1107 有効活用
いつもお読みいただきありがとうございます。
こちらの連載もあるのに、もう一つ連載してすみませんでした。
「聖女からの大降格」の方は無事完結しました。
予想以上に長くなってしまったのは物語をより細かく丁寧に書きたかったせいもありますが、作者の未熟さでもあるとは思っています。
正直、書けば書くほど愛着が出て終わりにくい……。
もしよろしければ「聖女からの大降格」の方も読んでいただけるととても嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします!
騎士達が用意した敷物の上で、リーナは侍女達と共にピクニックスタイルの昼食を楽しんでいた。
リーナの散策に同行していなかった者も呼ばれ、庭園の様子や見所、発見した場所などを話題にして情報を共有する。
「さすが王宮の庭園です。後宮の庭園とは違いますね!」
リーナも後宮の侍女達も美味しい食事と会話を楽しんでいた。
そこへ第四王子騎士団の騎士が先触れとしてやって来た。
「ヴェリオール大公妃にお伝え申し上げます。セイフリード王子殿下がこちらへお見えになられます」
「セイフリード様が!」
リーナも侍女達も驚いた。
「ポテトを食べてしまわないと!」
「昼食が残り少ない者は食べきるように!」
「食べ終えるまでに時間がかかりそうな者は別の場所に移動を!」
「ヘンリエッタ様、水のボトルはいかがいたしましょうか?」
「必要ないものは片付けなさい。リーナ様は……まだご入用ですね」
リーナは口をもぐもぐさせながら頷いた。
「容器は再利用されます。バランスよく綺麗に台車へ積みなさい。その方が運びやすいでしょう」
「はい!」
「わかりました!」
「ただちに!」
きびきびと侍女達が動き出した。
その状況が落ち着いた頃、一旦戻ったパスカルを伴ってセイフリードが現れた。
リーナはセイフリードが来るのに合わせて立ち上がると深々と一礼した。
「リーナは家族だ。座っていればいい」
「はい」
「パスカルも座っていい。僕と逆側に行け。その方が話しやすい」
「ご配慮いただきありがとうございます」
三人は敷物に座った。
「もしかして、ランチボックスのことでしょうか?」
早速、リーナはセイフリードが来た目的について尋ねた。
「そうだ。美味しかったか?」
「とても美味しかったです! 素晴らしいお弁当だと思いました!」
リーナは思った通りの感想を伝えた。
「十ギールと聞いてどんなものかと思いましたが、かなりのお得ですよね!」
彩りよく綺麗に並べたロールパンの弁当はどれも美味しそうだった。
具の種類も様々。
カップにつまみやすいものがセットされ、栄養面についてもバランスが良くなるよう配慮されている。
リーナは次々と良かったと思う点を挙げた。
「悪かった点も聞こう」
セイフリードとしては本格的な販売の前に改善部分があるかどうかを確認したかった。
「揚げ物は冷めると軟らかくなりますよね。お弁当は購入してすぐに食べるとは限りません。味が落ちないかが気になりました」
「揚げ物が美味しくなかったのか?」
「冷えたものだと考えれば美味しかったです。でも、後宮の方でも揚げ物については気にしていました」
後宮でも揚げ物料理を作っている。
作りたては非常に美味しいが、提供する頃には冷めてしまう。
ソースをかけることでカリカリ感も失われやすくなってしまう。
それなら煮たりふかしたりするような料理の方が良いのではないかという意見も出ていたことをリーナは伝えた。
「ポテトサラダは冷えていても何も思われません。でも、コロッケだと温かい方がいいと思われてしまいますよね?」
「材料を切って揚げる調理は作業をしやすいのかもしれませんが、味が落ちることがわかっているなら茹でたお芋の方がいいかもしれませんよね」
「時間が経過しても美味しいかどうかを重視しろということか」
官僚食堂のメニューは温かさにこだわっているが、弁当も同じようにはいかない。
弁当は弁当。最適なメニューと作業の段取りをしっかりと考えなければならないとセイフリードは思った。
「いつもは付け合わせではなく、焼いただけのようなパンが入っていると聞いたのですが?」
「ボリュームを調整した」
官僚の多くは男性だけにボリュームを考えてパンを三つにしているが、避難訓練で後宮から王宮に来るのは女性ばかり。
そこでパンを一つ減らしてカップに詰めた別のものにしたことをセイフリードは話した。
「男性はボリュームや肉入りかにこだわる。女性は彩りや栄養面、野菜があるかにこだわると分析した」
「なるほど」
「弁当は季節や状況に応じた二種類を販売していきたい。パンが三種のものと、パン二種と付け合わせのものだ」
付け合わせは保管されている食材で消費期限が近いものや半端な数量なものを活用するために作る。
「王宮では日々多くの食品が廃棄されている。それをゼロにすれば相当な節減になる」
催事の飲食物は王宮開催の威信にかけて少なくするわけにはいかない。
しかし、住み込みの食事や官僚食堂が手掛ける食事については対策がしやすい。
リーナが後宮において食材を無駄にしないよう調理部に通達したように、セイフリードも王宮において食材を無駄にしないような取り組みをするつもりだった。
「後宮だけでなく王宮の取引業者も一部選定し直した。リーナとパスカルのおかげで交渉しやすかった」
「交渉?」
リーナは首をかしげた。
「私は何もしていないような?」
「エルグラードには良い品をできるだけ安く販売しようと思う良心的な商人がいるとトール男爵に力説したな?」
「……した気がします」
「これまでの取引先は既存の取引先や貴族の紹介先ばかりだったが、宰相府の後宮対応部は一般公募で新規の取引業者を公募した」
その結果、好条件を提示する取引先が多く見つかった。
「リーナとパスカルのおかげでホールランドとキーシュが動いたのが大きかった」
ホールランド公爵とキーシュ公爵は手を組み、共同事業者として後宮の業者選定に名乗りを上げた。
そのおかげで良質な農産物を大量に安く仕入れられることになった。
「官僚見習いにした甲斐があったな?」
「優秀な者は長期の展望を見据えます。官僚になる気があるのであれば、早めに加点評価を取りにいくべきかと」
「その通りだ。リーナもあの二人には目をかけてやるといい。王子府官僚になるかもしれないからな」
「ディランとアーヴィンのことですか?」
「そうだ。あの二人は中立派を掲げていたが、ヴェリオール大公妃の支持を表明することでヴェリオール妃派になった」
身分主義者や血統主義者は元平民で孤児だったリーナをよく思わない。
だが、身分主義者や血統主義者の子供世代の意見は決して大人世代と同じではないということが示された。
その意味は非常に大きい。
「未成年でも参加できるような催しがあれば、招待してやるといい。ヴェリオール大公妃派として協力してくれるはずだ」
「それは嬉しいですね!」
リーナは喜び、ふと公務のことを思い出した。
「そう言えば、公務で王立学校の視察に来て欲しいと言われていました。でも、後宮のことばかりで公務をしていませんね」
「純白の舞踏会は公務だよ」
パスカルが答えた。
「新婚旅行は王家の私的な行事だけど、地方視察の公務も兼ねる予定だった。四月には殿下の成人式もある。それも王家の行事と公務が一緒になったものだ」
ヴェリオール大公妃宛に国内外から多数の招待があるが、新婚旅行や国内の重要行事予定があるために不参加であることが説明された。
「新婚旅行がなくなったとはいえ、厳戒体制中だけに外出は難しいかな」
「後宮のことをしていればいい。カフェの準備があるだろう?」
「そうですね。新規店の準備もしていかないとですし、頑張ります!」
リーナは元気よく答えた。
「新規店?どんな店だ?」
セイフリードはリーナの言葉が気になった。
「衣装の販売店です」
「ああ、兄上が調査用に購入した物品か」
それについてはパスカルから報告があり、セイフリードの耳にも入っていた。
「貸し出し屋と古着屋も作ります」
売れにくい商品を貸し出したり古着を再活用することで、後宮や王宮内の人々が持つ衣料品や収納品の不足問題を解決できるのではないかと思っていることをリーナは説明した。
「兄上と古着屋に行って思いついたのか?」
どこへデートに行ったのかについてもセイフリードは把握していた。
「そうです! それから読書室、美容室、貸し部屋のサービスもしようと思っています」
経費をかけることなく既存の備品や人員だけで可能な新規店の案も考えた。
少しずつでもそのような案を実行し、利便性や居住性を高めながら後宮の経費節減、給与アップにつなげていきたいとリーナは語った。
「宰相閣下の許可が出るかわからないので、レイチェル、ヘンリエッタ、メリーネに実行可能かどうか細かく検討して貰っているところです」
「僕の方にも資料を回せ。月光宮のカフェと一緒に作れるかもしれない」
「カフェの側にあったら便利かもしれませんね!」
王宮とつながっている場所の多くは後宮購買部が占領しており、買物部もあるせいで部屋を選びにくい。
一部の店舗については月光宮に作るのも良さそうだとリーナは思った。
「衣装関連はかなりのスペースがいるだろう。火星宮の管理権についても聞いてみるか。先に第一側妃の了承が欲しい」
「早急に確認します」
パスカルが答えた。
「やることがいっぱいです。旅行がなくなった分の時間も有効活用しないとですね!」
リーナの言う通りだと全員が思っていた。
 





