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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1099 パスカルの騎士



 パスカルの執務室には四人の客がいた。


 パスカルは書類から目を離さず無言のままだったが、客同士は勝手に会話で盛り上がっていた。


「それにしてもパスカルは狡い」

「ちゃっかり手に入れたよね」

「使えない者を選ぶわけがない」

「騎士団にいる時点で勝負はついていた」


 客の名前はレイフィール、オスカー、グレゴリー、ロスター。


 四人が話題にしているのはパスカルの護衛として配属されるユーウェインのことだった。


「辺境出身のくせに騎士団に入るとは! 普通は国軍だろう!」


 全騎士団を見ても、辺境出身の騎士はユーウェインしかいない。


 それは辺境出身者が騎士団に入れないということではなく、辺境からはるばる王都に来て騎士団へ入ろうとする者がいないからだった。


 辺境の近くには必ず国有地があり、国軍が駐屯している。そのせいで辺境出身の多くは国軍に入隊する。


「しかも、近衛だったし?」


 騎士団に入るということ自体が基本的にないことだけに、近衛騎士団にいるということが余計にありえなさを増幅させていた。


「金を積んでも駄目だったようだ」


 ユーウェインは生活のために騎士になった。金を積めば簡単に懐柔できると思った者もいた。


 しかし、ユーウェインはディーグレイブ伯爵への恩義を理由にして、そういった話を全て断っていた。


「王家への忠誠心はともかくとして、恩を受けたディーグレイブ伯爵への忠義はあったわけだ」

「でも、養子にならなかったよね?」

「面倒な話を断るために利用しただけだろう」

「迷惑をかけたくないからかもしれない」

「養子の立場は弱いからな」

「駒になりたくなかったとか?」

「自由が一番だ」

「それはある」

「そして、パスカルの騎士になった」

「やはり狡い」


 レイフィールは悔しがった。


 直属の特殊部隊に入れたい人材だった。


「狡くない。命を狙われたことを考えれば、実力者に護衛させるべきだ」

「また狙われる可能性もある」


 グレゴリーとロスターは今回の人事に大賛成だった。


 近衛騎士団ではユーウェインの能力を無駄にするだけだと思っていた。


「まあ、一人位はパスカルの足を引っ張らなさそうな騎士を置いておかないとね?」

「私ではパスカルの足を引っ張ると言いたいのか?」


 ロスターはオスカーを睨んだ。


「もっと強くなってから言って欲しいかな?」

「私の剣を食らいたいらしいな?」

「私はまだ納得していない。手合せをしなければ、実力がわからないからな!」


 レイフィールは叫んだ。


「手合せは重要だ。パスカルは私の親友だからな」

「実力はしっかりと見ておきたい。オスカーとも対戦する。逃げるなよ?」

「やる気満々だなあ」


 オスカーは楽しそうに笑った。


 ドアがノックされる。


「来たか?」

「来たね」

「来た」

「来たな」


 レイフィール、オスカー、グレゴリー、ロスターは待ちかねたとばかりに笑みを浮かべた。


「失礼します。ユーウェインです」

「入って」


 ユーウェインはドアを開けた。


「お話中でしょうか?」

「大丈夫だ」

「手短に済ませます」


 ユーウェインは部屋の中に入った。


「人事通達に関わる件で遅くなりました。大変申し訳ありません。本日からヴェリオール大公妃付きの護衛騎士補佐として、レーベルオード子爵の護衛を担当することになりました。よろしくお願いいたします」


 ヴェリオール大公妃付きのことだけにパスカルは知っていると思ったが、ユーウェインは改めてパスカルの護衛になったことを伝えた。


「名前でいいよ? ユーウェインとは友人同士だからね」


 いつの間に!!!


 パスカルの言葉に四人の客は驚愕した。


「公私混同を避けるため、状況を見て判断させていただきます。本来の時間よりも遅く配置についたため、遅番の時間まで勤務します。廊下におりますので、何かあれば声をおかけください」

「待って」


 パスカルは四人の客に視線を移した。


「早速だけど内密の話がある。鍵をかけて」

「はい」


 ユーウェインはドアの内鍵をかけた。


「改めて説明する。僕は王太子、第四王子、ヴェリオール大公妃の側近を兼任している。それだけに執務室には様々な者達が出入りする」


 今日は僕か。


 心の中でユーウェインは思った。


「でも、別の組織の者や個人的に親しくして来る者も尋ねて来る。護衛であるなら僕と相手がどういう関係かを知っておいて欲しい。そして、早速僕付きの騎士を見に来た者達を教えておく」


 パスカルは視線を客達に移した。


「まず、レイ。本名はレイフィール、第三王子だ」


 勿論、ユーウェインは気づいていた。


 但し、いつもとは違う軍服を着用している。


 素性を隠しているつもりなのかもしれないと思い、あえて他の者達も含めた一礼だけに対応を留めていた。


「この服装の時は特殊部隊の所属だ。素性を隠して行動している状態だと思え。絶対に名前は呼ぶな。隊長と呼べ」


 レイフィールは自ら補足説明をした。


「次にオスカー。レイの護衛だ。騎士の護衛がいない時には大抵側にいる」


 オスカーはレイフィールの護衛や諜報活動に従事する第三王子直属の特殊部隊ケルベロスに所属している。


 通常は離れた位置からの護衛や隠密行動等をしているが、護衛騎士が同行していない時はすぐ側で護衛任務につく。


「こっちから声をかける時以外は知らないふりをよろしく」

「グレゴリーとはもう会っているね?」

「はい」


 エッジフィール公爵の跡継ぎで伯爵を名乗るグレゴリーは、宰相府から国王府へ異動したエリート官僚だ。


 現在は国王府の官僚でありながら、王子府の官僚としてヴェリオール大公妃付き側近を兼任している。


「グレゴリーは僕の友人で、個人的に所属している白蔦会の会長もしている。王子府や国王府の官僚としてだけではなく、個人的な友人としてここに来ることもある」

「私はパスカルの親友だ。ヴェリオール大公妃付きの側近でもある。しっかり覚えておけ」


 グレゴリーは親友という言葉を強調しつつ、念を押した。


「ロスターも僕の友人で白蔦会の副会長だ。制服を見ればわかるだろうけれど、王太子騎士団に所属している」

「よろしく頼む。組むこともあるだろうからな」


 ユーウェインは驚いた。


「組む? ペアになるということでしょうか?」


 護衛騎士補佐だけに、護衛騎士同等のパスカルと組む扱いだとユーウェインは思っていた。


「王太子騎士団から出向する者達がいる話は聞いたかな? 僕の護衛として配置される」

「聞きました」

「僕付きの筆頭はユーウェイン、騎士長はロスターだ」


 王族付きの騎士団において、筆頭騎士の序列は常に特定グループ内の一位になる。


 ユーウェインは常にパスカルのことだけを考えて護衛をすればよく、それをサポートするために他の騎士や警備関係者に指示を与えるのがロスターということになる。


「第一王子騎士団と王太子騎士団は何かと張り合うことが多い。でも、任務のために信頼関係を築き、協力し合うこと。以上だ」

「待て。重要な説明が抜けている」


 レイフィールが指摘した。


「そうだ。足りない」


 グレゴリーも同じく。


「わざとだね」

「そうとしか思えない」


 オスカーとロスターもまた。


「……このメンバーは特殊な活動をするグループだ。状況次第ではユーウェインも活動に参加することになるかな」


 パスカルが乗り気ではなさそうな様子であるだけに、ユーウェインは警戒した。


「早速行くか」

「書類はそこまでにしろ。後で手伝えるものは手伝う」

「そのためにわざわざ集まった」

「久しぶりだね!」


 パスカルは机の上の書類を素早く片付けた。


「行こうか」

「どこに行くのでしょうか?」

「僕も知らない。どこかな?」

「今日は兄上の訓練場だ」


 王太子専用の訓練場ということ。


「王太子殿下が来るのか?」

「時間次第ではないか?」

「取りあえず、パスカル付きの実力を確かめる」

「二刀流だってね? 楽しみ!」


 ユーウェインはどのような活動をするグループなのかを察した。


「同世代の者で多種多様な武器で対戦式の訓練をするメンバーだ」


 レイフィールがユーウェインの予想通りの言葉を言った。


「騎士の訓練と違って好きな得物を選べるよ」


 オスカーも新しい追加メンバーであるユーウェインの実力を知りたがっていた。


「木製武器だけだが」

「時々、ゲストも来る。観戦だけの時もあれば、参加する時もある」

「王太子殿下が見に来る可能性もある」

「エゼルバードやその側近も来るぞ」


 エゼルバードが来る時はほぼ王太子がいる時のみ。


 ロジャーやセブンは気晴らしで来ることもある。


「派閥は関係なし。なかなか訓練する暇がない実力者ばかりだ。手加減すると騎士の面目が潰れる。負けない方がいい」

「ロスターは負けたが」

「パスカルではない」

「兄上に負けていたな。王太子騎士団のくせにみっともない」

「王太子殿下が強すぎるだけだ」


 ロスターはユーウェインの肩を叩いた。


「ユーウェイン、王太子殿下との対戦に遠慮をしては駄目だ。大変な目に合う」

「手を抜いたと怒られた」

「減給になったよね」

「またやれば降格だろうな」

「騎士だけがそんな目に合う。軍人や官僚は何もないというのに!」


 王太子は厳しい。


 王族だけでなく仲間や自身の命を守るためにも、騎士は腕を磨かなければならないと思っている。


 だからこそ、訓練中の遠慮や手抜きを許さないことが説明された。


「軍の人事は私の管轄だ。兄上は口を出さない」

「官僚は剣を扱う職種ではない」

「第一王子騎士団と王太子騎士団は完全に王太子殿下の管轄だよね」

「王太子殿下が来るとすれば、腕時計は外すだろうね」


 前回の対戦をユーウェインは思い出した。

 

 正直なところ、負けそうだった。


 夕食に遅れないよう中断になったが、次までに鍛えておくよう言われた。


「……重要な情報をありがとうございます」


 ユーウェインは王太子が来ないことを心の底から願った。


 一応、パスカルとユーウェインのお話しはここで一区切り。

 次回は1084で登場した黒装束の者のお話になる予定です。

 またよろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はパスカルの親友だ [一言] (私的に必殺仕事人の)グレゴリーさんwwwww そこ大事なんだwww こうしてみると、実はユーウェイン本人だけが知らないだけで、様々な方面に注目されていた…
2022/08/22 12:16 みんな大好き応援し隊
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