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プロローグ―過去の『彼』

 少年がたった一人きりで森で生活をしていた。


 その森は異形の生物が跋扈している危険地帯であり、本来子供一人では生きていくことなどできない場所だ。

 ではなぜ一人で生きることができるのか。

 それは彼が有する多くの知識と、彼が有する特殊な武器によるものだった。

 彼は少年ではあるが二十五以上の歳を重ねており、森でもなんとか生きていくことはできていた。

 しかしあくまでも『なんとか』である。

 服装は薄汚れていて、綺麗好きな人間からしてみれば嫌悪の対象になり得る。持ち物も一本の刀と小さなポーチのようなものが一つだけだ。その他の物資は住処にしてある大樹の上部に作られた小屋のようなものに保管してある。どれもその青年の手作りであり、本職の人間が見れば思わず手を加えたくなるような出来だ。

 しかしながら本人はこれらのことをあまり気にしていない。なぜなら生きていければ他には何も望まないから。いや、彼は生きることさえどこか諦めているのかもしれない。生きる理由など持ち合わせていないから。


 ではどうして一人の少年がこのような状況下で生きているのか。


 彼は転生したのである。

 もともとは地球という場所に住んでいた少年だった。声が出ないという特殊な体質であったが、家族はそのことを気にせずに愛情を注いで育てた。

 しかし周りは違った。

 人は周りとは違う生き物を排除しようとする。そういう点で見れば彼はまさに人とは違った存在だった。


 小学校に入学したとき一番最初にいじめにあったのは彼だった。

 始めは口がきけずとも友達になってくれた人は大勢いた。彼は表情豊かで周りの人をほっとさせるような心温まる笑顔をしていたし、優しい両親に大切に育てられ真っ直ぐで心根の優しい少年に育っていたからだ。

 しかし、いじめが悪化していくにつれて段々と友達は離れていった。優しい彼はそのことを責めたりせずに、それでも近くにいてくれた友達を大切にしながら毎日を過ごした。

 小学校高学年に上がった頃、彼には友達がいなくなっていた。子供とは残酷な生き物である。感情を優先して生きているが故に、そのことが間違った行為であると心のどこかで理解しながらもそれを止めることができないのだ。

 このころの彼はそれでも周りに何もしなかった。いじめ自体はほとんどなくなっていたが、今度は学校に存在しないものとして扱われていたからだ。先生はそんな風に扱う生徒たちを何度も叱ったが、結局それが改善されることはなかった。

 彼が未だに歪んだ性格に変質しなかったのは周りにいた大人が彼を大事に思っていたからだろう。両親も先生も彼の敵にまわることはなかったのである。


 中学生になってから彼の人生の分岐点だった。

 両親が小学校時代の彼を憂いて全く異なる地域の中学校に入学させたのだ。

 頭の良かった彼は成績は常にトップでやはり最初は友達が多かった。真面目な正確であった彼は運動さえも真剣に取り組み、常に上位に位置していた。

 しかしそんな彼を疎ましく思った人間がいた。その人が彼についてありもしない噂を流しだしたのだ。噂は瞬く間に広まり、まるで小学生のころのように友達はゆっくりと離れていった。

 卒業間近になったときのことだ。最後まで唯一友達と思っていた人物が自分の悪評を広げた人物だということに気付いてしまった。

 それからだ。彼がゆっくりと変わっていったのは。


 高校に入学した彼は以前のように周りの人とコミュニケーションをとらなくなった。

 大切だと思っているものに裏切られるくらいなら、大切なものなど必要ないと思うようになっていたのだ。

 そんな彼に目を付けたのは暴力的な集団、不良たちだった。

 何時しか彼は毎日のように恫喝されお金を奪われて、暴力を何度も振るわれた。

 そんな彼を近くで見ていた両親は日に日に憔悴していった。


 ある日、彼が唯一心の拠り所としていた両親は自殺してしまった。

 遺書に何度も何度も彼に対する謝罪を書き記して。


 彼は迷わず両親の後を追った。

 何よりも大切なものを失った彼は生きる意味を失ったから。

 彼が最後に抱いていた感情は悲しみではない。

 大切な両親を失う原因となった『人間』という生き物に対する絶大な殺意だった。

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