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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
114/1357

114 ウェストランド



 セブンは王宮に戻って仕事をするつもりだったが、ウェストランド公爵とゼファード侯爵から時間を取るように言われた。


 三人が向かったのはウェストランド公爵家が所有する最高級ホテルのオーナーズルーム。


 かつて小さな王国を治めていた者の末裔は、ホテル王になっていた。


「早速だが、リリーナ・エーメルのことだ。さすがに身分が低すぎる」


 ウェストランド公爵は反対を表明した。


「上級貴族の養女にすればいい」


 セブンは家族の反対に対する案を考えていた。


「あてがあるのか?」

「ありすぎるほどだ」

「悪くないが、いかにも体裁を整えている。問題にならないか?」

「爵位継承に関しては問題ない」


 ウェストランド公爵家は多くの特権を持っている。


 その中には爵位保持者がどのような相手と婚姻を結んでもペナルティは一切なく、国王は無条件で承認するというものがあった。


 身分の低い貴族どころか平民であっても妻にすることができる。


 しかし、社交界の話題になるのは必至。様々な噂が出ることによって、悪い印象を与えてしまう可能性があった。


「プルーデンスが質問をしていたが、今夜会うのが二回目ということだった。まだはっきりとは決めていないということか?」

「家族に紹介することは決めた」

「あの者に好意を持っているのか?」

「持っている」


 女性に対する言葉としては初めての答え。


 ウェストランド公爵とゼファード侯爵は大きな衝撃を受けた。


「リリーナが王立歌劇場に来た日があった。エゼルバードが出席する時だ。遠くから見ただけだったが、好ましいと感じた。ノースランド公爵家に行った時は至近距離で確認した。その結果、今夜引き合わせることにした」

「一目惚れしたのか? 美人ではないと思うが?」

「優れた部分があるようには見えなかったが?」


 いかに美人かを重視する祖父といかに優れているかを重視する父親は、信じられないといった表情をしていた。


「私は特別な身分の家に生まれたが、そのせいで黒く染まることを当然とされた。自らの手を血で染め、穢れることさえ意に介さない。そのような一族と共に生きるよう強制されている」


 祖父と父親は無言。


「リリーナは不幸な環境で育った。だというのに、心が穢れていない。内面の美しさによって私の穢れを消し去ってくれる気がした」


 セブンは自身の心を守るため、清浄さを感じられる女性を望んでいる。


 そう感じたウェストランド公爵とゼファード侯爵は深いため息をついた。


「詳しく調査した上で、最終的な判断をする」

「それがいいと思う」


 二人の反応はセブンの予想通りだった。


「後宮で侍女見習いの求人がある。リリーナはそれに応募する。その間にじっくりと見極めればいい」

「後宮で働くのか」

「安全対策をこちらでする必要はなさそうだ」

「私自身もより多くの考慮がしたい。正式な交際を申し込むつもりはない。判断を変える可能性はある。私と女性が挨拶するだけで一喜一憂する者が多くいるため、動揺しないよう伝えたかっただけだ」

「そうか。では、その間に調査する」

「詳しく調べなければならない」


 ウェストランド公爵とゼファード侯爵はセブンの説明に納得した。


「私は第二王子の側近だ。仕事が多くある。王宮に戻る」


 セブンは部屋を退出すると馬車の手配を言いつけ、ホテル内にある花屋に立ち寄った。


「部屋を埋め尽くすほどのバラを贈りたい。明日届けろ」


 後宮へ就職する前に花を贈ることで、自分のことをリーナに印象付けておこうとセブンは考えた。


「大変申し訳ございません。部屋のサイズがわからないと必要な本数がわかりません」


 店員は勇気を振り絞って答えた。


「明日ですと、王都中の花屋のバラを買い占める時間さえありません。部屋中にバラの花びらを敷き詰める演出にされてはいかがでしょうか?」

「花がいい。花びらではダメだ」


 相手はディヴァレー伯爵。いずれはウェストランドの当主になる人物。


 直接対応できるのは名誉だが、相手の反応次第で自分の人生が変わってしまうと店員は感じた。


「では、本数に想いを込められては? バラの花を何本贈るかで意味が違います」


 一本であれば一目惚れ、運命の相手という意味がある。


 三本は愛の告白、七本は密かな愛、片思いの相手に贈る意味になる。


 それ以外にも最愛、永遠の愛、結婚してほしいなどといった意味を本数であらわせることを店員は説明した。


「一覧表があるので、それをご覧になってお決めになってはいかがでしょうか?」

「一覧表を見せろ」


 店員が心底助かったと思う中、セブンは一覧表を確認した。


「一本にする。最高に美しいバラを贈れ」

「つぼみや大輪のバラなど、開き具合も選べますが」

「開きかけがいい」

「かしこまりました」





 翌日。


 ノースランド公爵家にいるリーナ宛でセブンから箱が届いた。


 安全確認のために中身を検分したヨランダや部屋付きの侍女達は驚いた。


「赤いバラ……」

「一本です」

「いかにも特別そうな箱です」

「リボンも」


 バラの意味は一目惚れ、あるいは運命の相手。


 どちらにせよ、愛の告白としてとらえていい。


 しかし、送り主のセブンはいずれ四大公爵家の一つであるウェストランドの当主になる者。


 リーナが見初められる可能性は極めて低そうだとヨランダたちは思った。


「社交辞令かもしれません」

「花の数が多いと勘違いされるということで、一本なのかもしれません」


 ロジャーに報告するための伝令が送られることになった。


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