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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1083 もっと変えられる



 愛の日を過ぎれば二月も中盤。


 最後の週にはいよいよ新婚旅行に出発する。


 リーナの周囲にいる者達は準備に追われて忙しくなっていた。


 だが、リーナ自身は旅行の準備をする必要はない。


 執務室に移動したリーナは愛用のノート、白紙、定規、鉛筆を用意して作業を始めた。


「リーナ様、少しよろしいでしょうか?」


 執務室付きは侍女長補佐のディナ。


「何ですか?」

「先ほどから定規を多用しておりますが、製図作業でしょうか? お手伝いもできますし、専門の部署に必要なものを依頼することもできますが?」

「大丈夫です。後宮の部屋割りを考えるだけなので」

「部屋割り?」


 ディナは首を傾げた。


「買物部の部屋が増えるのでしょうか?」

「新しいお店を作ろうと思って」


 ディナは目を見張った。


「どんなお店でしょうか?」


 新年から秘書室と買物部の二つを正式に新設。日用品店と文具店と軽食店を作った。


 店は大盛況。買物部も支援している秘書室も真珠の間も多忙を極めている。


 そのような状況で新しい店について考えているというのはディナにとって驚きでしかない。


「クオン様が大量に衣装と靴をくれるそうなので、衣装の販売店と貸し出し屋を作ります」


 クオンから貰えるのは全て新品かつ未着用品。


 どのようにして売るかをリーナは考えた。


 販売すれば衣装や靴を欲しがる者は喜ぶだろうが、低価格のものばかりではない。


 後宮購買部と同じく高価な商品が残ってしまうかもしれなかった。


 そこでまずは購入金額と同じ金額で販売する。


 後宮内にいる者は外の事情に疎いため、一般的に売られている商品の値段を通じて外の価値観を知って貰う。


 次第に商品がなくなり、一部の商品は残ってしまうはずだ。


 いわゆる不良在庫。それを解決するのが貸し出し屋。


 買うことはできないが、とても安い金額で借りることができるのであれば利用したいと思う者に衣装を貸し出す。


「古着屋も作るつもりです」


 学生街には古着があり、いらない服を売ってお金や別の服に交換できるような仕組みになっていた。


 後宮の人々が所有する服をうまく循環させることができれば、常に新しい衣装を高いお金を払って買う必要はなくなる。


 後宮購買部でずっと売れ残っている衣装も貸し出し屋に回す。


 一定期間過ぎた後は、それを今度は古着屋に回して低価格で販売する。


「新しいものがなくても古いものを再活用する仕組みさえあれば、今よりもきっと便利になると思います」

「非常に素晴らしい取り組みだと思います!」


 ディナはリーナの案を大絶賛した。


「私もぜひ利用したいです!」

「そうですよね」


 リーナはため息をついた。


「でも、王宮の者は利用できません。王宮の者は住み込みでも休みになれば外出できますから。買い物もその時にできますよね?」

「それもそうですね」


 ディナはすぐに納得した。


 だが、残念だというのが本音だ。


「ですが、王宮にも同じような店があればと思ってしまいます。古着屋に持って行っても無駄骨になってしまうこともあるので」

「引き取って貰えないということですか?」

「交通費がかかるのです」


 王宮に住み込みをしている侍女のほとんどが多すぎる衣装に困っている。


 古着屋に持ち込めばいいが、古着を売る以上に交通費がかかると損してしまうために決断できない者も多い。


「王宮や後宮内で売れば、交通費がかかりません。手放すかどうかは別として、いくらで引き取って貰えるかがわかるだけでも嬉しいです」

「なるほど」


 リーナは考え込んだ。


「貸し出し屋と古着屋の方は利用できるようにしてもいいかもしれませんね?」


 貸し出し屋は多くの利用者がいるほど儲かる。


 古着屋に持ち込む衣装の種類やサイズが増え、王宮と後宮を合わせた広範囲で幅広い古着の活用及び循環の仕組みができる。


「ぜひ、ご検討ください! きっと王宮にいる大勢の人々が喜びます!」


 特に衣装持ちの者が。


「順番にお店を作るのはいいのですが、あっという間に一年が経ってしまいそうです」

「一年? まだ二月ですが?」

「続々と要望書が届いているので」


 ヴェリオール大公妃や後宮統括補佐への要望の多くは手紙として警備調査室へ届く。


 リーナは時間を見つけて書類や手紙を確認しているが、実現したい案がいくつもあった。


「これまでは不足な物品を販売して供給するような試みでした。でも、そうではないお店も作っていきたいと思っています」

「どのようなお店でしょうか?」

「カフェが作りたいです」


 のんびり飲食物を楽しむ場所とも言う。


「それは私も存じています。ですが、お茶やコーヒーの価格に問題が見つかったはずでは?」

「最初は軽食店で買ったものを食べる場所として作ろうと思います」


 後宮内には休憩室があるが、利用希望者が多くて慢性的に席が不足している。


 階級に関係なく使用できる休憩室は一番人気で、休日に利用したくても利用できない者の方が圧倒的に多い。


 休憩室をより多くすることや軽食店で買ったパンを食べる部屋が欲しいという要望があった。


 安い茶葉やコーヒー豆を仕入れることができないと難しいが、クオンがアイギスと交渉している。


 いずれ状況が変わる可能性があるため、カフェの前身としての飲食物専用の部屋を作っておくこと自体は悪くない。


「使われていない部屋や家具を利用すればいいだけなので、お金はかかりません」

「なるほど」

「読書室も作りたいです」


 真珠の間では経費で新聞や雑誌、本を購入している。


 侍女達が回し読みしているが、最終的には保管するだけになってしまう。


 それを読書室の方に置き、誰でも読めるようにしたらどうかと思っていることをリーナは説明した。


「後宮にいる者は基本的に外出できないので外部の事情に疎いと言われています。最新ではなくても新聞や雑誌、本を見ることで多くの情報を得やすくなるはずです」

「読書室についてはレイチェル様にご相談された方がよろしいかと」


 王宮にいる王太子兼ヴェリオール大公妃付きの侍女達も同じように様々な雑誌や本を経費で購入している。


 古くなったものは廃棄処分されてしまうことをディナは伝えた。


「後宮の読書室で保管あるいは廃棄処分品として流せるかもしれません」

「聞いてみます!」


 ディナに話して良かったとリーナは思った。


「美容室も作ってはどうかと思うのですが、どうでしょうか?」


 髪を切る専用の部屋だ。


「現在は各部にあるハサミを利用して、親しい者同士で切っています。でも、ちゃんとした技能がある者に切って欲しいという声があって」


 ヴェリオール大公妃付きにはリーナの髪を整える役目をする侍女もいる。


 美容室を作れば、そのような技能者に髪を切って貰える。


 侍女達の技能を磨くための練習の場にもなるのではないかという意見もあった。


「ヘンリエッタの方も悪くないと言っています。技能を向上するにも維持するにも良さそうなので」

「悪くなさそうですが、技能の練習をするのにお金を取るのですか?」

「一定以上の技能を持つ者が担当するのを保証する対価です」


 店にする以上は無料にしない。


 赤字になる取り組みではなく、少しでも収入を得るための取り組みだからだ。


 利用するかどうかは任意。


 無料で髪を切って欲しい者は、これまで同様知り合いに頼めばいい。


「何もない部屋を自由に使いたいという声もあったので、部屋を貸すサービスも考えています」


 後宮内では親しい者達でちょっとした趣味の集まりができている。


 よく利用されるのは自分達の部屋や休憩室だが、他の者の迷惑になることもある。


 中庭は気候や天気に左右されて使えない時がある。


 短時間だけでも個人的に利用できる部屋があると便利、利用できるようにして欲しいという案が出た。


「最初は秘書室が管理する無料の貸し部屋にしようと思ったのですが、収益化した方がいいとメリーネに言われました」


 後宮の住み込みは上位役職者でなければ個室を貰えない。


 そのせいで休憩室が混雑するのは常のこと。


 そのような住環境において部屋を無料で借りられるようにしてしまうと、プライベートな空間欲しさに予約が殺到してしまう。


 利用料金を取ることで利用者と予約の数を抑え、清掃業務の負担を軽くする。


 多くの収益が見込めるようであればより多くの部屋を一時的かつ個人的な利用のために貸し出し、管理のための人員を増やしていく。


「買物部と違って秘書室には独自収入がありません。貸し部屋の運営に関わることで秘書室の予算を増やしたくもあるそうです」

「秘書室長も経費のやり繰りについては苦労してそうですね」


 秘書室の者は部署異動の際、給与を減額されている。


 いち早くヴェリオール大公妃の庇護が得られ、将来性がある部署に移れるからこその条件になっていた。


 優秀な者が多いだけに給与を増やしたくても、簡単に予算が増えるわけではない。


 そこで独自収入になりそうな仕事を担当し、秘書室の予算を増やそうとメリーネは考えた。


「リーナ様のお話を聞いていると、人件費以外はほとんどかからなさそうなものばかりですね?」

「そうなのです。サービスを提供するようなお店なので」


 すでにあるものを活用するだけで実現できそうだった。


「人件費を捻出できなければ解雇を防げません。生活水準を上げるためにもお金を後宮内で回すことが重要です」


 後宮の人々には給与が出る。それを後宮内で使えば、後宮の独自収入になる。


 それをまた給与に充てるという循環を作り出し、その過程でより良い環境やサービスを提供し、満足度を高めていきたい。


「なんだか後宮は小さな町のようですね?」

「そうかもしれませんね。クオン様は国内市場を小さくしたもの、後宮市場だと言っていました」


 市場の需要と供給を調整しながら成長させていく。


 すると、その市場は莫大な益を産み出し、人々の満足や幸せにつながる。


「小さなことからコツコツしていくしかありませんが、皆の笑顔を増やしていきたいです!」


 もっともっと変えられる。


 そして、良い方向へ進んでいける。


 人々の幸せを考えるリーナの瞳は純真な輝きを宿していた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか後宮は小さな町のようですね? [一言] なんか、こう、感涙 衣類、リサイクル、貸衣装 後宮華の会でリーナ苦労したから、ドレスコードがある何かに出なくてはいけない人は、素敵な衣装を…
2022/08/18 17:31 みんな大好き応援し隊
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