113 パスカルとセブン
パスカルとセブンは王族席の間に付属する部屋の一つで話し合うことにした。
「私の方からです。なぜ、リリーナ嬢を黒のボックスに?」
パスカルはセシルから何が起きたのかを聞いていた。
「セシルがエスコートすることは、ノースランド子爵の許可を得ています。変更あるとは聞いていません。説明してください」
セブンはまっすぐにパスカルを見つめた。
「リリーナを妻にするかどうか検討するためだった」
突然の告白に、パスカルは驚きを隠せなかった。
「冗談はやめてください」
「冗談ではない」
はっきりとセブンは答えた。
「私と付き合う女性はなぜか不幸になる。そのせいで交際相手が見つかりにくい。交際が難しいのであれば、すぐに婚姻してしまえばいいだろう?」
わからなくもない。だが、わからない。
パスカルはそう思った。
「結婚しようと考えているのですか?」
「どのような人物かを調べる必要がある。そこで家族に会わせておくことにした」
「家族に会わせるほど気に入っているということですか?」
「交際するだけでも何かとうるさかった。同じようにしないためだ」
「一度会わせただけでうるさく言わないようにできると?」
「できる」
セブンは断言した。
「灰色の瞳だ。私と同じ色を持っている女性を気に入らないわけがない」
パスカルは驚きのあまり、言葉が出なかった。
「これまでの女性は違った。私が交際したかったわけではない。エゼルバードの寵愛を失った女性を誰かが引き取る必要があっただけだ」
エゼルバードの寵愛を失った女性たちは、すぐに友人の誰かの恋人になっていた。
それは友人たちが女性に対して好意を持っていたからではなく、女性の嫉妬や恨みといった悪意からエゼルバードを守るためであったことをセブンは説明した。
「不幸になるのはそのせいですか?」
「知らない。私から見れば偶然だが、交際をよく思わない者の仕業である可能性は否定できない」
ウェストランドが関与していると言われているのをパスカルは知っていた。
「情報がほしい。王太子はリリーナを気に入っているのか?」
パスカルは眉をひそめた。
「私が知っているわけがありません」
「では、ヘンデルはどうだ? 気に入っているのか?」
「わかりません。そのような話はしていません」
「そうか。何とも思っていないのであればいい。だが、私はリリーナを結婚相手として検討中だ。この件について口を出すのであれば、私と同じくリリーナを婚姻相手に選んだ者であるべきだ。それ以外の者がでしゃばるべきではない。赤の他人だろう? そう伝えておいてほしい」
「私を伝令役にするつもりだったわけですね」
それで話をすることに同意したのかとパスカルは思った。
「その代わり、特別な情報を教える。孤児院の件は知っているのか?」
「リーナ・セオドアルイーズのことなら知っています」
「孤児院の件に関して、表にしにくいことがあるのを聞いているか?」
「酷い環境で育ったことも、孤児院が犯罪組織に関連していることも知っています」
「話が早くていい。あの者はリリーナ・エーメルではないかもしれない」
パスカルは驚きのあまり目を見張った。
怪しいとは思っていたが、それをセブンが教えてくるとは思ってもみなかった。
「初期調査では捨て子だった。だが、再調査で貴族出自かもしれないという報告が上がった」
「リリーナ・エーメルに該当するということですね?」
「対象者が二人いたが、一人は違うと否定した」
初期調査において、リリーナ・エーメルではないかと思われた女性は違うと否定した。
そうなると、もう一人の方がリリーナ・エーメルかもしれない。
身内であるエーメル男爵に孫かどうかを確認させると、エーメル男爵が孫だと証言した。
その結果、リーナがリリーナ・エーメルだろうということになった。
通常の手続きをしただけ。不正ではないことをセブンは淡々と説明した。
「優しく真面目で努力家のリリーナは貴族になった。ノースランドで貴族らしい生活をしながら勉強をしている。ようやく救われたというのに、それを壊すのか?」
パスカルは何も言えなかった。
リーナが本当にリリーナ・エーメルかどうかわからない。
だが、リリーナ・エーメルになったことで、以前とは比べ物にならないほど恵まれた状況にいる。
リーナの幸せを願うのであれば、リリーナ・エーメルでいい。
セブンはそう言いたいのだとパスカルは思った。
「この説明で納得するならいい。だが、真実を求める者もいる。私だ。妻にするのであれば、知っておかなくてはならない。ウェストランドも同じように考える。必死になってリリーナを調べるだろう」
「そのために顔合わせをしたのですね?」
リーナの真の素性をウェストランドに調べさせるために。
「調査にどのぐらいかかるかはわからない。だが、悪いことではないだろう?」
「なぜ、私にそれを言うのですか?」
「王太子のためだ」
セブンは答えた。
「身元が不確定な者を王太子が傍に置くのは難しい。気に入ったとしても妻にはできない」
パスカルは牽制だと判断した。
「話は終わりだ」
「では、これで」
二人は部屋を出た。
廊下にはセシルがいた。
「リリーナを馬車に乗せたのですか?」
「はい。ノースランドの馬車で帰りました」
セブンは何も言わずにその場を離れていく。
パスカルはセシルに部屋へ入るよう言った。
今度はセシルと話し合う時間だった。





