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2日目

どこからか歌が流れてる。

だんだん回転しだす頭がそれは携帯の着信である事に気づいた。

(あれ?いつもの場所に携帯がない…)

目をつぶったまま手だけが探しものをしている。

携帯の着信は消えた。

目も少しずつ開いてくる。

しかし、見慣れない景色に一瞬で頭は覚醒する。

(あ、あれ?私結局泊まった??)

必死に記憶をたどっていると、隣に暖かい温もりがあることに気づく。

「うわぁー」

小声で口から漏れた言葉はイケメンは寝ててもイケメンだという現実のため息。

思わず髪を触ってしまう。

????????!

髪を触ったせいか、彼は寝返りをうち私の腰に抱きついてくる。

(何これ!これは現実?)

戸惑いと彼をおこさないようにどうやってベッドからでようかしばし悩み、10分程かけて彼とベッドから抜け出す。

とりあえずタバコに火をつけソファーへ横たわった。

(えーと、昨日は帰ろうとして一緒に寝ようっていわれて…結局ヒョル君と一緒に居たいって思って泊まったけど…)

彼は何にもしてこなかった。

私は腕枕をせがんでそのまま寝てしまったのだ。

ハッと我にかえり携帯をバッグから探し出す。

もう昼の12時に近い。

その時、部屋の電話が鳴り響いた。

ヒョル君の方へ視線を向けると彼はモゾモゾと腕を伸ばし電話にでる。

(何喋ってんだろう…韓国語だから昨日一緒にいた子たちからかな?)

すぐに電話が終わり彼の戻した腕が何かを探している。

その直後、彼はガバッと起き上がったので私はびっくりしてしまった。

「あ、お、おはよう」

ヒョル君は私を見つけほっとしたような顔をしていた。

「雪さん起きてたの?」

「うん…」

なんとなく後ろめたい感じがする私は起き上がりタバコを消す。

「私、帰るね」

ここにいる理由はない。

ヒョル君は驚いた顔をして「なぜ?」と聞いてきた。

普通に考えて帰る理由は沢山あるだろう。

それを問いかけられるとあたかもヒョル君の側に居ることが当たり前のような言い方に感じ、少しだけきゅんとしてくる。

「私、家に帰んないと。化粧も落としたいし…」

ヒョル君はベッドから出て私の隣へやってきた。

「私は雪さんと一緒にいたいです。」

ストレートに嬉しい言葉を言われてドキドキしない女はいないだろう。

まして体の関係はなく、こんなに相手から一緒にいることを求められるような事は久しぶりだ。

「でも…」

家に私が居ないのが当たり前の子供達でも、私は毎日遊び歩いてる訳にはいかない。

母のお説教も増えるのは嫌だ。

「帰って少しは家の事やらなくちゃ…、子供のこともあるし。」

ヒョル君の顔が少し曇る。

「子供?」

え、そこ?

私が帰るのが嫌でそんな顔をしたんじゃなくて、子供にくいつく?

てか、子供いることいってなかったっけ??

「そうだよ、私、離婚して前の旦那との間に子供いるんだよ。」

ヒョル君は頭の整理ができないようだ。

これで彼は私から一歩離れたような気がした。

「雪さん」

ヒョル君は私の想像しない行動をとった。

突然抱き締められたのだ。

(なんで?!)

理解のできない私に彼はこう言った。

「頑張ってるんですね。…素敵です。」

彼は多分ものすごく頑張ってる母親業を想像したのだろう。

「私もオモニしかいません。1人で子供育てる大変な事見てきてます。

ひょんな事で彼の家庭事情を聞いてしまった。

でも多分、いや、おそらく彼の母ほど私は頑張っていない。最低限の事しかしていないような気がする。出なければこんな所にとまったりしないだろう。

「ヒョル君?そう言ってくれるのは嬉しいけど、だから帰んなきゃ。」

ヒョル君は納得してくれた。

帰り支度をし、ドアに手をかける。

「雪さん、すぐに連絡します。」

ヒョル君は携帯を片手に持って見せた。

私は微笑みこの部屋を出た。


「ただいま…」

誰も居るはずがない家に帰ってくる。

子供達は学校へ行ってる時間だし、母は仕事へ行っている。

すぐさま化粧を落とし一息ついた所で携帯を見た。

不在着信がついている。

(もしかしてヒョル君?)

画面をタッチするとそれは先ほどホテルにいるとき来てた電話で母からの連絡であった。

すぐさまかけ直す。

「あ、雪?今日団体さんが急遽来ることになって厨房人足りないから遅くなるしこっちに泊まるから!」

母は温泉宿の厨房で働いている。朝早いので仕事が遅くなるときは時々泊まったりする。

「うん、いいよ。明日は子供達も休みだし、私は連休だから。」

宜しくといって電話は切れた。

久しぶりに今日は子供と私だけになった。

やはり帰ってこなくちゃ行けない日だったようだ。

(さて、夜ご飯は何をつくりましょうか)

気持ちを切り替え、母親業に専念する事にした。


夕方になりそろそろ夜ご飯の支度をしようか思い悩んでいたとき、携帯の着信があったことに気付く。

(あれ?いつ電話あったんだろ?)

携帯をタッチすると胸が急にドキドキと聞こえるような鼓動をうつ。

(ヒョル君)

着信はもう3時間も前のもので、私は急いで電話をかけ直した。

トゥル…

電話の呼び出しは一度なるかならないかくらいですぐにヒョル君が出る。

「もしもし、雪さん?」

ヒョル君の声は心なしか嬉しそうに聞こえたのは私の思い上がりだったのだろうか。

「うん、雪だよ…ごめんね、電話気付かなくて」

「いえ、いいんです。こうして声が聞けました…今、何してたんですか?」

ヒョル君は明るい声で返してくれる。電話の声は昨日よりずっと彼を私のなかに入り込ませる気がした。

「夜ご飯何作ろうか悩んでた」

「私も雪さんの料理食べたいです。ダメですか?」

…え?

私の料理が食べたいって言ったって昨日会ったばかりの外人を家に入れるのはどうだろう。

「あの、家はちょっと…昨日知り合ったばかりだし…その、何というか…」

とても歯切れの悪い言い方だったと思う。

「残念です。日本の家庭料理食べたことなくて食べてみたかった。」

声のトーンが低くなる。

「すみません。」

私が謝ると途端にヒョル君は慌てて

「いえ、いいんです。私が図々しかったから!そうだ!ご飯食べに行きませんか?」

(ヒョル君はそう言ってくれたけど、子供達置いて出掛ける訳には行かない)

「すみません、今日は母が仕事でいないから子供置いて出掛けるのはちょっと…」

するとヒョル君は

「子供達も一緒にどーぞ」

とすぐに返答した。


…何故こんな事になったんだろう…

私は今、ホテルの和食料理店で天ぷらを食べている…

テーブルの回りには子供と昨日一緒だった男の子達、そしてヒョル君。

そう、結局彼の誘いに乗ってしまったのだ。

初めは緊張していた子供達も日本語が話せる彼らに次第に打ち解けて行った。

「雪さんおいしい?」

隣でヒョル君がニコニコしている。

「うん、凄く美味しい。こーゆーとこで食事する事ないから。」

仕方ない、子供達が楽しんでるし、私も美味しい料理があるんだから楽しもう。

イケメンに囲まれてるのも悪くない。

ヒョル君は私の返事に満足したらしく自分も刺身にパクついている。

ただ、醤油ではなく持ち込みのコチュジャンにつけて食べてるけど…

その時、眞樹が私の袖をツンツンと引っ張った。

「ママ~今日ここにお泊まり?」

「は?」

何を勘違いしたのだろう。

ホテルで食事なんて旅行のときしかないからきっと泊まると思ったのかもしれない。

「違うよ、食べたらお家に帰るよ」

眞樹は「えーっ」といってトボトボとさっきまでかまってくれてたウンネ君のとこへいった。

すると、眞樹となにやら話をしていたウンネ君が私にやってきた。

「雪さん、眞樹は明日学校ですか?」

「いえ、明日、明後日休みですが…」

何か良からぬ予感がする。

「じゃ、ここにステイしませんか?僕、眞樹と遊ぶのたのしーです。」

冷静に、冷静に。

どうしてこの人達は突拍子も無いことをさらっと言うのだろうか。

「ママ泊まるの?」

優羽は期待を込めて私を見る。

「泊まんないわょ、ここいくらするかわかんないし…」

ボソボソとやり取りをしていると隣からヒョル君がひょいっとはいってくる。

「雪さん明日仕事?」

「いえ、仕事では無いですけど…」

「じゃ、お部屋用意するから泊まればいーよ」

笑顔で断言するイケメンの言葉に私は言い返すことすら止めて流されてしまおうかとも思ってしまう。

「…ヒョル君。私そんなにお金に余裕あるわけじゃないからこんなホテル泊まれないよ。」

情けない。凄く、物凄く。

恥ずかしさのなかでうつむき、赤くなるのがわかる。

「大丈夫です。私達といてお金の心配いりません。僕達が雅樹達と遊びたいんです。」

そう言われても…

昨日知り合ったばかりの外人を簡単に信用していいものか…

しかもなんでこんなに若いのにお金があるんだろう。

色んな考えがめぐり、思わず黙ってしまう。

「雪さん?ダメですか?」

でた、ヒョル君のその顔は反則だ。

「…じゃ、お言葉に甘えて…」

眞樹と優羽は大喜びだ。ウンネ君達は今日買ったゲームがあるらしく、部屋で一晩中ゲームしようとサッサと子供達を部屋に連れて行こうとする。

隣ではヒョル君がニコニコと笑っていた。



「うわ、この部屋も凄い!」

案内してもらった部屋は2つ、1つは子供達の泊まる部屋。

もう一つは私の泊まる部屋。

どちらもヒョル君達の部屋に負けじと劣らない部屋だった。

「いいのかな…」

呟く私にヒョル君は

「いいんです。ウンネ達も喜んで眞樹達と遊んでます。ありがとう雪さん」

いや、お礼いうのはこっちだし。

「じゃ、お言葉に甘えて」

ヒョル君は眞樹達と遊んでくるといい、部屋をでた。

とりあえずお風呂に入ろう。

アメニテイも高級そうなものばかりが並んでいる。

お湯を張り、私は贅沢なため息を漏らした。

そしてプリティーウーマンのような

状況にうっとりしながらつい、うたた寝をしそうになってしまった。

(ビー、ビー)

部屋のチャイムがなっている。

ハッと我にかえり、急いでバスローブを羽織る。

ドアを開けるとヒョル君が私を見て視線をそらした。

「あ、あの、眞樹達眠そうだったので今部屋に連れて行きます。」

ヒョル君の後ろには欠伸をしてる眞樹と優羽がいる。

「あ、ありがとうございます。」

そう言いながら自分の格好に恥ずかしさを感じ、顔が赤くなるのがわかった。

眞樹達は隣の部屋へ入り、ヒョル君は「グッナイ」と扉をしめた。

「色々すみません。」

ヒョル君に頭を下げドアを閉めようとしたとき不意にその腕を掴まれる。

「ヒョル君?」

振り返った先にみたのは真剣な顔をしたヒョル君だった。

「一緒に居て」

余りのストレートさに思わず頷いていた。

昨日に引き続き同じ人と同じホテルで過ごす。有り得ない現実に心はマヒしてしまったのだろうか。

それともヒョル君が持つ笑顔と大胆さに私は惹かれていってるのだろうか…

とにかく私の中で怪しいとか、そんな警戒心はなくなっていた。

「なんか飲む?」

私の問いかけにコーヒーと彼は答えた。

お湯を沸かし、コーヒーを入れ、彼に差し出す。

ヒョル君は黙って受け取ったまま何もしゃべらない。

沈黙が痛い。

急にどうしたのだろう。

何か喋んないと!!

私は焦るあまり逆に言葉が出てこなくなっていた。

「雪さん…」

やっとヒョル君が口を開く。

(良かったぁ)

「雪さんは彼氏は居ますか?」

…………は?

何故こんな時に聞いてくるのか不思議だ。

「居ないけど」

ヒョル君は続けざまに質問をぶつけてくる。

「好きな人は?」

「いないよ」

これはもしや恋愛相談的なものなのか?

韓国と日本の恋愛事情って同じならアドバイスもできるんだけど…

勝手にそう思っていると突然ヒョル君が私に向き直る。

「ど、ど、ど、どーした?」

ビックリして思わずどもってしまう。

「私、初めて雪さんと目が会ったときに凄くドキドキしました。雪さんの笑った顔がとても素敵で、雪さんの事もっと知りたくて、そばに居てほしくてどうしようもない。」

私は夢でも見てるのだろうか??

昨日会ったばかりの外人に告白されてる?

しかも凄いイケメンで、お金持ち。

それこそプリティーウーマンさながらだ。

「雪さん、私、ここにいる間、出来る限りあなたを口説きます。そして、私を好きになって下さい。」

あいた口がふさがらないという事を初めて経験した。

そんな私を見てヒョル君はとびきりの笑顔になる。

そして、そっと私の頬にキスをした。

「可愛い…雪」

11も年下の子に可愛いと言われ、誰かの特別な存在にいることを私はうれしくもそれを素直に伝える事はできなかった。

ヒョル君はそっと手を握り「私のこと嫌いですか?」と子犬のような目をして問いかけてくる。

とてつもない反則技のような気がする。

嫌と言えない日本人。

「嫌いじゃないけど…」

ヒョル君の手が更に私の手をぎゅっと握る。

私、たぶん落ちる気がする。この人に口説かれてきっと落ちない人はいないだろう。

熱っぽく見つめる彼は昨日の夜とはまた別人のようだった。

「私は自分の気持ちに正直に行きます。覚悟しといてね、雪」

そういうと彼は部屋を出て行った。







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