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城内の死闘

 オーストンはそれなりに手間取ったが、やっと城門の前に到着していた。そこはすでに何者かによって破られていて、多くの兵士達が倒れていた。


 オーストンはその兵士達を一人一人確かめたが、全員が致命傷を負い、すでに息絶えていた。オーストンは立ち上がってから少しだけ目を閉じると、すぐに破られた門を睨み、その中に向かって慎重に歩き出した。


 門の内にも何人もの兵士が倒れていて、それ以外の血も飛び散り、肉塊も転がっていた。城内に続く扉の横にはそれほど重傷ではない兵士が何人かでかたまっていた。オーストンはそこに駆け寄って地面に膝をついた。


「どうした」


 その質問に比較的軽傷の兵士が顔を上げた。


「オーストン様。それが、死霊憑きの襲撃を受けまして。我々はボルツ将軍に助けていただいたのですが」

「ボルツ殿にか。今はどこにいるのだ」

「城内で戦っておられるはずです」

「そうか、いくらボルツ殿でも助太刀が必要だな。お前達はここでじっとしていろ」

「はい」


 オーストンは立ち上がると扉を開き、城内に足を踏み入れた。そこにも戦いの跡が見られる。オーストンはとにかくまずは玉座の間に向かうことにした。


 しばらく進んでいくと、戦闘の音が聞こえてきて、それに続いて轟音が響いた。本来の進行方向とは違ったが、オーストンはすぐにその方向に足を向けると、走り出した。


「うがあああああああ!」


 雄叫びと同時に両刃の戦斧が叩きつけられ、壁ごと肉体を粉砕する。


「化物どもが!」


 ボルツは戦斧を壁から引き抜き悪態をついた。


「確かに、これは困りますね」


 刀を持ったレイスはため息をついてうなずいた。


「どれだけの数が城内に侵入しているかわかりませんし、我々の武器では死霊を完全に倒すことはできません。困ったことに中々きりがありませんね」

「なにか考えはないのか」


 レイスは刀を振って血を払うと、額の汗を拭った。


「とりあえずオーストン様と合流したいところですが、どうしますか、将軍?」

「この状況でどうこう言おうとは思わん。しかし、奴が今どこにいるかなどわからんではないか」

「おそらくここに向かっているはずですよ。それくらいわからないんですか?」

「それくらいわかっている!」

「もうしばらくの辛抱だと思いますよ。かなり騒ぎになってるでしょうし、あのオーストン様なら間違いなくここを目指しているかと。それまでは、我々だけでなんとかするしかありませんよ」

「気に入らないが、仕方があるまい」


 その視線の先に、一体の赤い目をした死霊憑きが姿を現してきた。ボルツは戦斧を構え、レイスも自分の刀を構える。


「本当にきりがないですね」

「気を抜くな!」

「はい、わかっていますよ」


 二人は自分の得物で死霊憑きを迎え撃とうとした。だが、それは背後から切られてその場に崩れ落ち、刀を持ったオーストンが姿を現した。


「ボルツ殿、ご無事でしたか」

「ふん、当然だ。それよりこの非常時に今まで何をしていたのだ」

「街もかなり混乱して被害が出ていますから、ここまで来るのに手間取っていたのです。それより王の警備は」

「それなら選りすぐりの者を向かわせてある、心配はいらん」


 オーストンはそこで険しい表情になった。


「相手は死霊です。心配がないということなどありません」


 それからオーストンはすぐに背中を向けた。


「待て! どこへ行く!」


 ボルツはそれを止めようと声を上げたが、オーストンはそれを無視して歩き出していた。


「王をお守りに」


 それだけ言うと、すぐにその場から走り去っていった。


「おのれ!」


 ボルツは壁を殴りつけてから、すぐにその後を追い出した。レイスもため息を一つついてからそれに続いた。


「退くな!」


 一方、玉座のある謁見の間で、十人ほどの兵士が椅子やテーブルでバリケードを作り、その前で死霊憑きを食い止めていた。


「いいか、絶対に奴らを通してはいかんぞ! 我らはボルツ将軍にここを任されたのだ! 押し返せ!」

「おおっ!」


 隊長の号令に盾を持った兵士達は応え、一斉にそれを構えると、死霊憑きに盾ごと体当たりをした。四体の民間人から兵士までいる死霊憑きはそれで後退したが、すぐに体勢を立て直して飛びかかってくる。


「槍だ! 近づけるな!」


 槍を持った兵士四人が後方からそれを突き出し、飛びかかってきたモノを押し返した。それでも致命傷は与えられずに、ただ再び間合いが取れただけだった。


「押し込むぞ!」


 兵士全員が横一列に足を踏み出した。だが、女の姿をした死霊憑きが、いきなり兵士の姿をしたものの手をつかむと、それを兵士の中心に放り投げた。


「うわ!」


 それに巻き込まれた三人の兵士が倒れ、陣形が崩れると左右から残りの二体が飛びかかってきた。隊長は倒れた兵士を引きずって後ろに下げながら、投げられた死霊憑きに刀を振り下ろした。


「両翼持ちこたえろ! 中央は残りの一体を自由にさせるな!」


 倒れた兵士の変わりに、盾を持った兵士が中央に入り、残りの一体と対峙した。剣を構えて威嚇するが、女の姿のものはかまわずに飛びかかってきて、自らその体を剣で貫かれる。


「なにぃ!?」


 次の瞬間、その体が爆ぜた。その勢いは凄まじく、刺さっていた剣は折れ、その持ち主の兵士は吹き飛ばされてバリケードの中に突っ込み、動かなくなっていた。さらにその爆発の余波は他の近くの兵士達や死霊憑きにも影響を及ぼしていて、全員が体勢を崩している。


 そのなかでも左右の死霊憑き二体はいち早く体勢を立て直すと、まだ倒れている兵士達に牙をむこうとした。


 だが、そこに一つの影が駆け込んでくると、まずは右の死霊憑きの首をはねた。そのまま素早く方向転換すると、先ほど投げられた兵士の姿のものの体にも赤黒い刀を突き立てる。


「オーストン様!」


 ようやく起き上がった隊長がすぐにその影の正体に気がついて声を上げた。


「動かないでいい」


 低い、だが良く通る声でそう言うと、オーストンは残りの一体に向けて床を蹴った。死霊憑きも少し遅れて床を蹴る。


 そして、オーストンは突き出された腕を潜り、その刃で腹から相手の体を真っ二つにした。二つになった体はその場に転がり、全く動くことはなかった。


 そこに遅れてボルツとレイスが到着し、その場の状況を見ると、とりあえずは武器を下げた。


「状況はどうなっている!」


 ボルツの大声に、立ち上がった隊長が敬礼をした。


「はっ! 死霊憑きは一体も通していません!」

「そうか、負傷者はどうだ」


 隊長が振り向いて、バリケードに突っ込んだ兵士が立たされているのを見ると、大丈夫だという仕草を確認した。


「負傷者はいますが死者は出ていません」

「上出来だ」


 ボルツがうなずいた瞬間、玉座の右後方にある扉の奥から轟音が響いた。

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