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都市リンデンス

 大陸の南東に位置するセンデンゲルクと呼ばれる国は周囲の国に比べて比較的穏やかな国であった。

 善王が行うまつりごとはいつも民が一番に優先されたもので多くの民から絶大な支持を得ている。さらに豊富な資源に恵まれ国民が飢えることなど滅多にない。不作の年があったとしても、周辺諸国との貿易と国の貯蓄で十分に賄えるように計算されていた。


 しかし一つだけどんなに努力をしてもどうにも解決できない問題があった。


 異形の生物―――――――魔物である。

 この生き物は他の星や異空間から現れたわけではない。

 人間が作り出したのだ。

 遥か遥か昔の人間同士の戦争で一時期こんな考えが世界中を満たした。

 それは『人という貴重な資源を利用するくらいなら、動物を改造して戦わせればいい』というものだった。

 しかし生物の命を勝手に弄び利用しようとした結果、神の逆鱗に触れてしまったのだ。実際に神という存在がいたかどうかはわからないが、そうとも呼べる事態が発生してしまったのである。

 それは制御不能の突然変異だった。

 人の手を離れて強大になりだした生き物を人間が抑え込めなくなる段階まできてしまったのだ。強大になってしまったのは人間がそう望んで手を加えたからだ。

 しかも運の悪いことに他国に負けじと動物の実験していた多くの国でそれが起きてしまったのである。

 しかし悪運はここで止まったりはしなかった。

 いろいろな国で行われた実験は国ごとに違うものであり、動物はそれぞれ異なる進化を遂げた。それが各国からあふれ出し他国の進化した動物――――異形どもと混じり合う。

 そうしてさらに進化を遂げた異形はもはや人間にどうこうできるものではなくなっていた。

 人々が一時的に絶滅寸前にまで追い込まれたほどだ。


 しかし人間はしぶとかった。

 世界各地で生き残った人間達はそれぞれ知恵を総動員させて都市の周りに城壁を築き、なんとか人間が住むための土地を確保することに成功した。

 しかし技術は失われ仲間は死に、残されたものはほとんどなかった。

 技術を取り戻そうにも世界のほとんどを魔物に占拠され人間は思うとおりに動けない。

 この世界の文明レベルが低い理由にはこういったものがあった。


 このような経緯があって人々はこの異形の生き物をこう呼ぶ。

 人の心の『魔』の部分が生み出した生き物―――――魔物と。


 人間が完全に絶滅しなかったことにも理由がある。

 それが人間が幼少期のころに一人に一つ突然現れる武器―――――武魂具である。

 魔物が現れる以前はこの武器が生き物を殺すと成長するものだとはわかっていても大して注目されていなかった。殺す対象が家畜や人間しかいなかったために、ほとんどの人間が成長しても微々たるものだったからだ。さらに個人が成長し過ぎるするのを食い止めるために多くの国は武魂具を国で管理していたのである。

 しかし強大な生き物を殺せば殺すだけ大きな成長をする武魂具は魔物が現れてから注目された。

 その時のは既に手遅れだったわけであるが。


 このような経緯があり今では個人で武魂具の所持が許可されている。

 それでも未だに人間が世界で猛威を振るうことはない。

 人が犯した過ちはそう簡単に拭い去ることはできないということだ。



 センデンゲルクの中でも首都ラウルスの近郊にリンデンスと呼ばれる都市がある。

 その都市も他の町や都市と同じく高い城壁で囲まれ、魔物と呼ばれる異形の生物から人の生活圏を隔離している。

 そしてどこ町や都市にも必ずある城壁外活動専門機関があった。

 その専門機関は都市内では手に入らないものを手に入れたり、都市周辺に出現する魔物を排除したり、はたまた都市間を移動したりする際の護衛に必要な人材を斡旋する機関であり、現在では無くては都市の存続すら危ういと言われるほどの超巨大組織である。

 その名を『冒険者ギルド』。


 その組織のロビーにあたる場所でとある噂が話題になっていた。

 それは都市周辺の魔物が何者かに討伐され尽くしたというものだった。

 しかしそれを信じない者はいない。現に都市周辺に魔物がほとんどいなくなった。


 現在、二等級冒険者の称号を持つチーム『六爪獅子』のリーダーと冒険者ギルド・リンデンス支部支部長がこの噂について話し合っているところだった。

 二等級とは全七等級の二番目に高い階級であり、この階級ともなれば都市に一チームいればまだいいほうで、四等級のチームがトップである都市などざらにあるのだ。もちろん階級が上がれば上がるほどそのチームの数は少なくなり、この国の冒険者ギルドに所属している一等級チームなど現在三組しか存在しない。

 『六爪獅子』は有名でかつ有能な人材が集まったチームなのである。


 冒険者ギルド・リンデンス支部支部長であるコンスリーは『六爪獅子』のリーダーであるルイベルトに話しかけた。


「さて、調査結果を聞かせてもらおうか」


 コンスリーは大分年老いてしまっているが、かつて二等級の称号有していたチームのリーダーだったということもあり眼光に宿る鋭さは未だに衰えていない。

 対してルイベルトは三十台後半から四十代前半になったばかりの容姿であり顔は少し彫りが深く、性格は誠実ということもあって周囲からいろいろな意味で一目置かれている。


「了解した。確かに魔物はほとんど殺されていた」

「やはりそうか………それで?」


 その後の話を早く話せという目つきでルイベルトを睨む。


「殺され方は刃物による斬殺だった。死体も一部を切り取られて放置されていたよ。手を付けられていない死体もあった。おそらく人間によるものだと思う」

「………一部? それはどの部分かね?」

「様々だった。肉、角、爪、皮、挙げていけばきりがない。何かを狙って殺したというより殺してから有用なものを採ったと考えるのが妥当だと俺は思う」

「なるほど……」


 ルイベルトの話を聞いたコンスリーは黙り込む。

 都市付近の魔物が減ること自体はあまり問題ではない。それは都市にとって利となることである。

 問題はなぜそうなったのか、何がそれを引き起こしたのかということである。


「原因について何か心当たりがあったりすると嬉しいのだが、どうだ?」

「…………噂で一人の少年を森の奥深くで見かけたというものを以前に聞いた覚えがある」

「はっ、それがどうした? まさかその子供が魔物を皆殺しにしたと? お前はそんな噂を信じるような人間ではなかったと思ったが違かったかね? そもそも子供が森で生き残れるはずがない。大人が近くにいたのではないか?」

「もちろん俺もその話を聞いたときはそう思ったよ。しかしその少年は血で染められた武魂具らしき武器を持っていたらしい」

「……何だと?」


 今までも鋭かったコンスリーの眼光がさらに鋭くなった。これだけで並の冒険者ならば声が出せなくなるだろう。

 しかしルイベルトはそんなことを気にもせずに話を続けた。


「この話の信憑性は高いよ。俺が直接カルロスから聞いた話だ」


 カルロスとはこの都市の三等級チームのリーダーであり、二等級チームのリーダーであるルイベルトとは話をする機会が多かった。


「なるほど……奴なら嘘はつくまい」

「一応話しかけてみたらしいが何も答えずに森の奥に消えたということだった」

「………そいつに保護者がいるかどうかは知らないが、一度接触しなければならんな」

「それはわかるがそう簡単に見つからないと思う。カルロスがその少年にあったのはこの都市から一週間以上行ったところだということだったしな」


 捜索範囲を限定したとしてもそれほど遠い場所では探す範囲はかなり広い。そして都市から遠ければ遠いほどその依頼の難度は跳ね上がり、一週間ともなれば少なくとも四等級の階級を持っていなけれれば生きて帰ってこられるかわからない。

 一週間分の食料や川などの水源が近くになかった場合のための水分、そのほかにも野営に使う道具や戦闘に使う小道具なども持って行く可能性があるため、必然的に荷物が多くなる。万が一何かあったときのことを考えて予備まで持って行くとなると相当な重量になってしまう。こればかりは初心者には不可能だ。依頼地点近辺まで馬車で行ったとしてもそこからは歩かなくてはならず、それほどの重量を担いで森の中を歩き、魔物が襲ってきたときはそれに対処しなくてはならないからだ。


「移動している可能性も考えると捜索範囲は―――――――」

「いや、わかった。ではこうするとしよう。『六爪獅子』と『鬼の双角』で目撃地点を捜索してみてくれ。期間はだいたい三日といったところか。手がかりを見つけた数だけ報酬は上乗せするとしよう。もちろんそれを手がかりと見るかどうかはこちらが決めるがね」


 『鬼の双角』とはカルロスがリーダーをしているチームのことだ。


「了解した。では明後日にはここを出発しようと思う」


 コンスリーの独断によって報酬が決まるというのにそれをあまり気にしていないルイベルト。

 ここからルイベルトがコンスリーという人物を信用していることがわかる。

 実際にコンスリーもルイベルトも互いが互いを信用していた。


「よし。それと、ここで話した内容はあくまでも内密にな。変な奴らの耳に入ってその少年を討伐するなどと言い出したらたまらんからな」

「もちろんそれについてもわかっている」


 長年の経験でコンスリーの言いたいことを理解しているルイベルト。

 都市周囲の魔物を討伐し尽すことができる冒険者となると少なくとも三等級のチームに匹敵すると考えられる。しかもかなり長期間をかけて住み込みで行う必要があるのだ。しかし実際にそんなことをする人間はいない。たとえ討伐し尽したとしても少し時間が経てばまた魔物は現れる。

 そしてそんなことが可能な能力を持つ人または人達に戦いを挑めば、この都市に住む冒険者の七割以上が相手にもならない。

 だからこそ馬鹿な行動をさせないために情報を規制する必要があるのだ。


「では頼んだぞ。くれぐれもその命は大切のしろよ」

「はい」

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