1043 合同会議
合同会議が開かれた。
出席するメンバーは国王、王太子、第二王子、第三王子、第四王子。
宰相と各王族の側近から特に選ばれた者達も参加する。
王族会議に準じる極めて重要な諸問題を話し合うためのものだった。
その中には王家の一員として加わったヴェリオール大公妃であり後宮統括補佐でもあるリーナの取り組みに関することも含まれていた。
「では、ヴェリオール大公妃につきまして報告及びご説明させていただきます」
ヴェリオール大公妃として過ごす生活について、現時点で大きな問題はない。
国民全体の支持も高く、待ちわびた王太子の婚姻に喜び、幸運を掴んだヴェリオール大公妃にあやかりたいという空気が漂っている。
貴族においても同じく。
新年謁見でヴェリオール大公妃が貴族の領地や特産品に目を向けたこと、その真意が伝わることで風向きが変わった。
チャンスだと感じ、次々と協力を申し出る貴族が後を絶たない。
後宮の取引先が変更になったことを知り、領産品の売り込みが多数来ている。
「後宮での取り組みについてご報告致します」
リーナは買い物部と軽食課を新設した。
後宮における解雇の予防、福利厚生の充実、借金の返済への効果がある。
プレオープンの様子を見ると、かなりの反響と期待だ。
黒字化運営できそうでもある。
但し、あくまでも予想であって、今後の状況をしっかりと監視し、問題があれば改善させていかなくてはならない。
「一番の懸念はヴェリオール大公妃や後宮内部のことではなく、王宮の方にあります」
買い物部も軽食課も王宮省と関わっている。
王宮省が抱える問題が影響してしまう可能性が高い。
「王宮購買部の物資確保についてはすでに手を打ち、解決しました」
後宮との取引で王宮の物資が不足しないよう取引相手と話し合った。
王宮省はこれまでよりも大量の品を取引することで、取引単価を下げることに成功した。
王宮購買部での販売価格は据え置くため、販売益が増える。
後宮のおかげだと喜んでいる状態だ。
「ですが、官僚食堂の問題については改善どころか悪化しています」
官僚食堂は経費削減のためにメニュー内容を減らし、価格を据え置く代わりに低価格帯の販売数を減らした。
低価格帯の完売が早くなり、これまでよりも高いセットや飲食物を買う羽目になった者が増えたため、事実上の値上げだと言って官僚達は激怒している。
しかも、王太子府と王子府では新規の福利厚生を検討中で、試験的に軽食が販売されることになった。
他の省庁等に比べると官僚食堂への距離があり、昼食に時間がかかってしまうことへの対応策というのは理解されている。
だが、王太子府や王子府の給与は官僚の平均水準よりも高い。
王族や国家機密に関わる極めて重要な仕事を任されていることに加え、守秘義務や休日出勤及び残業の負担が大きいからだが、裕福だという感覚がある。
だというのに、販売される軽食は美味でボリュームもあって驚愕の価格だ。
あまりにも羨ましい気持ちが官僚食堂への不満を余計に高めていることも否めない。
「軽食販売の評価も期待も高く、逆にそのせいで嘆願書が提出されました」
素晴らしい福利厚生ではあるが、全員が購入することができない。
先着順になってしまうため、早くから廊下に並ぶ必要があるのもよくない。
価格が上がっても販売数が多くなり、楽に入手できるようになるのであればいいという意見が圧倒的に多い。
「軽食販売はあくまでも後宮の福利厚生です。王宮での人気が高くても、後宮よりも優先して供給されることはありません。人員を増やせば経費がかかってしまいます」
「それについては意見があります」
エゼルバードが口を挟んだ。
「王太子府も王子府も多忙ですので、軽食販売における問題には迅速な対応と解決を求めます。予算の問題であれば支援しますので、人員を増やせばいいのです」
「ヴェリオール大公妃には後宮の人事権がなく、一存では決められません」
「わかっています。宰相、すぐに増やしなさい。今のタイミングでなければなりません」
あてにできないと官僚達に思われてしまうと、売れにくくなる。
需要が高い時に供給し、固定客と信用を得ることが大切だ。
「王子府の者はほとんど買えなかったそうです。王太子府に行っても長蛇の列で諦めたとか。すぐに改善できないようであれば、不満が高まります。見過ごせません」
「嘆願書が出たことを軽視すべきではない」
クオンもエゼルバードを援護した。
ただの不満ではない。正式な改善の要望が出ている。
それだけ官僚達の意志は固く、期待も高いということだ。
「対応したくはあるが、難しい」
宰相は率直に答えた。
「販売員についてはともかく、軽食課の人員ということであれば調理関係者でなければならない。そのせいで調理部に負担がかかり、通常業務に支障が出ては困る」
軽食課だけで軽食を作っているわけではなく、調理部全体の支援と調整がある。
軽食課の人数を増やせば、それは調理部の中にある別の課の人数が減るということだ。
元々調理部内における人的余裕は少なく、大人数の異動は無理だと思われた。
「軽食販売は必須ではない。官僚には官僚食堂がある。後宮に頼ることばかり考え、難易度の高い要望を出されても困る」
「数十人程度で構いません」
「数人程度の間違いではないのか?」
「その程度でどれほど改善できると思うのです?」
「王子府は抜け道の利用率が高い。外注すればいい」
「宰相府向けの販売は永遠に不可能なようです。官僚達はさぞ悲しむことでしょう。宰相だけが軽食を食べていることも含めてです」
「後宮統括だからだ」
「おかしいですね。ヴェリオール大公妃付きの側近枠の分だったはずです。ブレア公爵から届いたはずですからね」
「後宮統括枠を増やすよりもいいのではないか?」
「ヴェリオール大公妃付きの枠は毎日ではありません。プレオープンのみで、以降は未定なのですよ?」
「そうか」
「私を怒らせたいのですか? 純白の舞踏会が明日だというのに困ったものです。愚痴を聞いてくれる側近達を集めなくては」
「脅すのか?」
「私の側近をどうしようと関係ないでしょう? 宰相の癖に口出しをする気ですか? その権限があるとでも?」
「見苦しい」
そう言ったのは国王でもなければ王太子でもない。
セイフリードだった。
「宰相が了承しても、結局はリーナと調理部次第だ。好きなだけ増やせばいい。調理部に問題が生じないようリーナと調理部で考えるに決まっている。それで駄目なら元に戻すだけのことではないのか?」
「その通りです。そのための試用期間ではありませんか」
「父上、リーナが頑張っているのは知っているはずだ。順調だというのに、抑えつけたせいで駄目になってしまっては勿体ない気がするが?」
「リーナは王家の一員だ。家族として守り、応援すべきだ」
クオンとレイフィールもそれぞれの意見を出した。
息子達に詰め寄られるのはいつものことではある。
父親と国王の板挟みになるのも。
「ラーグ、ものは試しだろう? お前だってそうやって来た」
「後宮は国王のものだ。国王が許可するなら仕方がない」
「その通りだ」
国王は頷いた。
「私の後宮なら、私の好きにできるはずだ。スイーツは検分する。毒見分も含めて必ず五人分は届けるように」
「ではそのように」
パスカルはすぐに国王の出した条件で決着させた。





