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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1090 レーベルオードの訓練



 訓練着に着替えたユーウェイン達は戦っていた。


 相手はレーベルオードの私兵達。


 騎士団ではほぼ行われない一対多数の訓練だった。


「対戦に切り替える。僕の相手をしたい者は?」


 パスカルの言葉に歓声が上がり、多数が名乗り出た。


 ……若い女性だけでなく、武器を扱う男性にも大人気だ。


 ユーウェインはそう思った。


 能力考慮とじゃんけんの結果、パスカルと対戦することになったのはラグネスだった。


 ヴェリオール大公妃の筆頭護衛騎士であれば実力者に決まっている。


 観戦者は大いに盛り上がったが、パスカルが余裕で勝利を収めた。


「やられた!」


 ラグネスは大きく息を吸い、悔しさと共に吐き出した。


「今日は不調?」

「左を警戒し過ぎた。もう一回やりたい!」

「駄目だよ。別の者とも対戦したい」

「ユーウェイン、仇をとってくれ!」

「無理です」

「丁度いい。双剣同士で対戦しようか」


 この場において、パスカルの意向に逆らえる者はいない。


 ユーウェインはため息をつきながら、木刀を二本持って移動した。





 誰もが声を失い、固唾をのんで見守っていた。


 それほどまでにパスカルとユーウェインの対戦は速く苛烈で美しかった。


 まさに実力者同士の手合わせ。


 攻撃と攻撃が容赦なくぶつかり合った。


 このままでは決着がつきそうもない。むしろ、このままずっと見ていたい。


 そう思える対戦は制限時間によって中断された。


「修正したね」


 パスカルは以前同様ユーウェインの木刀を折るのを狙った。


 しかし、ユーウェインは攻守に使う場所をずらし、木刀にかかる負荷を分散させていた。


「同じ過ちを繰り返すのは愚かしいので」

「凄かったです!」

「ユーウェインの実力は相当だ」

「筆頭の座を奪われそうだ」

「それはないかと」


 ユーウェインは否定したが、いかに実力があるのかを知ってしまった三人は納得しなかった。


「なぜそれほどの実力があるのに大会に出ない?」


 ユーウェインは騎士や腕に覚えのある者達が参加するような試合や大会には一切出場していなかった。


 近衛騎士団の内部訓練も最低限しか参加していない。


 雑用仕事で忙しく、訓練する暇がないと言っては避けていた。


「勿体ないですね」

「実力がわかれば多くの者達の視線も変わる」


 ユーウェインもそれは考えた。


 だが、近衛騎士団は能力よりも出自が重視されるのもわかっている。


 余計に嫉妬や反感が強まり、嫌がらせが増える可能性の方が高いと判断した。


「王宮騎士団に入れば良かった。すぐに実力を買われて王族付きになれた」

「よく近衛に入れたと思ったが、それだけの実力があれば納得だ」

「そうですね」


 訓練終了後、騎士達はウォータール・ハウスへ移動した。


 各自シャワーを浴び、デパートで購入した服に着替えて応接間に集合することになった。


「水分補給はいいけれど、軽食は控えめにした方がいい。晩餐会があるからね」


 しばしの休憩を取りながら訓練の意見を出し合う。


 ユーウェインの実力についても各自が私見を述べることになった。


「ユーウェインは個人技能が極めて高い。でも、仲間がいることをもっと活用して欲しい」

「その通りだ」


 ラグネスが頷いた。


「一人で多くの者を相手にできるのは凄いが、通用しない時もある」

「騎士は二人一組で行動することが多い。ユーウェインは複数人での対応力を磨くべきだ」


 サイラスの意見はいかにも騎士隊長らしかった。


「誰よりも活躍したがる者もいます。ですが、仲間との信頼関係を強める方が重要でしょう」


 ハリソンも意見を出した。


「手柄を分け合う方が、嫉妬もされにくくなりますよ?」

「近衛では無理でしたので」


 ユーウェインはいつも一人だ。


 組む相手は基本的に役に立たない。ユーウェインが一人で二人分を担当するのが常だった。


「ヴェリオール大公妃付きもそろそろ組ませようかという話が出ている」


 ヴェリオール大公妃付きの騎士は相性を調べる意味もあり、特定の相手と組まないようにしていた。


「団長がそう言われたのでしょうか?」


 ハリソンがパスカルに確認する。


「そうだよ。ユーウェインは聞いていない?」

「そのような話をされていたかもしれません」


 ユーウェインは団長付きだけに、団長と補佐の話が自然と耳に入ってくる。


「ユーウェインは組む相手について聞かれなかったな?」

「聞かれました」

「誰がいい?」

「私は団長付きとの兼任です。現状の勤務において、特定の者と組む必要を感じません。大抵のことは一人でできます」


 ユーウェインはヴェリオール大公妃付きとして警備を担当しているが、団長付きの勤務がある。


 常にヴェリオール大公妃付きの専任騎士と組むことができないせいで、夜間の不定期巡回や休みが出た際の交代役に回っていた。


「一匹オオカミだな」

「はぐれガラス」

「ぼっちとか」

「組む必要があるなら、一番弱い者で構いません。私が二人分こなします」


 自分より劣る者に合わせると効率が悪くなる。


 だったら自分一人で二人分の仕事をこなした方がいいとユーウェインは思った。


「なぜそこで実力に見合う最強の者を選ばない?」

「その場合、ラグネスは自分が選ばれると思っていそうだ」

「当然だろう。筆頭だぞ?」

「元筆頭は私だ」

「筆頭や隊長では何かと気を遣うでしょう。しかも、二人は貴族です。平民の私で手を打ちませんか?」


 ハリソンが提案した。


「伝令役が生意気だ」

「私の実家よりも裕福な平民だ」

「すみません。一般的ではなくて」


 自身が一般的な平民ではないことを自覚しているハリソンはすぐに謝罪した。


「そういえば、また養子の話が来たそうだな?」

「すぐに断っているというのに、同じような話ばかりです」


 ハリソンには貴族からの養子話がよく来る。


 あまり裕福ではない貴族が爵位や領地と引き換えに経済的な援助を求める内容がほとんどだった。


「サイラスも養子に行ったらどうだ? 身分が上がる」


 サイラスは下級貴族の出自であるため、実家以上の身分を持つ貴族からの養子話が来る。


「政略に巻き込まれたくない」

「身分で牽制できるのはいいぞ?」


 ラグネスは公爵家出自。


 第一王子騎士団の者やヴェリオール大公妃付きの護衛騎士筆頭ということに加え、貴族としての身分による牽制力もある。


「ユーウェインこそどこかに養子に行った方がいい気がする」

「断りました。政治に関わりたくありません」


 ハリソンやサイラスが養子話を断ったと聞いたせいか、ユーウェインは自分も同じだと話すことに抵抗を感じなかった。


「やっぱりそうか」

「だろうな。わかる」

「政治的な話は対応が難しいですからね」

「ディーグレイブ伯爵家から誘われなかった?」


 パスカルからも質問された。


 普段のユーウェインであれば無言か誤魔化した。


 しかし、今は話してもいいと感じた。


「養子の申し出はありました。ご子息が官僚なので、騎士の息子がいてもいいと。ですが、これ以上の迷惑をかけたくありません。断りました」

「勿体ない」

「普通は即受けるだろう」

「絶対に損ですよ、それは」


 時々組んでいたアルフにも馬鹿だとユーウェインは言われた。


 だが、家に人生を縛られないためには正解だとも。


 ユーウェインはその助言こそがアルフの本音だと感じた。


 アルフはノースランド公爵家に生まれたことによる恩恵もあるが、一生を縛られている。


 ユーウェインは自分を無能だとは思わないが、政治については専門外。


 恩義があるとしても、一生をディーグレイブ伯爵家に縛られるのは嫌だった。


「まあ、ユーウェインの決めたことだ。支持する」

「うまい話には裏がつきものだ。何も考えずに飛びつかなかったのは賢明だろう」

「立場的にも断るにはかなりの勇気が必要だったはず。個人的には称えたいです」


 三人の言葉は近衛では絶対にかけられることがないものだった。


 同じ騎士でも近衛と第一王子騎士団ではかなりの違いがある。


 組織の違いだけではない。人の違いが。


 それをユーウェインは強く実感した。


「失礼致します。旦那様がお帰りになりました。すぐに晩餐会だそうです」


 侍従が知らせに来た。


「行こうか」


 夕食はレーベルオード伯爵が主催する晩餐会。


 騎士達は緊張しながら食堂へと向かった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人の違いが。 [一言] ユーウェイン(号泣) 心の雪解けか?!!!! 「話してもいいとおもった」って、すごい進歩じゃんか!! 第一王子騎士団のみなさんなら、きっと共感して褒めてくれる…
2022/08/19 14:24 みんな大好き応援し隊
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