1081 抽選会
愛の日が終わった。
平日ではあったが、多くの人々が特別な一日を過ごしたに違いない。
その後はいつも通りの日常に戻るはずが、後宮内は熱気に包まれていた。
朝九時。
後宮にヴェリオール大公妃が来る。
普段なら情報だけが通達されるが、その時間は後宮内にある中庭の一つが使用不可。
その付近では警備による規制が行われることも合わせて通達されていた。
それが意味することは、ヴェリオール大公妃が中庭に行くということ。
その理由もわかっていた。
抽選会だ。
後宮購買部が販売した抽選付きカードの当選者を決めるためのもので、公正であることを示すため、後宮の中庭で行うことになっていた。
「それでは、これより愛の日のためのキャンペーン中に販売された抽選付きカードの当選者を決めたいと思います!」
司会は後宮購買部長。
店舗の方は午前中のみ休業。
購買部の所属者は抽選会の見届け人になるために招集されていた。
他にも秘書室長、真珠の間の侍女、買物部の代表陣が参加しているだけでなく、この日休みの者達がギャラリーとして抽選会の様子を見守っていた。
「まず、抽選について説明します」
後宮購買部で用意した複数の白い封筒の中からヴェリオール大公妃に一つを選んで貰う。
封筒の中にはどうやって当選者を決めるのかの方法が書かれた紙が入っている。
最初からどんな方法で当選者が決まるのかを知っていると、情報を知る者が有利になり、当選するカードを買いやすくなってしまう。
そこで、当選者を決める方法自体も抽選で決めることになったことが改めて説明された。
「抽選は二回。販売されたカードの番号用と、配布された抽選券の番号用です。まずはカードの方です!」
リーナの前に白い封筒が入った箱が用意された。
見ただけでは全く同じ封筒が複数あるだけ。
どの封筒にするかを選ぶリーナも、それを見守る者達もドキドキしていた。
「これにします!」
リーナが白い封筒を一つ選び取った。
秘書室長であるメリーネに渡され、開封される。
「発表します」
ゴクリ。
ドキドキ。
「当選者は末尾番号が四のもの。少ない方の番号から千枚までです」
どよめきが起きた。
末尾番号で決めるという方法が書かれた紙は多くある。
他の方法よりも選ばれそうな気配はあった。
だが、一般的に不吉とされる四の数字が幸運に変わるとは誰も思っていなかった。
「二月十四日だからかもですね」
リーナがなんとなく口にした。
「確かに四がつきます」
「末尾が同じです」
「揃いました」
「愛の日らしいわ!」
メリーネ、ヘンリエッタ、カミーラ、ベルがそれぞれ意見を言うと、納得の大拍手が起きた。
「さすがヴェリオール大公妃!」
「リーナ様、引き運を持ってるわね~!」
「ぴったりよね!」
「静粛に!」
購買部長が声を張り上げた。
「では、抽選付きカードについては番号の末尾が四、少ない方から千枚までが当選です。四、十四、二十四というように順番に数えて千枚目になるまでです」
カードの販売総数は五万枚。余ることなく完売した。
その全ての末尾四のカードではないのは、当選品をペア券にしたことによる経費がかかるためだった。
「では、購入者や関係者等に配布された抽選券の方の抽選を行います」
カードを購入した者は購入枚数に応じた抽選券を貰える。
相手に贈ったカードだけでなく、それを購入した自分も当たるかもしれない。
また、後宮購買部や買物部の者、他の部署からの手伝い要員にも抽選券が配布されている。
キャンペーンで忙しくなることを考えたリーナの配慮だが、当選するかどうかに集まった全員がドキドキしていた。
「では、封筒の中から一つをお選びいただけますようお願い申し上げます」
「待ってください」
リーナが言った。
「残りの封筒から選ぶのですよね?」
「そうです」
後宮購買部長が答えた。
「私はすでに末尾四の少ない方という条件を選んでしまいました。その封筒はここに入っていません。つまり、配布された抽選券の末尾が四で少ない方の番号はハズレということが決定してしまっているのではありませんか?」
誰もが驚いた。
そして、リーナの指摘は正しかった。
全ての抽選券を対象にした抽選を行うはずだというのに、すでに抜き取られた封筒が一つあるせいで、一部の番号が抽選前にハズレということが確定してしまっている。
これでは全ての抽選券を対象にしていない。不公平だった。
「このまま抽選をすると、末尾四で少ない方の番号は最初から抽選対象外になってしまいます。ですので、その封筒をもう一度入れてください。全ての番号を対象にして抽選を行うべきだと思います」
販売されたカードと配布された抽選券は別に考える。
だからこそ、先に選んだ封筒を一度戻し、全ての選択肢を揃えた上で選び直すのが公平なやり方だった。
「大変申し訳ありません! 気づきませんでした!」
「封筒を戻します」
優秀なメリーネも側に控えている者達もまったく気づかなかった。
残った封筒から選べばいいと思っていた。
よく気づいたとしか言いようがない。
さすがだ。
ヴェリオール大公妃に相応しい。
冷静で公正な判断だと誰もが思った。
「メリーネ、私は目をつぶっているので、その間に封筒の位置を入れ替えてください。今入れた封筒がどこにあるのか、わからないようにして欲しいのです」
「わかりました」
細かい部分まで抜かりなし。
今度こそ、正真正銘公平な抽選だ。
「では、選びます!」
リーナはじっくりと白い封筒を見つめた。
「これです!」
封筒を渡されたメリーネが開封した。
「発表します」
ゴクリ。
ドキドキ。
「当選者は末尾番号が二のカード。多い方の番号から千枚までです」
先ほどとは違う条件だった。
「二月の二ね!」
「やっぱり愛の日の数字!」
「さすがリーナ様!」
「当選に相応しい数字ね!」
またしても納得の大拍手が沸き起こった。
抽選会場及びその付近にいる者は自分の持つ抽選券を確認したり、当選者へ祝いの言葉をかけ合ったりした。
「すでに告知していますが、当選者への賞品は官僚食堂のペアランチ券です」
注意して欲しいのは、一人分のランチ券が二枚ではないこと。
一枚の券で二名分。官僚食堂が指定したランチの中から好きなものを選べる。
使用回数は一回。
一人で使っても得だが、誰かを誘って二名で使う方がより得になる。
休日に王宮で過ごすひと時を楽しめるだろうということが伝えられた。
「担当者は当選者の告知ポスターを制作してください。そして、昼になるまでに購買部店舗や食堂、休憩室などの場所に張ってください!」
「はい!」
元気いっぱいの返事が響き渡った。
購買部の全員から。
「それでは、これにて抽選会を終了します!」
大拍手。
リーナも、大勢の人々も笑顔。
ドキドキの抽選会が終わった。
次話は早めにアップします。
またよろしくお願いいたします!





