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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1045 セイフリードの指摘



 リーナは午前中に会議を終え、午後は買物部や軽食課のことについて考えることにした。


 昼食を取った後はノートを見ながらこれまでのことを思い出す。


 買物部も軽食課もうまくいっているが、それはあくまでも後宮側から見たものであり、王宮側から見ると違う。


「官僚たちのためにもなんとかしたいけれど……」


 官僚たちはリーナの負担を減らすため、嘆願書と一緒に解決案も提出した。


 しかし、その解決案は後宮の内情や都合を考えたものではない。


「後宮のことを考えるとできないし……」


 リーナは頬杖をついた。


 ドアがノックされた。


「リーナ様、よろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「セイフリード王子殿下がお見えです」


 シャキーン!


 一気にリーナの頭も目も冴えた。


「どうぞ! お通ししてください!」


 リーナは椅子から立ち上がり、セイフリードの入室を待った。


 侍女がドアを開けると、無表情のセイフリードが部屋へ入って来た。


 そのあとに続くのは筆頭側近のパスカルだった。


「わざわざお越しいただきありがとうございます!」

「まあまあだな」


 セイフリードはリーナの執務室を見回したあとに感想を述べた。


「仕事ははかどっているか?」

「まあまあです」

「王太子府と王子府から嘆願書が提出された。その件の対応がどうなったのか知りたい」


 早いです……もう耳に届いているなんて!


 しかし、セイフリードの筆頭側近はパスカル。


 むしろ、おかしくないとリーナは思い直した。


「それは今考えていたところです」

「どんな風に考えていたのか聞きたい」

「長くなりそうですので椅子を」


 付き添いであるパスカルがそう言うと、壁際で様子を伺っていた侍女がすぐさま椅子を持ち上げた。


「ありがとう。下がっていいよ」


 パスカルはすぐに侍女から椅子を受け取った。


「かしこまりました」


 侍女は深々と一礼すると急いで部屋を退出した。


 パスカルが運んだ椅子にセイフリードが座る。


「かけていい。パスカルは向こうだ」

「はい」

「ありがとうございます」


 リーナは自分の執務椅子、パスカルはドアの側にいる侍女用の腰掛けに座った。


「それで?」


 ゆったりと足を組んだセイフリードはすでに成人した王子の風格が漂っていた。


 髪を短くした印象と相まって、優れた知性と鋭さが増しているようにも見える。


 その性格を知っていればなおのこと、威圧感が半端ない。


 リーナは思わず下を向いた。


「まだ……ご報告できる状態ではなくて」

「官僚たちの提案は気に入らないか?」

「できないと言う方が正しいです」


 予算がない。許可もない。人手の確保も難しい。


 王太子府や王子府が金銭的に援助し、国王や後宮統括である宰相が許可を出したとしても、人手の確保ができない。


 多くの人員を軽食課に異動させれば、後宮で住み込みをしている人々の日常食の提供に支障をきたすことをリーナは説明した。


「外部に対する活動で資金を得られるのは嬉しいのですが、後宮優先です。無理をさせるわけにはいきません。私が後宮統括補佐として仕事をしているのは後宮にいる人々のためですから」


 もっともな意見、正しい判断だとセイフリードは思った。


「需要があるのはわかっていますが、軽食課で作れる分には限りがあります。そもそも、官僚に食事を提供するのは官僚食堂です」


 軽食課は後宮への提供分を除いた余剰分のみを王宮で販売すればいいとリーナは思っていた。


「官僚の数を考えると、現在の調理部では対応できません」


 官僚は水星宮や月光宮にも厨房があるはずだと指摘している。


 しかし、水星宮の厨房は小さくて遠い。


 月光宮の設備はかなり古い。


 両方の施設自体を使えたとしても、新規で調理技能がある者を採用することができない。


 内部の人員だけでやりくりするのは無理だと思うことをリーナは伝えた。


「そうか」


 セイフリードは答えた。


「僕からも伝えておくことがある。国王特務補佐官に任命された。担当は王宮購買部と王宮厨房部で、官僚食堂も僕の担当になった」

「えっ!」


 新年からの完全有料化における取組みもうまくいっておらず、新しい担当者が抜擢されるかもしれない。


 リーナに声がかかるのではないかという意見が午前中の会議で出た。


 だが、後宮と王宮の板挟みになるのは目に見えている。後宮の方の仕事ができなくなるため、断るべきだという意見が圧倒的に強かった。


「では、お任せすれば大丈夫そうですね!」


 セイフリードであれば必ず解決できる。大丈夫だとリーナは思った。


「お前や買物部の協力も必要だ。軽食販売との共存をしていかなければならない」

「もちろんです! 何でも言ってください!」

「その言い方では駄目だ」


 早速の駄目出し。


「相手の要求をすべて飲むように思える発言をするな。約束したと言われ、無理難題を押し付けられるかもしれない」

「でも、セイフリード様なら」

「この件は家族の問題ではない。王宮や後宮のこと、公的で大きな問題だ。私情を前提とした発言は好ましくない。客観的に見て問題がない発言にしておくべきだ」

「なるほど……そうですね」


 リーナはセイフリードを信用している。


 だが、この問題はリーナとセイフリードの個人的な問題でもなければ話し合いでもない。


 後宮統括補佐と国王特務補佐官とのやり取り。


 そう考えれば、無条件で何でもするという発言は軽率だという指摘はもっともだとリーナは理解した。


「では、全面的に協力をすると言えばいいでしょうか?」

「それも駄目だ」


 またもや駄目出し。


「軽食販売と官僚食堂は飲食物を販売するという意味においてライバルだ。全面的に協力してしまうといいように扱われる。全く売れなくなってもいいのか?」

「それは困ります!」

「条件や状況次第で協力する、と答えるのが適切だ。自分達の優位性を守れないようであれば手を貸さないということが伝わる」

「強そうというか、偉そうですね」

「交渉だからな。そういった印象も大切だ」

「でも、私がセイフリード様に偉そうにするのはおかしいと思うのですが?」


 セイフリードはリーナを睨んだ。


 だが、それは駄目出しをするためではなかった。


「僕がなぜ官僚食堂の担当になったのかといえば、このままでは兄上の妻であるお前がいいようにされてしまい、困ったことになってしまうからだ」

「いいように?」


 困るという部分はわかる。だが、いいようにされるという部分がよくわからないとリーナは思った。


「官僚食堂の件をなんとかしろと押し付けられたら困るだろう? 後宮と王宮の板挟みだ」

「そうですね」

「新しい担当者が軽食販売を完全に模倣することを思いつけば、非常に厄介なことになる」


 どのような食事や軽食を販売するのかは自由。真似をしてはいけないということはない。


 リーナ達がコロッケパンを販売して人気であれば、官僚食堂もそれを真似してコロッケパンを販売することができる。


「真似をしても大丈夫なような?」


 軽食課で作りたくても上限がある。官僚食堂が同じものを沢山作ってくれれば助かるのではないかとリーナは思った。


「お前や軽食課が懸命に考えたアイディアやレシピを第三者が勝手に模倣するのを許してはならない。それは考案者の努力と功績を踏みにじることになり、得るはずだった益がなくなることを意味する」


 官僚食堂は売れるだけ作る。そうなれば、軽食課が作った分は売れない。


 軽食課は美味しく価格も安いという意味で有利そうに見えるが、官僚食堂も同じ条件を揃えることができるかもしれない。


 むしろ、軽食課よりも大量に販売できることから、値段を若干下げることができる可能性さえある。


 そして、リーナ達が勝てない部分がある。


 それは、食事の手に入りやすさだった。


「王太子府や王子府は忙しい者ばかりだ。昼食を購入するために並ぶ手間や時間を惜しむ」


 官僚食堂へ行かなくていいことを考えれば、軽食販売は利用しやすく便利だと考える。


 並ぶ時間がかかっても、官僚食堂を往復して食事をするよりは時間がかからない。


 しかし、それは軽食を買えた者の話。買えなければ無駄骨。手間や時間のロス。


 それなら必ず手に入る官僚食堂へ行った方がいいかもしれない。


 混雑していない時間に利用すればよく、金さえ出せば不味くても温かい食事を食べることができる。


「お前の取り組みは素晴らしい。だからこそ、余力がない。できないことがある。最初は温かいスープとただのパン。冬籠りの差し入れや貧民街での炊き出しと同じようなもので十分だった。全員に行き渡るよう沢山用意することが一番重要だった」


 だが、リーナと軽食課は美味しいという部分に着目して手間をかけた。


 その結果、素晴らしい軽食になったが、供給量が減ってしまった。


「厳しく判定する。僕から見れば失敗だ」


 リーナはうなだれた。


「そうですね……」


 リーナは孤児だったからこそ、余計にわかる。


 食事が足りない。もっとほしい。なんとかしてほしい。


 官僚たちの声が、貧しい人々の声と重なるような気がした。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  シャキーン! [一言] ほほえましい(≧▽≦) 大好きなペアが帰ってきた!!!! 成長した二人のタッグがうれしすぎる!!
2021/11/26 19:57 みんな大好き応援し隊
[良い点] セイフリードの「まあまあだな」に「まあまあです」返ししたリーナにほっこり。 この2人のやり取りは他の王子たちとは種類の違う信頼関係を感じられるので好きです。 [気になる点] リーナは福利…
[良い点] 義姉弟が共同で業務に挑む姿が良いですね。 [一言] 最良の軽食販売だったからこそ、別の問題が出てきてしまった。本当に悩ましい問題です。 冒頭のように、片方では解決できない規模の問題になっ…
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