1019 プレオープン二日目
プレオープン二日目。
指定利用者は侍従。
侍女と同じく高給取りが多い階級だが、度重なる不祥事と責任問題によってその数は激減した。
買物部に訪れた侍従はそれなりにいたものの、初日のように大混雑することはなかった。
買い物に来たというよりもどんなものが売っているのかを確認しに来ただけの者も多かった。
商品数を多くするために箱のまま積んだせいもあり、完売はしなかった。
むしろ、箱に入れたままの状態に顔をしかめる者が多くいた。
「どうでした?」
リーナはカミーラ達が報告に来るのを楽しみにしていた。
初日は大混雑したものの、多くの利用者が集まり、欲しい品を安く購入できたことは確かだ。
二日目の利用者も多いと思っていた。
ところが、
「あまり売れませんでした」
カミーラ達は予想が外れてがっかりしていた。
せっかく箱積みにして商品数を増やしたというのに、実際に売れた数は初日に比べるとかなり少なかった。
このような結果になるのであれば、初日と同じく商品棚に並べて売れば良かったというのが正直な感想だ。
箱のまま積んでいることに変な顔をしていた者が多かったのもあり、余計にそう思わざるを得なかった。
「改善したはずが、良くない結果になってしまいました」
「元に戻した方がいいという意見が沢山あったわ」
「その意見は買物部の意見でしょうか?」
「そうよ。でも、秘書室や真珠の間も同じ」
「やはり見た目が悪くなってしまいます。綺麗な箱に入れれば違うのかもしれませんが、その件はレーベルオード子爵が担当するようです。連絡待ちになりました」
シャペルからの手紙によると、箱を作る材料は多種多様で絞りにくい。搬入も難しい。制作に必要な道具・工具は危険物扱いのために許可が取りにくい。
そこでベルの手紙に描かれていた箱を作らせて運び入れる検討をしている。
パスカルが担当で、連絡を待って欲しいという内容だった。
「利用者の意見はどうですか? 箱積み式の販売についての意見というか」
「意見が分かれました」
侍女の間はできるだけ見た目が悪い陳列方法は良くないという意見が多かった。
逆に召使いの間では箱積みでも問題ないという反応で、商品が買えないよりはいいという意見が多かった。
男性側の意見はわからないが、店に来た侍従の反応を見ると良くなさそうだった。
「上位と下位用で別々の店を作った方がいいという意見があったわ」
上位用の店では商品棚に並べて販売。
下位用の店では箱積みによる販売。
このようにすれば利用者が不満に思いにくい。
利用者も二手に分かれるため、店が混雑しにくくなる。
「そうなると人手が足りません」
現在はプレオープン。軽食を売っていないせいで軽食グループが手伝える。
秘書室と真珠の間の支援もある。
おかげでなんとかなっている状況だ。
しばらくすれば仕事にも慣れ、利用者の数も落ち着くかもしれない。
しかし、軽食販売が始まれば、日用品や文具以上に大変になりそうだった。
秘書室と真珠の間の支援も軽食グループに集中してしまう。
「今は倉庫作業や帳簿管理を秘書室の方でしています」
残業ゼロを目標として掲げているせいでもあり、秘書室の行動は常に素早い。
午前中に売れた分の集計も補充品の用意も驚くほど早くこなしていた。
「日用品と文具グループもマニュアルを確認しながら計算や記入をしていますが、秘書室のようにはできません。監査すると書き間違えや計算ミスが見つかります」
カミーラとベルは報告しながら次々と問題に感じた点を挙げた。
リーナは二人の話を聞きながら内容をノートに記入した。
「……いかがいたしましょうか?」
あまりにも多くのことがある。
すぐに指示を出すのは難しい。
だが、
「店内の陳列は箱積みのままにします」
「よろしいのですか?」
カミーラは評判が良くないことを考慮し、すぐにでも元に戻した方がいいと感じていた。
だからこそ、リーナの判断は意外だった。
「理由を説明します」
明日の開店前までに入れ替えをするのは大変だ。
連日の疲労を考えると、早出はさせたくない。
かといって、通常通りの出勤で入れ替え作業をすれば、開店時間が遅れる。
開店に合わせて来た利用者は待たされるか時間の都合で買い物ができなくなり、新たな不満が生まれてしまう。
明日は上級召使いの利用日。
箱積み式は庶民のスタイル。平民である上級召使いにはそれほど抵抗感がない。
上級召使いの利用者は男女で分けていない。利用者が多くなることを見越し、店内に多くの商品を確保しておくことを優先する。
リーナの説明を聞いた全員が冷静で適切な判断だと感じた。
「これからは召使いの利用日が続くので、箱積み式で様子を見ましょう。その間にお兄様から連絡がありそうです」
「そうですね。では、このままということで」
「先ほどレイチェルから聞いたばかりなのですが、次の日曜日はクオン様と一緒に外出します。デートとして王立装飾家具工房という所に行くようです」
カミーラとベルはピンときた。
「まさか王立装飾家具工房で箱を作らせるのでしょうか?」
「最高級の家具を作る職人に木箱を?」
欲しいのは普通の木箱。最高級品の木箱でもなければ、最高クラスの家具職人が作るようなものではない。
だが、タイミング的にそうではないかと思えてしまう。
「同行者と留守番役の選定や外出準備があるので、レイチェルには事前に教えられたようです。私には夕食時にクオン様からお話があります。なので、私は知らないはずなのです。ここにいる者だけの秘密にして下さいね?」
カミーラとベルは何も言わずに控えているレイチェルに視線を向けた。
レイチェルが頷く。
侍女長が情報の先出しをするとは……。
侍女長は完全にリーナ様の味方ね!
カミーラもベルもレイチェルの存在を非常に心強いと感じた。
「偶然そのような場所になったのか、買物部のことが絡んでいるのかはクオン様に聞いておきます。ですので、明日はこのままで。一喜一憂しても仕方がありません。プレオープン期間は大きく構えましょう。毎日変更してばかりでは買物部も利用者も混乱してしまいます。それを防ぐのも私達の役目です」
改善するのはプレオープンが終わった後で構わないとリーナは思った。
「階級別利用のプレオープンが終わればすぐに月末です。二月から仕切り直せばいいですし、焦る必要はありません」
「わかりました」
カミーラは別件でもリーナに確認したいことがあった。
「月末という言葉が出たのでお尋ねしますが、現時点において、体験者の三人は審査に合格できそうでしょうか? 個人的には正式に採用されて買物部を支え続けて欲しいと思っています」
「私も同じです!」
ベルも同意した。
「三人は買物部に必要だと思います!」
買物部にとって三人の存在は頼もしい。
販売長や副販売長というあだ名を見ても、買物部内にうまく溶け込みながら仕事をしていた。
「最終的にはクオン様が判断することなので何とも言えません」
リーナは慎重に答えた。
必ず合格できるよう担当教育官に指導させるが、どうしても不可能ということであれば再度考えるとクオンは言っていた。
つまり、合格する可能性が高いが、確約されているわけではない。
大丈夫だと思いたくはあるが、予想外の理由で駄目出しされてしまうかもしれない。
リーナは不安だった。
「……最初は担当教官の審査です。一番厳しそうなのはメリーネなので、メリーネ次第かもしれません」
メリーネは何がなんでも合格させると言っていたため、メリーネ自身が不合格にするとは考えにくい。
だが、メリーネからの報告内容から判断すると、初歩的なことでさえ完璧ではないという。
冷静に考えると不合格になってしまいそうでリーナは心配だった。
「ヘンリエッタはどう思いますか?」
「大丈夫です」
ヘンリエッタは即答した。
途中ですが、一旦きります。すみません(汗)





