が加わる。
「元孤児だったヴェリオール大公妃は孤児院の現状が決して十分ではないことを誰よりもよくご存知だ。しかし、国の対応は不十分である」
国の対応はエルグラード全土に対して行われる。
不公平にならないよう一律的な対応が主軸になり、地域によって効果の差が大きかった。
「王都は孤児の数が多いことから民間の孤児院を支援する体制になった。しかし、孤児院の数ばかりに目が向き、その質を問う意識と取り組みが甘かった。ヴェリオール大公妃は公務によって、この点を積極的に改善していくことを希望している」
王妃は孤児院も含めた視察公務を行い、優良とされた対象の評価を高めることによって外部からの支援を強化させたり、競合相手の意欲を高めたりするような取り組みをしている。
しかし、優良かどうかの選定が甘ければ、不良対象を優良として誤認してしまうばかりか、不良対象を支援することになってしまう。
王家の威信と名誉を守るためにも、誤認を防ぐ取り組みは必須。
リーナが要望する公務は極めて重要だった。
「王太子殿下はヴェリオール大公妃が持つ能力を評価されている。後宮改革を見てもヴェリオール大公妃の独自性や優秀さは目を見張るものがある。森林宮に避難した子供達への対応も迅速かつ的確だった」
当初は約六百人の孤児を受け入れることに関係者は多くの不安を抱えていた。
食糧や物資は時間さえあれば調達できるが、派遣できる人員数には限りがある。
統制の取れていない子供達に対してどのように対応すればいいのかと思っていた。
ところが、リーナは各孤児院の最年長者の一人をリーダー、もう一人を副リーダーにした。
避難生活をする上で必要と思われる担当係を決め、現場担当者と子供達が協力し合う体制を速攻で作り上げた。
現場担当者の懸念は解消、負担も軽減。
子供達の心身が落ち着いた頃を見計らい、年長の子供は森林宮の下働き見習いとして採用した。
経費はかかるが、派遣者の日給と比べると格安の代理要員。子供の面倒を見るという仕事についても慣れている。適材適所でありつつも、最小経費で済む方法だ。
子供達も森林宮での雇用と職業訓練の経歴を手に入れることができ、小遣いも稼げる。
避難する側にも避難者を受け入れる側にも両得で、派遣人員のほとんどが通常業務に戻ることができたため、王宮や後宮に支障は全く出ていない。
子供達の順応も早く、学習や運動を行う日課制が実施されていることをブレア公爵は伝えた。
「森林宮は避難所でありつつも優良な孤児院であり、学校としての役割までも果たしている。ヴェリオール大公妃が指揮した結果、最高の避難対応ができている」
ヴェリオール大公妃が王都の孤児院改革を進める担当に選ばれたのは、その後宮や森林宮での実績があるからだ。
王太子の判断は公明正大、適材適所、能力主義による決定だった。
多くの子供達の命運にかかわるだけに、ヴェリオール大公妃付きだけでなく王子府、そして王太子府の者は全力で支えていかなければならないとブレア公爵は主張した。
「我々は王族付きの官僚だ。選ばれた栄誉に値する実力を示さなければならない。王太子殿下のため、心優しきヴェリオール大公妃のため、そして善良な国民のために英知を絞り、力を結集して欲しい。説明を終わる」
王族付き官僚の心と力が結集した大拍手が起きた。
やがて、会議が終了。
多くの者はキルヒウスの所へと向かった。
「キルヒウス、おめでとう」
「そろそろではないかと思っていた」
祝いの言葉が途切れることなく飛び交った。
その理由はキルヒウスの妻であるカミーラが懐妊したことにある。
まだ本人達も家の方からも一切発表はしていない。
だが、体調不良のカミーラが王宮内にある医務室を利用し、キルヒウスが緊急として呼ばれた。
診療内容については秘密に決まっているが、医務室がどんな対応をしているかはわかる。
その結果、どう考えても妊娠だろうとなり、王宮中に知れ渡った。
「近日中に公表する。今後は妻への言動を気遣って欲しい。より大変になる」
さすがだと思いながら官僚達が頷いた。
「側近補佐だが、退職するのか?」
尋ねたのは第二王子の筆頭側近であるロジャー。
誰もが確認したいことではあるが、極めて聞きにくいことでもあった。
全員の気持ちを理解しているロジャーに対してもさすがだと官僚達は思った。
「話し合いをしている。ウェズローにも聞いている」
王太子付き女官を務めるアリシア・ウェズロー子爵夫人も妊娠中。
すぐに退職をする予定はない。
「大変だ」
「まあ、あちこちで同じような状態だ」
「婚姻も懐妊も多い年になりそうだからな」
王太子が婚姻した影響は非常に大きい。
王太子府と王子府の官僚に対しては特に。
「女性の社会進出がより重要になっていく。家族の女性に官僚試験か侍女試験に合格しているかどうかを確認しておいた方がいいかもしれない」
キルヒウスの言葉に官僚達の目の色が変わった。
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貴重な情報であるのは間違いない!
王太子の側近中の側近であるキルヒウスが婚姻した影響もまた非常に大きかった。





