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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1010/1362

1010 買い物作戦

いつもありがとうございます。

時間が遅くなりましたがよろしくお願い致します!


 月曜日。


 秘書室・買物部・真珠の間は部屋に鍵をかけて締め切り、全員が大宴の間に集まるよう朝礼で伝えられた。


 誰もが買物部の状況が良くないことを知っており、上位の者から注意や説明等があるのだろうと思っていた。


 大宴の間にいたのはヴェリオール大公妃付き側近の補佐を務めるカミーラ、ベル、クローディア。


 そして、後宮で見習い体験をしているリリー、ハイジ、ジゼだった。


「おはようございます。私はヴェリオール大公妃付き側近補佐をしているカミーラ・ヴァークレイです」


 兄は王太子の側近であるヴィルスラウン伯爵。祖父はシャルゴット侯爵。


 両親は名門貴族の家系であるイレビオール伯爵夫妻であることをカミーラは伝えた。


 更に、


「先月、王太子殿下の側近の一人であるヴァークレイ公爵家の跡継ぎと婚姻関係を結びました。今は子爵夫人ですが、ゆくゆくはヴァークレイ公爵夫人になります」


 今日の臨時予定の責任者はカミーラだった。


 まずは自己紹介として名前や身分等を伝える。


 個人的なことではあるが、カミーラが王太子の側近の妻、未来の公爵夫人になったことは非常に重要だった。


 上に立ってもおかしくない理由がある。非常にわかりやすい。


 王宮では身分主義者だと思われてしまうが、ここは身分や階級意識が強い後宮。


 自身の身分を最初に伝えるのが常識であり、効果抜群なのだ。


「今日集まって貰ったのは買物部の件です」


 やっぱり。


 誰もがそう思った。


「後宮は新体制への移行によって多忙な状態が続きました。疲労もあることでしょう。その上、買物部は新設。少しずつ模索しながら進むような状態です。まとまりにくいのは当然のことだとヴェリオール大公妃は思われています」


 後宮及び買物部の現状を聞いたヴェリオール大公妃は側近や役職者を招集した。


 自身は王宮での新年謁見もあって何かと忙しい。


 そこで、どのように解決して行くかを話し合ったということをカミーラは伝えた。


「その結果、ヴェリオール大公妃の意向に従い、王宮の購買部に行って買い物をすることになりました」


 何も知らずに大宴の間に集まった者は驚きを隠せなかった。


「買物部は多くの人々が買い物に来る店を運営します。すでに後宮内にある購買部のようなものだと思うでしょう。ですが、実際は王宮の購買部に近いものになります。王宮と後宮の購買部にはかなりの違いがありますので、それを確かめて来て欲しいとのことです」


 王宮の購買部を視察するだけではない。


 実際に王宮の購買部で買い物を体験する。


 王宮の購買部にどのようなものがあるか、係の者がどのような対応をするかを自身の目で確認する。


「基本的には一般的な日常品や文具や書籍を扱っています。後宮の購買部のような贅沢品はありません。女性用の必要品もあります。それらを自身の判断で購入して貰います」


 一人につき百ギール、つまりは一万ギニー手渡される。


 それで自身が欲しいと思うものや買物部で売ったら喜ばれそうなもの、日常的に役に立ちそうなものを購入する。


 何を買ったのかは後で一人ずつ一覧表にまとめて貰い、購入金額を計算して残金も購入物も回収する。


 商品を吟味して購入するかどうかを決めること、できるだけ多くの品を予算ギリギリまで購入し、最後に集める小銭が少なくなるようにして欲しいことも説明された。


「今回の買い物で購入するのは買物部で売るものだと思って下さい」


 すでにどのような品を仕入れるかは担当官僚と王宮省で話し合っているが、女性視点における商品の選考をしてない。


 男性だけに女性が欲しいもの、必要だと思うものがわからないかもしれない。


「後宮にいる女性達の代表として、取り扱って欲しい商品を選考して貰います。お金の説明はベルからします」


 ベルが手を挙げた。注目して欲しいという合図だ。


「改めて自己紹介をします。私はヴェリオール大公妃付き側近補佐を務めるベルーガ・シャルゴットです」


 名門貴族の家系であるイレビオール伯爵家の次女。


 祖父はシャルゴット侯爵。兄は王太子の側近であるヴィルスラウン伯爵。


 姉は隣にいるカミーラであることをベルは伝えた。


「私的なことですが、第二王子の側近でヴェリオール大公妃付きの側近も兼任しているディーバレン子爵と交際しています」


 ベルとしてはできるだけ公私混同を避けるようにしていくつもりだが、シャペルと一緒に仕事をする機会が増える可能性が高い。


 そのことを見越し、あえて私的な関係があることを知らせておくことにした。


「今回、お金の管理は私の方ですることになりました。これから封筒を一人につき一つ渡すので、百ギール札が一枚入っているか確認してください!」


 ベルは体験者である三人の方を向いた。


「封筒を配ってね」

「はい!」


 リリーとハイジは最前列にいる者に封筒をまとめて渡した。


「自分の分を一つとって、後ろにいる人に渡して下さい」

「横は駄目ですので気を付けてください」


 封筒を受け取った者は自分の分を取り、残った分を後ろにいる者に渡した。


 今回はこのような作業をすることがわかっていたため、縦横列を揃えて並んでいる。


「封筒を貰っていない人は手を挙げておいて下さい! 前から順番に回って来るので、貰ったら手を下げてください!」


 ジゼは大声で説明する役目と、封筒が足りない者がいるかどうかを確認する。


 封筒が途中でなくなってしまった場合は、リリーとハイジが届けることになっていた。


 あっという間に封筒は配り終わった。中身もしっかりと確認済みだ。


「必ずペンを一本買って下さい。購入後は封筒に記名し、何をいくらで買ったのかをメモして下さい。それを見ながら一覧表を作成して貰います」


 カミーラは役職者の方を向いた。


「では、順番に行きましょう。秘書室からです」

「わかりました」


 メリーネは頷くと、秘書室が整列している方を向いた。


「班ごとに異なる支店へ行きます。班長からはぐれないように。化粧室の利用は原則買い物の前か後に全員で行きなさい。点呼も必須です。迅速かつ無駄なく行動しなさい。では、一班から移動を開始します」


 秘書室の人員が移動を開始した。


「真珠の間も移動して下さい」

「わかりました」


 ヘンリエッタが頷いた。


「これから真珠の間も移動します。各担当長から離れ過ぎないように。緊急の場合は担当長に伝えて指示を仰いで下さい。では、移動します」


 真珠の間は専門にしている職務ごとにグループを分けて行動することになった。


 上位役職者は上位役職者だけでまとまるので、それ以外の侍女は各担当長がまとめて視察や買い物を行う。


「買物部には追加の説明があります」


 カミーラが言った。


「現在、買物部には役職者がいません。それは買物部に所属する者の中から役職者を選ぶためです」


 最初は役職者がいない。説明をしたり指示を出したりする者がいない。


 そこで担当官僚と秘書室が一時的な代理として行っていた。


 今の状況では役職者を選べない。


 だが、担当官僚や秘書室にも自分達の仕事がある。本来の仕事が優先だ。


 両立期間が長いほど本来の仕事がしにくくなってしまうため、別の者がヴェリオール大公妃の代わりに買物部への指示出しをすることになった。


「ヴェリオール大公妃付き側近補佐である私とベルとクローディアが代理を務めます」


 側近補佐であるカミーラとベルとクローディアが直々に面倒を見ることになった。


「ですが、私達もそれぞれの仕事があります」


 特に第二王子の女性側近であるクローディアは多忙だ。


 ジュメレ伯爵令嬢としての用件が多々あることも伝えられた。


「そこでしばらくの間は職業体験者である三人の女性にも手伝って貰うことにしました。三人は召使いや侍女の職種経験はないのですが、全員が民間における販売業の経験があります。買物部にとっては非常に心強い存在です」


 カミーラはリリー達に自己紹介をするよう促した。


「改めてご挨拶致します。リリーです。現在は侍女職の体験中ですが、買物部のお手伝いをすることになりました。ここに来る前は化粧品を扱う店で販売のお仕事をしていました」


 リリーは体が弱いことから、孤児院を出たばかりの頃は短期雇用の仕事を率先して選んでいた。


 おかげで一つ一つの職歴は短いが、様々な商品を扱った経験がある。


 一種類ではなく多種多様な物を扱う買物部には適している職歴だ。


「化粧品・衣服・雑貨・食品など幅広い商品の販売経験があります。その経験を買物部で活かせればと思っています。よろしくお願い致します!」


 リリーが一礼するとカミーラ達が拍手をしたため、買物部の人員も同じく拍手をした。


「ご挨拶させていただきます。ハイジです。私も侍女職の体験中ですが、買物部のお手伝いをすることになりました。経験職種の中に販売員もあります。服・雑貨・食品などを扱いました。苦情担当として問題が起きた時に対処した経験もあります。よろしくお願い致します!」


 パチパチと拍手が起きた。


 そして、


「こんにちは! ジゼです! 私は花を育てて売ったり、パンを作って売ったりしていました。食べることが大好きです!」


 ジゼの挨拶はこれまでの二人とまったく違う印象だ。


 明るく元気、声も大きい。


 いかにも平民の売り子らしいと感じられた。


「なので、お店で売っている全種類のパンを少しずつ食べて制覇しました。どんな味かを知っているのはとても役に立ちます。おかげで売り上げ一位の売り子でした! よろしくお願いします!」


 売り上げ一位の売り子。


 その説明は強い衝撃を与えた。


 ごく普通の平民の売り子に見えて、凄腕の販売員だということだ。


 拍手がパラパラと起きる。


 それは軽視ではなく驚愕と動揺のせいだった。


「三人は職業体験者として様々な業務を体験しなければなりません。販売員としての経験も豊富です。そのことを考慮し、今回の視察ではグループ長を務めて貰います。これから買物部を六つのグループに分けます」


 側近補佐とグループ長が各グループのまとめ役になって買い物に行く。


 但し、グループ長を務めるリリー、ハイジ、ジゼは王宮に行ったことがない。


 そこで王宮の待ち合わせ場所からは、第一王子騎士団の者が購買部の支店まで案内してくれることになっていた。


「王宮には多くの貴族、官僚、雇用者がいます。礼儀正しくするように」

「ここだけの話だけど、自分で買ったペンは後で貰えるわ。大変なこともあるけれど、新しい仕事を頑張って欲しいというヴェリオール大公妃からの配慮よ」


 今回の買い物は全てリーナが個人的に負担する。


 経費扱いで備品にしてしまうと、個人へ与えることができないからだ。


 侍女はともかく召使いは私的なペンを持っていないかもしれないため、この機会に一本渡しておこうとリーナは考えた。


「自分が欲しいものを買った方がお得よ。お仕事だからこそ、堂々と皆で買い物を楽しみましょう!」


 ベルは笑顔を振りまいた。


 カミーラは美人かつ知的なだけに冷たい印象になりやすい。クローディアも同じで、アイスレディの異名がある。


 だからこそ自分が明るさと元気さで補う。


 皆で楽しく仲良く仕事をして欲しいと思っていた。


「貰えることがわかっているからといって、最も高価なペンを買うのは勧めしません。安易な選択をしていると思われます。なぜ選んだのかを明確に説明できる品を選ぶ方がいいでしょう。役職者になりたければですが」


 ずっと黙っていたクローディアも重要なポイントを説明した。


 何を買うのか。どうして買ったのか。品定めをする能力が見られる。


 優れていると思われれば、役職者に選ばれる可能性もあるということだ。


「単に好きな物を百ギールまで買っていいと考えるのは利口ではありません。百ギールを最大限に活かせるかどうかが問われています。出世したい者は試験だと思いなさい」

「間違いじゃないけれど堅いわよ。買い物を楽しむように言われたでしょう?」


 ベルは顔をしかめた。


「うまく買い物をしただけで出世できるのです。楽しくないわけがありません」

「クローディアらしいけれど、私はちょっと違う気がするのよね。出世するよりも楽しく働くことの方が大切だと思うわ」

「どう思うかは人それぞれ違いがあります。それについては個人の選択に任せます」


 カミーラがまとめに入る。


「では、楽しく賢く買い物に行きましょう」


 六つのグループに分けられた買物部は王宮への移動を開始した。



 次回は結果ついてのお話になる予定です。

 お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 購買部デートが役に立ったネ [一言] リーナの発想がすごい。 そして、リーナの側近補佐の身分のラインナップを改めてすごいと思ってしまいました。 それぞれのキャラクターが面白いから、うっか…
2021/06/23 11:20 みんな大好き応援し隊
[気になる点] 無理せず(´p・ω・q`)♪頑張って [一言] できるだけ多く買うのではなく今後自分が使いたいものあると良いものを重点的に買うと良いかもあとはチームで購入するとかするとこでないかな
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