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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1022/1362

1022 一月最後の日曜日

 一月最後の日曜日。


 クオンにエスコートされて集合場所についたリーナは驚いた。


「凄いメンバーです!」


 予想以上に大勢がいた。


 同行側近のパスカル、キルヒウス、シャペル。


 側近補佐のカミーラとベル。


 王太子付き兼ヴェリオール大公妃付き侍女長のレイチェルと侍女長補佐のディナ。


 秘書室長のメリーネと真珠の間室長のヘンリエッタ。


 王宮と後宮にいるヴェリオール大公付きから選ばれた侍女達。


 第一王子騎士団だけではなく王太子騎士団の騎士達までいた。


「なんだか全員でデートするみたいですね!」

「私達はデートだが、他の者は訓練だ」


 今回の外出は王太子夫妻に同行する者のための大規模な訓練を兼ねていた。


「買物部の件は担当者に任せておけばいい。私達はデートに集中する」


 クオンはそう言うとリーナの手をギュッと握りしめた。


「馬車に乗るぞ」

「馬で行こうと言わないなんて珍しいですね」


 外出する際、クオンは軽い運動になることを考え、馬での移動をしたがる。


 厳重に警備されている王宮地区内ではそれが可能だ。


 しかし、今回は豪華な馬車が何台も用意されていた。


「馬車も使わないと調子が悪くなる。時々は使用しながらメンテナンスをしておかなくてはならない」

「馬車も外出できるので喜んでいそうですね!」


 クオンとリーナは馬車に乗り込んだ。


 二人の後に続くパスカルは馬車に乗り込まず、ドアを閉めただけだった。


 号令がかかると、整列していた同行者達が素早く移動を始める。


 キルヒウス、シャペル、カミーラ、ベルの四人は王太子夫妻の後ろにある馬車に乗り込んだ。


 側近と側近補佐で固めているように思えるが、パスカルは一緒ではない。


 シャペルとキルヒウスの関係強化に活用して貰うつもりだった。


「確認です。何かあるでしょうか?」


 今回の外出においてパスカルは全体指揮官に任命されていた。


 これも騎士への命令権を持つ側近としての訓練だ。

 

「第一は問題ない」

「王太子騎士団も問題ない」


 護衛を担当する第一王子騎士団長のラインハルトと警備を担当する王太子騎士団長のゼッフェルが答えた。


 あくまでも訓練ではあるが、両団長もパスカルの指揮下に入る。


「今回は複数の目的が含まれていることをお忘れなく。では、よろしくお願い致します」

「わかっている」

「承知した」


 パスカルは自分が乗る馬車の方へと移動した。


 位置的にはかなりの後方で、同乗者はすでに乗り込んでいる。


 リーナからは非常に見えにくい位置にいたリリー、ハイジ、ジゼの三人だ。


「待たせたね」


 パスカルは席につくと御者に合図するためのノッカーを叩いた。


 すぐに馬車が動き出す。


「今日は王太子夫妻のデートに同行する形で外出する」


 リリー、ハイジ、ジゼの表情にあるのは緊張と不安。動揺と困惑もある。


「これから極めて重要な説明をする。王太子殿下は昨年の十一月にご結婚された」


 王太子の妻になった女性はリーナ・レーベルオード。


 レーベルオード伯爵家の養女になっているが、元平民の孤児だ。


 どこの孤児院にいたのかが一時期話題になったが、公表はしていない。


 各孤児院には肯定も否定も一切しないよう通達しているが、リーナのいた孤児院はすでに取り壊されてなくなったというのが事実だ。


 リーナは後宮の召使いとして真面目に懸命に働いていた。


 家名が珍しいことから内密の調査が行われ、リーナは貴族出自の女性リリーナ・エーメルとして貴族籍に変更された。


「リリーナ・エーメル?」


 リリーの反応はパスカルの想定内だ。


「最後まで話を聞いて欲しい」


 リーナは侍女見習いになったが、別人と間違われてしまったことが判明し、平民出自に戻った。


 出自変更のせいで侍女見習いを解雇されてしまったが、王太子が勤務態度や能力を考慮し、第四王子付の侍女に大抜擢した。


 リーナの努力が認められ、隣国ミレニアスへの随行者に選ばれた。


 その際、レーベルオード伯爵家の養女にもなった。


 ミレニアスから帰国後、レーベルオード伯爵家で催された養女披露の舞踏会で、お忍びで出席していた王太子が見初めた。


 王太子はリーナを正妃にしたいと思ったものの、平民を王太子妃にした前例がないことから国王の許可が下りず、側妃になった。


 但し、王太子が愛する女性と幸せになれるよう特別な称号であるヴェリオール大公妃を名乗ることが許可された。


 これからは自身のしたいことをすればいいと言われたリーナは、孤児としての経験を活かし、貧しい人々を助けたいと思った。


 ヴェリオール大公妃としての公的な活動は新年からになることもあって、身分や素性を隠し、練習も兼ねて炊き出しが行われることになった。


 炊き出しはリーナがいた孤児院の跡地を利用することになった。


 大勢が協力を申し出た結果、多くの配給品が集まり、継続して慈善活動をするための施設チャリティーハウスも寄付金で建てられた。


 そして炊き出し当日、リーナは孤児院で一緒だった者に再会した。


 仕事を探している。貧しい生活を抜け出せてはいない。


 リーナは友人達の力になりたいと思った。


 リーナは夫である王太子に相談した。


 王太子は貧しい人々への対策が不十分だと感じており、この機会に自ら貧民街を訪れることを決意した。


 そして、孤児や貧しい人々への支援を強化するための調査として、リーナの友人で孤児だった六人に特別な職業訓練をすることにした。


 妻の友人というだけで審査に合格することはない。


 能力があるかどうか、その志、努力を見極めて公正に判断される。


「以前にも話したと思うけれど、リーナの側で働くには覚悟がいる。王太子殿下の妻であるヴェリオール大公妃だからだ。平民と王族妃。身分差があるのはわかるね?」

「はい」

「わかります」

「わかるけど、頭が爆発しそうです」


 ジゼの言葉を聞いたパスカルは優しく微笑んだ。


「一気に説明したからね。考える時間が必要なのはわかっている。だけど、今日は買物部の仕事がある。木箱が欲しいと言い出したのは君達だ。担当者として必要なものを揃えなくてはいけない。大丈夫だね?」

「はい!」

「大丈夫です」

「仕事はちゃんとします!」


 三人は自らを鼓舞するように答えた。


「審査日までもうすぐだ。今日の振替休日はない。但し、三十日の終業後は六人全員で集まれるようにする。それまでは買物部のことに集中して欲しい。頑張れば必ず評価される」


 三十一日には一カ月の体験をした上での審査がある。


 どんな気持ちで臨むのか。体験したような仕事をしていきたいか。


 リーナの側にいたいか距離を取りたいかも確認する。


「人生を左右する選択になる。後悔しないよう本心からの選択をして欲しい。個人的には合格できるよう応援している。じゃあ、質問があれば受け付ける。何か聞きたいことがあるかな?」

「あります」

「ぜひ」

「聞きたいです!」


 三人全員が質問を希望した。


「じゃあ、リリーから順番に」

「貴方は誰なのでしょうか? 本当の名前というか身分というか」


 パスカルは眉を上げた。


「すまない。改めて自己紹介を兼ねて挨拶するよ。パスカル・レーベルオードだ。リーナが養女になったレーベルオード伯爵家の跡継ぎだ。公的にはレーベルオード子爵と呼ばれている」


 職業は王太子府の官僚で執務補佐官。


 王子府においては第四王子とヴェリオール大公妃の担当官でもある。


 王太子・第四王子・ヴェリオール大公妃の側近を兼任している状態だ。


 第一王子騎士団においては顧問。ヴェリオール大公妃付き護衛騎士同等の権限も持っている。


 父親はレーベルオード伯爵。内務省の官僚をしている。


 両親は離婚しており、母親は隣国ミレニアスの王弟であるインヴァネス大公と再婚。


 母親はミレニアスで子供を二人産んだ。


 妹は七歳の時に誘拐されて行方不明。公的な扱いとしては八歳で死亡したことになっている。


 妹の名前はリリーナ。


 リーナの本名もリリーナであり、年齢も誕生日も同じだった。


「リーナとは偶然の出会いだったけれど、行方不明になってしまった妹のように思えてね。父が養女にしたから法的にも妹になった。一生、兄として守っていくつもりだ」


 パスカルは目の前に座る三人を順番に見つめた。


「リーナが苦しい時に支えてくれてありがとう。心から感謝している。ヴェリオール大公妃になってもリーナはリーナだ。良き友人でいて欲しいと思っているよ」


 三人は嬉しかった。


 だが、あまりにも身分が違い過ぎる。


 なんとなく思っていたのと、事実を知ってしまったのとでは全然違う。


「私達は平民です。しかも、孤児です。ヴェリオール大公妃の友人なんて……周囲が認めないと思うのですが?」


 自分の番だと思ったハイジが質問した。


 三人の気持ちを代弁している言葉でもある。


「周囲に認めて貰えるよう頑張ればいいだけじゃないかな?」


 三人にとって予想外の言葉が返って来た。


「ただ、簡単ではないのも確かだ。身分だけの問題でもない」


 むしろ、身分だけでは駄目だった。


 高位であれば必ずリーナの友人になれるというわけでもない。


「一番大切なことは、互いに友人だと思えるかどうかだよ。リーナは君達を友人だと思っている。その気持ちにどんな答えを出すのかは君達自身で選べばいい。周囲がどう思うかは関係ない」


 三人は考えるように黙り込んだ。


「次はジゼの番かな?」

「あ、えっとですね……」


 ジゼは動揺した。


 聞きたいことが沢山あり過ぎる。知りたいことも。


「聞きたいことがあり過ぎて……」

「取りあえずは一つだ。移動時間を使って、順番に質問していこうか」

「わかりました。じゃあ、何歳ですか?」


 一瞬で広がったのは驚き。


「ジゼ!」

「いきなりそんなことを聞くなんて!」

「だって、みんな気にしてたじゃん! ボスと同じ位かなあって」


 リリーとハイジは言葉に詰まった。


 確かにそういう話はしていた。自分達よりは年上だろうと。


「二十六歳だよ」

「じゃあ、ボスと同じだね」

「誕生日次第では一つ違いかも?」

「そうかもね」

「じゃあ、今度は僕が質問する番だ」


 三人は驚いた。


 パスカルが質問するとは思ってもみなかった。


「前々からボスという人物のことが気になっていてね。ロビン達と話すとボスの名前が出やすい」

「ボスの子分だったせいだと思います。ロビンは自称腹心でした」

「あの三人はボス至上主義だったから」

「凄くわかります!」

「リリーから順番にボスについて教えてくれるかな?」

「わかりました!」


 リリーは任せて欲しいとばかりに力強く答えた。


「ボスは絶世の美人です!」

「男性だよね?」

「そうですけれど、女性にもなります」

「素性を隠すために変装するので」

「髪色も変えちゃうよね。すぐに染めちゃう」


 ハイジとジゼも加わり、次々とボスの情報を披露した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] わかりました。じゃあ、何歳ですか? [一言] (≧▽≦) 吹いたwwwww お名前何ですか?も吹いたけど、とんでもないのがいた(大爆笑)
2021/08/03 21:18 みんな大好き応援し隊
[一言] >「リリーから順番にボスについて教えてくれるかな?」 ついにボスの素性が明らかに… >「ボスは絶世の美人です!」 んん?
[良い点] お兄様遂に年齢発覚! リーナと6歳差前後と踏んでいたので予想通りでした。 ボス…どんだけ美形なんだよぉw [一言] 遂にリーナの現在が明かされ、 孤児院組とのこれからの関係がどうなってい…
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