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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1025 留守番組

 デートから戻ったクオンはリーナを部屋まで送り届けた。


「用件を済ませて来る」


 休日であってもクオンは必ず報告や指示出しのための時間を取る。


 用件というのはそのことだろうとリーナは思った。


「夕食はご一緒できるでしょうか?」

「勿論だ」

「では、また後で」


 リーナは侍女達と外出について話した後、夕食前の入浴を済ませることにした。


 部屋を出たクオンは執務室ではない場所へと向かった。





「……腕が死にそう」


 ぼやいたのは訓練場の床の上に転がるピック。


 デナンとロビンも床に転がっており、答えを返すことなく息を吸って吐いているだけだった。


 日曜日の第一王子騎士団は王太子騎士団との合同外出訓練を行う予定で、体験者の三人は休日出勤と留守番役を通達された。


 最初は本部で待機するだけと聞いていたが、変更になった。


「一人は私と共に巡回警備です。巡回警備は三カ所あるので交代で行います。二人は団長室で待機です」


 ユーウェインも留守番役で書類の処理をするつもりだったが、体調不良の者に代わって巡回警備をすることになった。


 留守番役は少ないために一人で行うはずだったが、体験者の実務経験を少しでも多くするため連れて行くことにした。


「まずはロビンと王族エリアの巡回に行きます。次はデナンと公式エリアの巡回。ピックとは王太子府の巡回に行きます。待機中は休日用の課題をしておきなさい」


 すぐに新しい任務と課題が始まった。


 そして、あっという間に午前中が終わる。


 昼食後、ユーウェインが猛然と書類を処理する中、三人は課題に取り組んでいた。


 そこへ臨時講師が来る。


 第一王子騎士団を退団した元護衛騎士で、ラインハルトの教え子の一人であるヨシュアという者だった。


 ヨシュアの訓練は双剣術。


 体力がないピックが真っ先に床に転がり、デナンも続いた後、最後に残ったロビンも容赦なく気力体力を搾り取られた。


 そして、現在に至る。


「この程度でよく第一の体験者になれたものだ」


 ヨシュアはユーウェインの用意したタオルで汗を拭いながら言い放った。


「お前達の年齢で騎士を目指すのは遅い。悠長に構えていると、あっという間に退団勧告が来るぞ!」


 入団さえまだなんだけどなあ……。


 双剣術の審査があると確実に落ちそうだ……。


 現役じゃないのにこんなに強いのか……。


 三人は心の中でつぶやいた。


「まあ、ウォーミングアップで疲れるわけにはいかないからな」


 ヨシュアはユーウェインの方を見た。


「現役の実力を見せて貰おうか」

「よろしくお願い致します」


 予想通りだと思いながらユーウェインは答えた。


「俺から一本取ったら、美味い肉を奢ってやろう」

「いいなあ~」

「特典付きか」

「頑張ってください」


 ヨシュアの申し出を羨ましがる三人。


 しかし、ユーウェインは嬉しくもなんともなかった。


 奢るという言葉に釣られて外出するのは愚かでしかない。


 酒場に連れて行かれ、酒を飲まされるに決まっている。


 そして、ほとんどの者は酔い潰されるか酔っ払いを介抱するかの二択になる。


 最悪の場合は代金を立て替えることになり、後日請求すると今度は奢ると言われて終わりになる。


 奢って貰うどころか奢る羽目になってしまうのだ。


「対戦していただけるだけで十分です」

「遠慮するな。先輩と後輩だろう」


 ユーウェインの知る騎士団の常識において、先輩と後輩の関係は後輩に都合悪くできている。


 騎士見習いからの叩き上げだからこそ、身に染みていた。


「では、私ではなくこの三人に奢ってあげて下さい」


 三人はむくりと上体を起こすと、ユーウェインに向かって深々と頭を下げた。


「さすが教官! 美味しい肉を待ってます!」

「お気遣いに感謝します」

「すみません。もっと粘っておくべきでした」


 三人の心情はユーウェインへの応援に傾いた。


 だが、


「俺に負けたらお前が三人に奢ってやれ。わかったな?」

「うおおおーーー、さすが先輩だぜ!」

「厳しいだけではなかった」

「すみません。公正に見守ります」

「さて、後輩達のために頑張るか!」


 ヨシュアは不敵な笑みを浮かべた。


 ユーウェインは二本の木刀を構える。


 負ける気も奢る気もなかった。




 

 三十分が経過した。


 ユーウェインとヨシュアの対戦はまだ続いていた。


 両者は共に実力者。大抵の相手は数分で片付ける。


 初めての対戦で様子見だとしても長い。


 相手の実力が予想以上という証拠だった。


 とはいえ、延々と対戦するわけにもいかない。


 自分達は戦い方を教える方であって、勝負に熱くなりすぎてはいけないこともわかっていた。


 だからこそ、どうすれば勝てるかだけでなく、指導者としての面目を傷つけることなくこの場を切り抜ける方法も考える。


 しかし、真剣な表情で見ている三人に知られてはならない。


 四本の木刀が驚くべき速度で攻撃と防御の打ち合いを繰り返す。


「双剣ってめちゃめちゃカッコイイな!」

「見ているだけで緊張する」

「いつもより教官の動きが速い……」


 ユーウェインが仕掛けた。


 左右の木刀を同じタイミングにして攻撃を繰り出す。


 双剣同士の対戦においては滅多にしない攻撃だ。


「誘うのか」


 ヨシュアはユーウェインの攻撃を左の一刀だけで受け止め、右からの攻撃を叩きつけるつもりだった。


 しかし、ユーウェインの同時攻撃はフェイクで、ヨシュアの剣が受けに来たことに合わせて左の攻撃を止めた。


 左を防御に変え反撃に対応するのだろうとヨシュアは予想したが、ユーウェインはヨシュアの攻撃を無視して木刀を突き出した。


 先に当たれば一本。


 その後でヨシュアの木刀が自身を打ち付けても構わないという捨て身の戦法だ。


 命のやり取りをする戦いではないからこそ、可能な選択でもあった。


 予想外の攻撃に驚いたヨシュアはすかさず攻撃用の木刀を戻すが、ユーウェインの突きは鋭く速い。


 間に合わない!


 直感で判断したヨシュアは足に力を入れると、一気に後方へ跳躍した。


 それでも完全には避け切れない。無理な動作に体勢も崩れた。


 ユーウェインの追撃が届く前にヨシュアは潔く決断した。


「俺の負けだ!」


 瞬時に攻撃を止めたものの、ユーウェインはヨシュアを見つめたまま構えた。


「かすっただけです」

「俺は騎士服じゃない。何かあると困る」


 ユーウェインはすぐに構えを解いた。


 騎士服は特殊な素材で作られている。防刃仕様だ。


 金属製の刃でも容易に切り裂くことはできないため、木刀であればより安全度が高まる。


 しかし、ヨシュアは元騎士。騎士服を着用していない。


 防御力に差がある対戦だからこそ、無理はしないというヨシュアの判断は適切だ。


「大変申し訳ありません。集中するあまり失念していました」


 ユーウェインは謝罪した。


 負けを認めた理由が適切な判断であることを示し、ヨシュアの顔を立てる。


 譲られた勝利に驕ることはないと伝えるためでもあった。


「気にするな」


 ヨシュアは笑いながらタオルを取りに行く。


 捨て身の突きに一瞬ヒヤリと流した汗も合わせて拭きとった。


「なかなかやるな。わざわざ俺を呼ぶ意味があるのか?」


 後半は恩師であり上司であったラインハルトへ向けた言葉だ。


 ユーウェインが教官として双剣術を教えているなら、自分が出る幕はないのではないかとヨシュアは思った。


「双剣術は私の専門ではありません。どうぞ」


 ユーウェインは水分補給のために用意してきた水のボトルを差し出した。


 ヨシュアは受け取ると一気に仰ぐ。


「専門は何だ?」

「得意な組み合わせは剣と短剣です」

「二刀流ではあるのか」

「騎士としては片手剣です」


 ヨシュアは苦笑した。


 元護衛騎士ではあるが、騎士としての武器にこだわるという考え方をヨシュアはくだらないと思っていた。


 だが、騎士と戦士は違う。どのような武器でも強くあればいいとは思われない。


 そのことをよくわかってもいた。


「俺の専門も双剣とは言い切れないが、得意な方ではある」

「どの武器を専門にされているのでしょうか?」

「専門はない。大抵の武器は得意だが、中途半端な実力だ」

「ご謙遜を」

「まあ、護衛騎士になれる程度の実力はある。いや、あったというべきだな。退団してからは衰える一方だ」


 その時だった。


 訓練室に護衛騎士が入って来た。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 「では、私ではなくこの三人に奢ってあげて下さい」 「俺に負けたらお前が三人に奢ってやれ。わかったな?」 [気になる点] 男子チームは美味しいお肉を食べれるのか! [一言] わたしも 「おお…
2021/08/19 17:13 みんな大好き応援し隊
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