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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
10/1356

10 監視されて

 リーナは次の掃除場所に着いた。


 豪華な部屋を素通りし、隣のトイレに行く。


 掃除道具を戸棚から取り出し、掃除と備品の交換等を手早く済ませる。


 移動時間も含め一時間につき一カ所の掃除という計算だが、実際にはそれほどかからない。


 使用済みのタオルがなくトイレットペーパーの先に綺麗な折り目がついたままであれば、未使用ということがわかる。


 二カ所目も綺麗だった。


 だが、手抜きはできない。


 乾拭きをし、埃が絶対にたまらないようにする必要がある。備品のチェックもある。


 二カ所目の掃除が終わると、リーナは三カ所目の掃除に向かった。


 三カ所目も綺麗だった。乾拭きし、備品のチェックをする。


「あっ!」


 リーナは驚き、思わず声をあげた。


「どうした?」


 そう尋ねたのは、先ほどの男性だった。


 男性はリーナに同行し、掃除する様子をずっと見ていた。


「答えろ」


 リーナは困った。


 仕事内容に関しては、軽々しく話してはいけないことになっている。


 しかし、以前にそれを守ったせいで警備に捕縛された。余計な手間がかかったと警備にもメリーネにも叱責された。


 今はあの時のように疑われている状態だ。


 真面目に仕事をしていることを証明するためにも、きちんと答えた方がいいとリーナは判断した。


「備品の数が合わないのです」


 リーナは詳しく説明することにした。


「私の仕事の内容には、ここにある備品数を確認することも含まれているのですが、タオルが一枚足りません。そのことに気づいたので思わず声が出ました」


 男性は黙っていた。


「これは問題です。上司に報告しなければなりません。紛失か盗難です。説明は以上です」


 リーナの説明が終わると、男性はまじまじとリーナを見つめた。


「お前はかなりの真面目か几帳面な性格のようだ」

「お褒めに預かり光栄です!」


 リーナは喜んだが、男性はリーナを褒めたわけではなかった。


 思ったことを口にしただけ。正直に言えば、タオルが一枚足りないだけで、驚きすぎだろうと思っていた。


 紛失か盗難。


 間違いではないのかもしれないが、所詮はタオル一枚。


 男性の感覚では、どうでもいいことのように思えた。


 少なくとも、声を出して驚くほどのことではない。


「仕事は終わりか?」

「交換したタオルをクリーニングカウンターに預ければ終わりです」

「クリーニングカウンターはどこにある?」

「ここの備品については一階のクリーニングカウンターに預けます」


 クリーニングカウンターは二カ所ある。


 地下で使用されるものは地下のカウンター、地上で使用されるものに関しては一階のカウンターに出すことになっていた。


「六時までに終えるといったが、ずいぶん早いな?」

「綺麗だったからです。沢山使用されているともっと時間がかかります。なので、余裕を持って設定されています」


 時間設定は掃除に手間がかかることを前提にして決まる。


 未使用やほとんど使用されていない状態であれば早く終わる。


「さすがにクリーニングカウンターまで行く気はしない。お前が本当に仕事をしにきたことは認める。だが、いきなりドアを開けるのは無礼だ。まずはノックし、確認後にドアを開けるべきではないか?」

「それについては謝罪致します。それから、お尋ねしたいことがあります。貴方はどなた様でしょうか?」

「知る必要はない」


 リーナは困った。


 控えの間に男性がいたことをメリーネに報告しなければならない。


「それでは困ります。知らない者と会った場合は所属や名前を聞いて報告しなければなりません。でないと上司に怒られてしまいます!」



 リーナは違反者と間違われて警備に捕縛された経験があること、その時にたっぷりと上司に叱責されたことを懸命に説明した。


「お願いします! 男性に会ったと報告するだけでは絶対に許されません! 処罰されてしまったら困ります!」

「……クオンだ」


 仕方がないと感じてクオンは名乗った。


「クオン様ですね。控えの間にいらっしゃったということは、外部の方でしょうか?」

「そうだ」


 クオンは自分の失敗に気づいた。


 根掘り葉掘り聞かれるのも困るが、このまま上司に報告されると厄介なことになりそうだと感じた。


 緑の控えの間にいたクオンという人物。


 調べれば必ずわかる。わからないわけがない。


「私に会ったことを上司に報告する必要はない。警備にも言うな。外部の者だけに名前を言ってもわからない」

「でも」

「聞け」


 クオンは制止した。


「もしかすると、お前は控えの間が使用中だということを聞いてなかったのではないか?」

「聞いていないというか、何も連絡されていません。いつも通りだと思っていました」


 だからこそ、リーナはノックすることなくドアを開けた。


「誰もいない時間に掃除するので、ノックをするようにとは言われていなくて……」


 使用中であれば掃除はしない。


 誰もいなくなってから掃除することになるはずだった。


「お前は悪くなさそうだ。だが、部屋が使用中であるにもかかわらず、そのことが通達されていなかったのは問題だ。掃除に来たことが問題視される可能性もある」


 そうかもしれないとリーナは思った。


「ゆえに、私の方からお前の上司よりも上の者にうまく伝えておく。わかったか?」

「わかりました」

「内密に処理する可能性もある。私に会ったことは誰にも話すな。無礼なことをしたと思われ、処罰されるのを防ぐためだ。いいな?」

「はい」

「行け」

「失礼致します」


 リーナは深々と一礼すると、一階のクリーニングカウンターに向かった。


 いつも通り交換したタオルを洗濯に出した後、上司のメリーネ宛に予備のタオルが一枚少なかったことを報告する手紙を書くことにした。


 緊急のこと以外、早朝勤務については手紙で報告すればいいことになっている。


 この方法はとても便利だが、お金がかかる。


 手紙を出すためには便せんと封筒とペンが必要になるが、自己負担で用意しなければならなかった。


 真面目に報告するほど自己負担の文具代がかさみ、借金が増える。


 リーナは真面目だからこそ、報告をしなくてもいいとは思わなかった。


 購買部で一番安価なものを購入し、報告の手紙を出していた。


 後宮内から後宮内に出す郵便物は、業務通達に使用されることもあって無料だ。


 送料がかからないだけでも十分ましだとリーナは思っていた。


 リーナは手紙を書き終えると封筒にしまい、郵便ポストに入れた。


 クオンに言われた通り、リーナはクオンに会ったことを誰にも話さなかった。


ようやくクオン登場。

でも、リーナも作者も仕事優先で進みます(涙)

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