1033 お店の視察
「来たわ~!」
「キャー!」
二月一日の午前中。
買物部の店はヴェリオール大公妃の視察があるために休みだったが、ヴェリオール大公妃の姿を一目でも見ようと思う人々が周辺に集まっていた。
「ヴェリオール大公妃様~!」
「リーナ様~!」
「おはようございます~!」
リーナはにっこり微笑んだ。
「おはようございます!」
掃除部時代に鍛えた大声で挨拶を返し、手を振った。
それだけで感極まる者が続出し、叫び声と拍手が飛びかう。
「凄い人ですね。お休みの人達ですか?」
店の周辺が混雑していることは聞いていたが、これほどの状況だとはリーナも思っていなかった。
「はい。視察の予定を事前に告知されていたせいではないかと」
二月の初週はヴェリオール大公妃による視察、商品補充や店内の模様替え、軽食販売のプレオープンもある。
その影響で日用品店と文具店は休み。来週の月曜日から正式なオープンになることが告知されていた。
「どうぞ中へ。本日はリーナ様の貸し切りです」
「ドキドキしますね!」
リーナは意気揚々と買物部の店へ入った。
「これが……買物部のお店!」
リーナは店内の様子に驚いた。
想像以上にスッキリとしている。
それでいて、商品はたっぷりある。棚の上には商品がぎっしり入った箱が綺麗に並べられていた。
商品名や説明が書かれた案内カードもある。
側には可愛らしい動物の置物が飾られ、案内カードに視線が向くよう工夫されていた。
「想像していたよりもずっと素敵です! 素朴でナチュラルな感じですね!」
まさにそれが買物部の店におけるコンセプト。
多くの商品が置かれていても整頓されているため、王宮の購買部のような雑然とした感じは一切ない。
箱や家具は明るい木目調の家具に統一されており、白い壁と植物柄の絨毯によってより落ち着いた印象を醸し出していた。
「プレオープンの時はどんな風に案内していたのですか?」
「ご説明させていただきます」
カミーラはそう言うと、手を軽く合わせて叩いた。
すぐに店内に待機していた買物部の人員が商品棚の前を順場に通って精算カウンターに向かう列を作った。
「このような動線になります。商品を見ながら欲しいものをカゴに入れて貰い、最終的には空いている精算カウンターで支払いを済ませます」
「これなら動線が一つにまとまりますし、前に進みながら全ての商品を見ることができますね」
「はい」
「でも、入店制限を行うほどだったのですよね?」
動線を示すために並んでいるのは二十人ほどだが、店内のスペースはまだまだ空いている。
単に並ぶだけであれば、かなりの人数が入店できそうだった。
「詰めれば百人以上入りそうですけれど、それでも並びきれずに廊下に出て貰ったのですよね?」
「そうです」
買物部の店は購買部のように広くない。
精算カウンターのスペースも人数も少なく、対応力も不足していた。
そのせいで精算待ちの者が商品の陳列スペースにも並ぶことになってしまった。
「商品を見ながら待つならまだしも、ただ廊下で待つのは辛いですね」
「そうなのです。ですので、側近の方が特別に差し入れを配ってくださいました」
買物部のプレオープンがうまくいくようにヴェリオール大公妃付きの側近達も臨機応変に動いている。
おかげで廊下に並ぶことになった者達は不満を言うどころかお菓子を無料で貰えてラッキーだと思ってくれた。
しかし、あくまでもプレオープンにおける個人的な対応だ。
二月からはこういった対応をしない。
精算カウンターを増設するには商品の陳列スペースを減らすしかないが、それだとすぐに商品がなくなってしまい、補充作業の頻度が増える。
より大きな部屋への引っ越しも考えていたリーナだったが、毎日大混雑するほどの利用者がいるとは限らない。
買物部が力を合わせて作り上げた店だけに、このままにして様子をみたい気持ちが強まった。
「文具店の方へ行きます」
文具店は日用品の隣にある。
扱う商品が少ないのもあって陳列売り場が半分、精算カウンターと担当者用のスペースが半分になっていた。
注文した家具が届いていないため、積んだ箱が並べられている状態だった。
整頓されているのはわかるが、確かに見た目が悪い。
王立装飾家具工房で作られた家具が配置されている日用品店と比べると、その差が一目瞭然だった。
「日用品の方も以前はこのように箱ばかりが積んであったわけですよね?」
「そうです」
納品された家具は商品数が多い日用品店を優先して配置した。
明日は大量の木箱やトレーなどの小物が届く。
文具店用の家具はその後になってしまうが、今週中に納品される予定だ。
「土曜日までには届くらしいので、来週の正式なオープン時には、全て王立装飾家具工房で作って貰った家具や箱に交換できるはずです」
王立装飾家具工房では製作途中のものを一時中断し、ヴェリオール大公妃のために買物部用の注文品を最優先で作ってくれていた。
「ちゃんと作って貰った家具があると、断然見栄えがいいですね。王立装飾家具工房のおかげです」
「そう思います」
リーナは文具店の中を歩きながら商品の入った箱を覗いて確認した。
「文具店は精算カウンターのスペースが広いですね。日用品よりも早く列が進みますか?」
「はい。混雑はしているのですが、日用品ほど待たされることはありません。多少の待ち時間はどのような店でも普通にあることですので、許容範囲ではないかと」
「日用品店が問題ですね」
「経過を見なければわかりませんが、慢性的に長時間待つようであれば改善していく必要があります」
続いての視察は軽食店。
プレオープンの明日に備え、王立装飾家具工房で作って貰ったシンプルなテーブルがズラリと並んでいた。
「こちらのテーブルの上に商品を置いて販売します」
「明日が楽しみですね」
「非常に。すぐに完売してしまうのではないかと」
「そうかもしれません」
軽食店は通常の食事では足りない場合の補助食を有料で提供するためにある。
最初は食事量が足りないかどうかに関係なく、興味から買おうと思う者が多くいそうだと予想されていた。
「移動します」
「では、買物部の方へ」
リーナは買物部の部屋と新しい場所へ移動した秘書室も視察した。
最後は買物部の倉庫部屋とすぐ側にある引っ越し候補の部屋を確認して視察が終了した。
「この後はいよいよ試食ですね!」
リーナの昼食は買物部で販売される軽食の試食を兼ねたものだった。
「早く食べたいです!」
「私も同じです」
「同じく!」
嬉しそうなリーナにカミーラとベルも笑みを浮かべた。





