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1日目

沢山のいけない事を重ねてきた。

沢山の苦しい事から目をそむけてきた。

それはもう消せない事実で、誰かを愛する度に諦めという感情に変わる。




「寒くなってきたね」

車を運転しながら男はため息まじりに話しかける。

私は見慣れた景色をぼーっと見ながらあいづちをうった。

それはあくまでも愛想の一つで、好きな人とたわいのない会話でも楽しいという声のトーンとはまるで違うものだ。

車は順調に走り、すぐに目的の場所へたどり着く。

「また電話するよ」

車からの降り際、男は優しく微笑み人目を気にしながら私の手にお金を握らせ、すぐにその場から車を発進させた。

(ふぅ)

男から解き放たれた解放感からか私は少しため息を吐く…

そしてすぐさま財布へお金をしまい帰路へついたのだった。


「ただいま…」

薄暗い玄関に立ち、荷物を置く。

二階からは女の子達の楽しい笑い声が聞こえてくる。その時奥のリビングからバタバタと小さな足音がやってきた。

「ママ、おかえり!!」

白い肌とクリクリの瞳、少し伸びてきたまっ黒な髪の男の子が嬉しそうにドアから覗いている。

その瞬間、さっきまで自分がしてた事に罪悪感と嫌悪感がこみ上げる。

「…ただいま、疲れたからすぐお風呂はいるね」

私は子供に触れることもせず、すぐにバスルームへと向かった。

熱めのシャワーで全身をくまなく洗った後、急いでTVを見ている子供のうしろから抱きついた。

「あー、仕事疲れたぁ。眞樹のお仕事は終わったの?」

眞樹と呼ばれた男の子はちょっと固まった後、罰が悪そうにやってないと答えた。

「ダメじゃん!早くやんなさい。」

ノロノロと私から離れランドセルの中のノートとドリルをだしてくる。

「仕事はちゃんとしないと怒られるんだよ、眞樹は勉強が仕事でしょ?だったら言われる前に終わらせておきなさい。」


そう言いおわり、私は二階へと足を向けた。

階段を上って右側の部屋からは鳴り響く音楽に混じって賑やかな女の子達の会話が聞こえてくる。

(トントン)

ドアをノックすると急に会話が途切れ、音楽だけが鳴り響く。

「何?」

開かれたドアの向こうにはニコニコと笑顔で見事な黒髪の娘がいる。

その後ろから見える女の子達は一斉に

「こんにちわ~!」

と、こちらへ挨拶をしてくる。

私は軽く笑顔で手を振りながら

「ママさ、夜出掛けるからバーバ帰ってきたら夜ご飯いらないって伝えてくれない?んで、疲れたから出掛けるまでちょっと休むわ」

とだけ言うと、すぐさま向かいの部屋へ入り、ベッドへなだれ込んだ。


ベッドに横になりながらボーっと煙草をふかす。そして投げ捨てた携帯に目をやった。

とりあえず携帯を手に着信を確認してみるが、誰からも連絡はない。それでもメールの問い合わせをしてみる。

「ないか…」

当然だ。

地下鉄に乗っていたわけでも、山奥に行っていたわけでもない。

今日はずっと電波のある街中でしか移動はしていないのだから。

だけども、ほんのちょっとの期待はしていた。もしかしたらなんかの原因でセンター止まりになっているメールがあるかもしれないと…

それはあくまでも期待に終わり、疲れた身体を急速に眠りにいざなう合図のようでもあった。


(ピッピ、ピッピ)

聞き覚えのある電子音で、まだ眠いといっている頭を無理やり稼働させる。

壁の時計は19時を回ったばかりだ。

眠りについたのは16時過ぎ。三時間も寝ていない。

普通の人ならば昼寝で三時間も寝れば十分だとおもうだろうが、実は昨日から合わせて三時間しか寝ていないのだ。無理に起こした頭と身体が睡眠を欲しているのはわかっている。けれども私は起きなければいけなかった。階段を降りる行為も気を抜くと落ちてしまいそうなほど覚醒していない。

賑やかなリビングをあけ、ダイニングテーブルの椅子へドサッと座った。

その向かいには母が座っている。

「また夜出掛けるの?」

嫌みっぽく言う母の隣で眞樹はご飯をパクついている。

「うん、会社の人と…あ、優羽、ママにコーヒー入れて!」

食べ終わった食器を片づけていた黒髪の娘についでとばかりにお願いをした。

「よく、まぁ夜勤明けで飲みに行けるわね、私はあんたの子供の世話するために一緒に住んでるんじゃないよ」

いつものお決まりの文句だ。

しかし言われても仕方ない、母に子育ては任せっきりで、仕事上子供と会えない日もある。

家にいるのは寝てる時くらいだ。

仕事が早く終わっても今日みたいにおこずかい稼ぎをしている事も多々あるし…

私は子供が入れてくれたコーヒーを静かに飲んだ。

子供達はすでにTVに夢中で私がいようがいまいが関係ない。

コーヒーを飲み終えた私は出掛ける支度をし、終始グチグチ言う母を尻目に家をでた。


(さむ…)

10月も半ば、夜になると風が冷たく服のコーデにも悩み出す時期だ。

そんな寒さの中、賑やかな繁華街のコンビニで私は人を待っていた。

「お疲れ様でーす」

20代も前半の若い女の子達が連れ立って私へ挨拶してくる。

「お疲れ」

彼女達と合流した私はたあいのない会話をしながら目的の場所へと向かった。


ふさきぬけの二階へと案内された席はテーブルが2つしかないこじんまりとしたスペースで、一階にある入り口がよく見える方へ私達は座った。

「乾杯~」

疲れの抜けない体にビールが染みる。

目の前には美味しそうな料理が並んでこの上なく幸せな瞬間だ。

「今日は大変だったんですよ~」

向かいに座っている沙世が隣の水樹と目を合わせながら話す。

小島沙世、肩までのボブヘアーに切れ長の目が特徴だ。片瀬瑞希はショートヘアーで色白の美人。

「高見さん急変して~死亡退所っす~」

「え、まじで?私が帰るときなんでもなかったけど!」

私はビールを飲みながら沙世に問いかけた。

「それが午後になって意識なくなっちゃって…でも家族は間に合ったんで、手を握られながら逝きました」

「そうか…看取りでいたから緊急搬送もなかったんだね」

「はい」

とたんに重苦しい空気が立ち込める。

「ま、仕方ない、頑張ったよ!」

明るく話す私に後輩達はーですよねっとまた先程の元気を取り戻す。

私達は老人介護施設で働いている。

給料は安いし、仕事もキツい。だからこそ好きな人でないと務まらない仕事だと私は思う。

こうして会社の子と飲むのはストレス発散目的だが、いつも仕事の話になってしまう。

それだけみんなこの仕事が好きなのだ。

だからこそ、年の離れた若い子達といてもさほど距離は感じられない。同年代の若い子と違ってあまりチャラさはないと思う。仕事を離れれば変わらないのだろうが、どこか芯のある子達ばかりだと思う。人を思う優しさに間違いはない。

でなければこの仕事はできないからだ。

「飲も、飲も!」

それでも割り切りの気持ちがなければ続けていけないのも事実。

すぐに私達は別の話題へと進んでいった。

そのとき、冷たい風とともに店の扉が開き、私はチラリとドアをみる。

視線の先には4~5人の若い男性達がいた。

店員が静かに近寄り挨拶をしている。

(おっイケメン)

そう思ったがなぜか違和感がしょうじる。

男性達は店員に案内され二階へと上がってきた。

「んで~茉莉華さん聞いてます?」

頬を赤くした水樹が私の隣にいる遠藤茉莉華に話しかける。

この中では唯一私の年齢に一番近い。

「やだ、あんたもう酔ってきたの?」

茉莉華は水樹の顔をマジマジみながら笑う。

そのとき、先程の男性達が二階へあがってきて、空いていたもう一つのテーブルへと座った。

(あっ…)

チラリとやった視線は思わず一人の男性の視線と重なる。

少し茶色の髪に大きい目、そして薄い唇に私は惹かれた。

(かっこいい子だなぁ)

そう思ったものの慌てて視線を逸らす。

おばちゃんが値踏みしてるみたいで相手は嫌だろう。

「ところで、最近はどうなんですか?」

沙世がニヤニヤしながら私に問いかけてきた。

「へっ?」

「やだなぁ、彼氏ですよ。」

沙世の

話に水樹と茉莉華もこちらを見る。

「あー、とっくに終わりましたけど…」

私は店員を呼んでウーロン杯を頼む。

「はやっっ」

茉莉華は聞いてないとばかりに質問攻めにあわせた。

「いいじゃん、所詮妻子持ちだったし、いつかは終わるって最初からわかってたから自分に歯止めもかけれたからね。」

そう、私は最近まで不倫をしていた。

若い頃は人の物というだけで魅力はなくなったが、最近は二度と結婚はしないから未来ある人との付き合いはさけた。

その結果、不倫という需要と供給が私のなかでピッタリとはまったのだ。

「不倫なんて終わって良かったですよ!」

水樹が本気で私に言う。

「確かに、でもね、誰かとずっと一緒にいることは今は考えられないし、寂しいときにそばにいてくれる人は欲しい。誰かにとっての特別な女性でいたいと思う。だけど結婚を申し込まれるような深い付き合いはできないなら二番目に愛されるのが都合良かったのよ」

「離婚経験したらそういうふうになるんですかね?」

私以外の女性三人は未婚だ。

「さぁ、私が特別かどうかは結婚して離婚したらわかるんじゃない?」

いたずらっぽく笑う私をみて口々に離婚したくないと笑った。

「ちょっとトイレ」

私は一階にあるトイレに向かうため立ち上がり、階段を降りようとした。

(つるっっ)

階段の一段目が思ったより深く滑り落ちそうになる。

手すりにしがみついたけどふと、人の温もりを感じ階段を落ちないですんだ自分がいた。

驚き振り返ると先程目のあった男性が私を後ろから抱えていた。

「あ、あの、すみません」

恥ずかしさと近くでみるイケメンっぷりに顔が熱くなるのがわかる。

「だいじょうぶですか?」

いつも聴き慣れているイントネーションとはちがう。

「はい、ありがとうございます。」

そういうと男性は私を離しニコリと微笑んだ。

「気をつけてね」

やはりしゃべり方に違和感を覚える。

私はぺこりとお辞儀をし、ドキドキする胸を抑えるかのようにトイレへ駆け込んだ。

そして、彼もまた私に続くようにトイレに入っていく音が聞こえる。

…ドキドキが収まらない。

まるでドラマのようなワンシーンだった。

あの瞳に吸い込まれそうになった。

大きく息をはき、トイレからでる。そして二階へと上がる。

「えーそうなんだー」

沙世のいつもより少し高い声が耳に入る。

なぜか隣の男性達と喋っている。

「えーと、何があったの?」

小声で茉莉華に訊ねた。

「なんか急に話かけられて…でも日本人じゃないらしいよ」

こんな田舎に外人は珍しい。

さっきから抱いていた違和感は日本人じゃない空気から感じていたものだった。

物珍しさに沙世は話しているのだろう。

「良かったら一緒に飲みませんか?この街のこと色々聞きたいです。教えて下さい」

私達はいっせいに目をあわせた。

「どうする?」

「私はどっちでも…」

「面白そうだね」

嫌そうな素振りは皆みせない。

「んじゃ、」

私達はテーブルをくっつけ、一緒に飲むことにした。


私の右隣の男の子はヨンハ君、左隣はヒョル君、先程私を助けてくれた人だ。そしてチャン君とウンネ君。

韓国人で観光でこのまちにきたらしい。

それにしてもみな顔が整っている。韓国は整形大国だから男性も普通に整形すると聞く。

「整形なのかなぁ」

ボソッとつぶやいた私の声をヒョル君は聞き逃さなかった。

「整形?」

慌てて私は話をすり替える。

「ううん!そういえば何でみんなそんなに日本語上手いのかな?」

必死に話題を変えようとする私に他の子もつき合ってくれた。

「私達のビジネスパートナーは日本人多いです。仕事でよく来るし私達も実践で上達しました。」

チャン君は黒い短い髪を少し触りながら答えた。

「凄いね、韓国は受験とかも大変なんだよね、確か…だから勉強するのは慣れてんのかな?」

男性達は微笑む。

「そうだよねー、私達韓国語わかんないもん、韓流ドラマは好きだけど」

水樹が言うと男性達はちょっと真顔になってすぐに先程の笑顔へと戻った。

「こっちのドラマ見るんですか?」

ヒョル君はニコニコと聞く。

「あー、私は見たことないから全然わかんないけど…」

そのとき、沙世が会話に割って入ってきた。

「そーいえば今度この街を舞台に韓国ドラマの撮影があるとかなんとかってニュースになってたよ~」

「へー、誰が来るだろうね?聞いてもわかんないけど」

茉莉華はケタケタと笑っていた。

「それにしても皆さん美人ですね」

ウンネ君が私達をみて話す。

それにつられてヨンハ君もウンウンと頷く。

「えー、韓国の女性綺麗じゃん、そんな事言われてもお世辞にしか聞こえないよ」

沙世は少し照れながらウンネ君を見る。

「いえ、綺麗です。」

ヒョル君は真顔で私を見つめ、私だけに聞こえる声で呟いた。

「あ、ありがとう…」

TVの情報でしか知らないが、韓国人はこうも女性に優しいのか。

それでもそれがお世辞であろうがなかろうが悪い気はしない。

そしてそっと私の手に温かな温もりを重ねてくる。

(え、)

他の人からは見えない位置で重ねられた手に私の全ての神経は奪われた。

「名前教えて下さい。」

ヒョル君はニコニコと私を見つめる。

「雪…高森雪」

私は消え入りそうな声で告げた。



楽しかった時間はあっという間に過ぎた。

「そろそろ帰んないと明日の仕事に出れないわぁ。」

茉莉華は腕時計をチラリと確認し、ため息混じりにしゃべった。

(うわ、もう12時なんだ)

そんなに長い時間ここにいたことに気がつかないくらい楽しかった。

「まるでシンデレラですね」

ヒョル君が穏やかな笑顔で見つめる。

(シンデレラみたいに若くないけどね…)

「私のガラスの靴はどっかに行ったまま無くしちゃったみたいだから一生ハッピーエンドはこないのよ」

早口だったせいか彼は聞き取れなかったらしく、首を傾げていた。

「連絡先聞いてもいい?」

顔をあげた正面にいたチャン君が沙世に話しかけていた。

(やるぅ)

沙世もまんざらではないらしく、携帯の番号を交換している。

(あれ?でも国際電話ってどーすんの??)

沙世も同じ事を思ったらしく聞いていた。

そのとき、

「私も雪さんと連絡とりたいです。私達は一週間こちらにいます、その間にまた会えませんか?」

重ねられた手に指と指が絡まる。

「い、いいよ。」

恥ずかしさと嬉しさにヒョル君の顔を見ることができない。


携帯の番号とアドレスを登録し終わるとちょうど店員さんがお会計を持ってやってきた。

「ここは私達が払います」

私達が何か言う暇もなく、ウンネ君がカードをだす。

(…どーみてもブラックカードだよね。)

でも、韓国じゃ当たり前のカードの色なのかもしれないし…色々考えは巡るが若い子が持っているはずがないと言うことで私の考えは落ち着いた。


「ご馳走さまでした」

店をでたドアの前で私達は彼等にお礼とお辞儀をし、解散した。

私はタクシーを探すため少し歩く。

「雪さん!」

後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。

振り返ると先程別れたばかりのヒョル君がいた。

「ど、どーしたの?」

ヒョル君は大きい目がなくなるかと思うくらい微笑み

「2人で飲みませんか?」

と誘ってきた。

さすがの私も警戒はする。

相手は外国人だ…

でも、イケメンの強引さに弱い私は明日仕事が休みという事もあり一緒に飲むことをOKした。

「んじゃ、私の泊まっているホテルで飲み直しましょう」

手を引かれ、タクシーへ乗り込んだときさすがにヤバいと思った。

「ここお願いします。」

ヒョル君が運転手に差し出したカードにはホテル名が書いてあったがさすがに読む時間はなく、私は不安を募らせる。

ほどなくしてタクシーが泊まった先は私達の街で一番宿泊代が高いと噂されているホテルだった。

ヒョル君はサッとタクシーを降りると私が降りるのを待っている。

おずおずと私はヒョル君の後に続いた。

「お帰りなさいませ、パク様」

フロントの男性がチラリと私をみるが、すぐさまヒョル君に視線をもどす。

カードを受け取ったヒョル君が私を手招きしてエレベーターへ向かう。

「ここ、泊まってんの?」

私が訊ねると

「うん」

と可愛らしい声で返事をしてきた。

もしかして思ったよりこのホテルは安いのかもしれない。

こんな状況でそんな計算しかできない自分がちょっと情けない。

エレベーターは17階で止まった。

1707

ドアへカードを差し込みヒョル君がどうぞと入れてくれる。

「おじゃま…しまぁす」

視界に広がるのはビジネスホテルの殺風景なものとは全然違うものだった。

(何、この部屋)

いわゆるTVででてくるようなオシャレでリッチな部屋。

「ヒョル君…」

思わずヒョル君を見つめる。

「何歳だっけ?」

思わぬタイミングで年齢を聞かれたヒョル君は苦笑しながら26歳と答えた。

私の頭はかなりの推測が回っていただろう。

(その歳で豪華ホテルに泊まるって…)

(あ、そうか、みんなと割り勘で泊まってるのか!!)

「ヒョル君みんなは?」

笑顔で聞くと当然のように

「それぞれ別の部屋に泊まってるよ」

と答えた。

(別の部屋?!みんな一緒じゃないの?ヒョル君って何してる人?)

あまりに知らない人にのこのことついてきた自分の浅はかさに泣きたくなる。

「雪さん何飲む?」

差し出されたのはルームサービスのメニュー表だった。

(ワイン、シャンパン、スコッチ…)

洒落たものに高い値段。

「ビールで…」

とりあえず頼んだがふと冷蔵庫に目がいった。

「ビールならあそこに入ってるんじゃない?開けていい?」

ヒョル君はいいよといいながら自分の上着をクローゼットへかけていた。

冷蔵庫のなかもすごかった…

まず、自動的に取った飲み物がコンピューターに記録されるやつじゃなく、自宅の冷蔵庫みたいに勝手に取って自己申告してね的なものであるという事、(不正をするようなセコイヤツは泊まらないというホテル側の自信が見える…)冷蔵庫の中に缶入りの外国製キャンディーがあると言うこと、日本のビールが置いてないということ。

冷蔵庫一つで私の常識はパニックになっている。

横の棚に目をやると電車ケトルじゃなくエスプレッソマシーンがあり、それにもまたびっくりさせられた。

とりあえずビールを一つとると

「あ、私にもそれ下さい」

とヒョル君が言ってきたのでもう一つに手を伸ばす。

ヒョル君に渡し、私はすぐさま自分のビールを開けた。

とにかく落ち着きたかった。

「いただきます」

ヒョル君にビールを向け、彼の笑顔をみてから一気に半分くらいは飲み干しただろう。

ソファーにこしを下ろし、何から尋ねようかと悩んでいた。

「雪さんは何歳なんですか?」

こちらから色々質問しようと思っていたのに逆に質問されてびっくりした。

「さんじゅう…なな」

ヒョル君の表情が一瞬固まった。

わかってる。言いたいことはわかる。

ゴメンねおばさんで。

「雪さん私より11も上?」

ヒョル君は大きい目を私に近づけて覗きこんできた。

(う、イケメン接近はヤバいって!)

すかさず横を向いて視線をほどく。

「少しだけしか違わないと思った」

がっかりさせただろうか。

私はうつむき、ビールをまた飲んだ。

「綺麗です。」

ヒョル君の一言に顔を戻すとすぐ目の前に整った顔があり、思わず後ずさりするほどびっくりする。

「と、ところで、ヒョル君はお仕事なにしてる人なの?」

会話を逸らそう…

打算的な恋愛ばかりしてきた私は最近こういう展開に慣れていない。

ましてや、この歳でこんな若いイケメンに口説かれ?てる事自体ありえない。

「メディア関係です」

???

さらっと答えてくれたもののTV関係のお仕事っていっぱいあるよね?

「雪さんは質問ばかりですね」

ヒョル君は苦笑いしながらビールを飲み続ける。

「はぁ…すいません…」

だってね、外国人と仲良くなったことないし。のこのことついてきたはいいけど想像外でどうしたらいいかわかんないし。

「さっきのお店で一番はじめに雪さんと目が合いました。」

ヒョル君はソファーに座り直して口を開く。

「すぐ目をそらされてしまいましたがとても綺麗な目が印象的でした。落ちそうになって捕まえた時は雪さんの香りがとてもいい匂いでそのまま抱き締めたくなるほどで…」

体中が、あつくなる。

なんてストレートに話をする人なのだろう。

私が見つめていると、彼は慌てて

「でも、変なことはしないですよ!」

と、頬を赤らめた。

…可愛い

変なこと行きずりでもいいからしたいと思ってしまうほど、彼には男性フェロモンがまとっているかのようだ。

「え、と、次なに飲みますか?」

ヒョル君は頬をあからめたまま冷蔵庫へ向かった。

「ちょっと酔っちゃったみたいだからもう、お茶で」

ヒョル君は私にお茶を渡し、自分はまたビールを開けている。

(お酒強いなあ。)

ビールを飲む動作も、足を組んでいる姿も同じ人間と思えないほど特別なオーラを感じるのは、私が酔っ払ったせいなのか?

なんかもうどうでも良くなってきた。この人なら間違いが起きても構わない。てか、こんなイケメンとHできるなんておばちゃんにとっては最高にラッキーなのではないかと思ってしまう。

「雪さん?そんなにみないで下さい」

いつのまにかガン見していた。

情けない…

ハッと我にかえった瞬間、欠伸が口から出てくる。

(さすがに眠いな)

「雪さんつまんない?」

ヒョル君は心配そうな顔をして見つめる。

「ううん、仕事であんまり寝てなくて」

言い終わるか終わらなかというところで、2度目の欠伸がでてしまい、すぐに口を隠す。

「そうですか、明日も仕事ですか?」

私はお茶をテーブルに置き、時計に目をやりながら答える

「日付はもう今日だけどね。休みだよ。」

すると、ヒョル君は一緒に寝ましょうと微笑んだ。

私の頭は酔いと眠気で考えることができず、しばらく言葉がでてこないままヒョル君を見つめていた。







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