表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

人間の痕跡1

 冒険者ギルドの支部長から直々に依頼を受けた『六爪獅子』のリーダーであるルイベルトは自分のチームメンバーと『鬼の双角』のチームメンバーで件の森の周辺で噂の少年についての手がかりを探していた。


 『六爪獅子』のメンバーはリーダーを含めて六人。

 リーダーであるルイベルトに夫婦でこのチームに加入しているフィールとセルア、その息子であるヘルシオと娘であるナルネシア。最後の一人はノールトンと呼ばれるおちゃらけていると周囲の人達に評価されている男だった。

 ルイベルト、ノールトン、フィール、セルアの四人は子供のころ冒険者になって最初に組んだチームのメンバーだ。

 皆同じくこの都市で生まれ育った。しかしながら冒険者になる前から知り合いだったというわけではない。偶々同じ時期に冒険者ギルドに登録して知り合い、それからチームを組んで一緒に依頼をこなすようになったというわけだ。

 このチームのメンバーは本当に気が合った。だからこそ僅かなしこりができることもなく鍛錬などに集中することができ助け合うことができた。二等級とい高い階級まで昇り詰めることができているのがその証拠だ。


 しかし何もなかったというわけではない。

 フィールとノールトンはセルアが好きだった。性格が良く、美人というより可愛らしいという表現が似合うセルアと毎日一緒に仕事をしていれば恋に落ちてしまうのも仕方がない。結局はセルアが選んだフィールと結ばれることとなりフィールは失恋を経験することとなった。

 しかしそれでもチームが解散したりすることはなかった。失恋が辛くもあったノールトンだが「フィールなんかにセルアを任せていたらいつ死ぬかわからないしね~」といいつつチームに残った。要はセルアを守るという名目でチームに残ったのだ。

 フィールもこれには賛成だった。自分がセルアを守る自信がないというわけではなく、この恋の決着が原因でこのチームを変えたくなかったからだ。これはお互いがお互いを本当に心の底から信頼していなければできないことだ。このチームにはそれがあったのだ。


 世界各地でいろいろな経験を積んでいた『六爪獅子』はフィールとセルアの間に子供が生まれたことを機に故郷である都市リンデンスに戻り、そこを拠点にして冒険者稼業を続けていた。


 『鬼の双角』は三人のメンバーで構成されている。

 リーダーであるカルロスに弟子であるゼインとスオルト。

 カルロスはルイベルトと同期であるがあまり多くの人数のチームにしたがらないため三人というチーム構成になっている。腕はルイベルトに引けをとらない。

 ゼインとスオルトは弟子ではあるが既に三十近くの年をとっており、カルロスに師事して既に十年は経っている。しかしゼインもスオルトもカルロスを尊敬しており、同じ仲間として扱われるのは恐れ多いと言って弟子であると周囲に語っていた。




 この依頼は三週間ほどの旅になると予想されており荷物が多く準備に時間がかかるはずであった。しかし二等級という階級に加えチームメンバーの人格が加算されており、リンデンスではかなり有名でかつ信頼を得ているチームである。すぐに依頼に必要になるものが揃い、カルロスを伴ってリンデンスを発ったのだった。

 それが十日前の話。


 計九人がかりで以前少年を見たという場所の付近で朝から探索を始めて六時間ほどが経過していた。

 しかし残っているのは腐敗した魔物の死体ぐらいでほとんど少年の手がかりというものは発見できなかった。


「カルロス、そろそろ休憩するか?」

「そうだな。遅くなってしまったが昼食も食べておくべきだろう」


 リンデンスの問い掛けにカルロスは疲れを見せた様子もなく答えた。


 魔物がほとんどいないため消費している体力は移動によるもの。冒険者はその性質上体力がなければ生き残れない職業であり、特に『六爪獅子』と『鬼の双角』はそのことをよく理解している。戦闘が主な依頼である以上それは当たり前のことであり、体力がないと判断されれば冒険者という組織で成り上がれるはずもない。

 しかし当然、技にばかり目がいき体力をおろそかにする者も中にはいるのだ。そういう人は大抵は七等級か六等級を彷徨うことになり大きな依頼を任せてもらえない。そしてそういう人に限って自分の才能を評価してもらえないと冒険者ギルドに愚痴り、益々昇格が遠のくことになるのである。もちろん例外もいることにはいるが、本当に技を究めた人間は体力も伴っているものなのである。

 他にも体力がない人間が魔物を武魂具で倒すことによって体力を向上させようと考えるものもいるがそういう人間が倒せる魔物などたかが知れており、何よりもそれは実感できる・・・・・ほどのものではないため普通に身体を動かして体力を向上させるのとあまり変わりがないのである。


 だからこそ他のメンバーも十二・三歳程度である子供のヘルシオとナルネシアの体力についての心配はしていない。幼少のころからいかに体力がものをいうかを耳にたこができるほど言われ続けてきていたからだ。

 実際に現在も少し息を切らしているが音を上げたりはしていない。自分達が体力的に他のメンバーに劣っていることも理解しているし、自分達がこの依頼中でも少しずつ体力が向上していると自分達自身に言い聞かせているのだ。


 用意していた携帯食を口に含みながらも大人は時間を無駄にはしない。それぞれ気付いたことや気になったことなどについて話し合っている。


「カルロス、少年を見たというのは確かにここら辺で間違いないはずなんだよな?」

「ああ、間違いないな」


 どの場所を見ても魔物の死骸しか手がかりを得られないこの状態でそもそも場所があっているのかを確認したくなったルイベルト。魔物の死骸などはどの場所にもあったためここで得られた新たな情報とは言えない。とはいえ一応は死骸一つ一つも確認はしている。


「これからはもう少し奥のほうを探したほうがいいかもね~」

「僕はそれに賛成。ヘルシオとナルもあんまり疲れてないみたいだからまだ大丈夫だと思うよ」

「そうね。陽が落ちるまではもう少し奥に進んでみましょう」


 ノールトン、フィール、セルアがそれぞれ意見を述べる。

 これは魔物がいないからこその判断であり、現在でも十分に森の奥深くまで到達している。


「ヘルシオもナルもまだまだ大丈夫だよな~?」

「もちろんだ! これぐらいなんてことはない!」

「もちろん大丈夫だよ。ヘルシオはさっき息切らしてたから大丈夫じゃないかもだけどね」

「はぁ!? ナルに言われたくないし! お前だってさっきまでは息切らしてただろうが!」


 ノールトンの質問にヘルシオは元気に答え、ナルネシアはそんなヘルシオを軽く弄る。いつもの光景であり喧嘩をしているわけではないと皆が理解しているため誰も止めようとしない。


 そんな様子を微笑ましげに横目で眺めつつ、カルロスは弟子の二人にも話を聞く。


「ゼイン、スオルト、何か気になったことはあるか?」

「はい。皆さんも気付いているかもしれませんがやはりどの魔物も一刀のもとに切り伏せられているということでしょうか。そんなことができるのはかなりの腕の持ち主であると予測できます」

「それに同意。自分も一度その少年を見ている。しかしどう考えてもあの少年にこんなことができるとは思えない」


 どの魔物もある程度腐っておりわかりにくくなっているが、それでもその肉を食しにくる生き物がいないためか死んだときの面影がわかりやすい状態で残っており、どのような殺され方をしたのかを判別することができる。


「確かにな………」


 あの少年に出会った時のことをカルロスは思い出す。


 リンデンスから隣町であるテストールに続く街道上に盗賊が出るということで、商人が冒険者ギルドに出した依頼を受けた『鬼の双角』はそこへ行って森に入った。

 しばらく進んで盗賊の遺体を見つけたときそれがすぐに人間の仕業だと見抜いた。魔物に殺された場合、大抵はその肉体は余すことなく食われ残骸が残らない。他の冒険者が依頼以外で偶々通りかかり討伐したのかとも考えたが、こんな森の中を偶然通りかかるのかという考えに思い至り、最終的にはもう少し付近を捜索してみようという結論に至った。

 それからすぐにその少年は見つかった。『鬼の双角』メンバーは驚かずにはいられなかった。こんな森の奥深くで一人でいるということに。もしかしたら近くにこの保護者がいるのかもしれない。

 しかしそれではその手に持つ血の付いた武器は何なのか。明らかに特異な色合いを持つ片刃の剣。それがすぐに武魂具であると全員が瞬時に思い至った。

 だからこそカルロスはこんなところでそんな武器を持って何をしているのかと問わずにはいられなかった。

 そしてその少年はカルロスたちに顔を向けた。その表情、その瞳にカルロスたちは思わず息をのんだ。一切の感情が抜け落ち、何を映しているのか全く読めないその瞳に。

 その少年は走り去っていったがカルロスたちはその後を追うことができなかった。

 大きな街には大抵あるスラム地区のような場所にはあの少年のような人間がたくさんいるが、それでもあのように何の感情も映さない瞳をしているということはない。スラム地区で暮らす多くの人間は人の世に絶望しているが何をしてでも生き残ろうとする信念がある。要するに欲望があるのだ。

 しかしカルロスにはあの少年にそんな欲望さえも感じなかった。だからこそ追いかけることを忘れて呆然としてしまったのだ。


 それからというもの何をしていてもそのことが頭について離れず、あの少年のことばかり気になって仕事にも集中しきれていなかった。

 もう一度あの少年に会い話を聞いてみたい、その思いがカルロスをこの森まで戻らせたのだ。


 全員の食事を終え移動を開始しようとしたその瞬間、少し離れた場所に明らかに人が残したであろう痕跡をカルロスが発見する。


「どうした?」


 ルイベルトがカルロスが何も言わずに走り出したのを不審に思い話しかけたが、カルロスはそれに何も答えずに走って行ってしまった。


「俺が様子を見てくるからみんなはここで待っていてくれ」

「わかったわ。気をつけて」


 リーダーの指示にセルアが代表して返事をし、ゼインとスオルトも黙ってそれに従う。


 指示をしっかりと聞いているのを確認したルイベルトはカルロスを追いかけていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ