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光の白刃

 騒ぎは街全体に広がっていっていた。そんな中、タケルは街の雰囲気とは裏腹に落ち着いた様子で歩いていた。


 その姿は今までとは違い、短剣と右腕の鎖だけではなく、上半身は腹の部分に鎖を巻きつけた皮の鎧。下半身には腿とすねが皮の防具に覆われ、その上には腹と同じように鎖が巻きつけられていた。


 その姿はいかにも重そうだったが、タケルは微塵もそんな様子は見せない。それに状況が状況だったので、それを咎める者もいなかった。


 その周囲では警備の兵士が走り回って人々を家に戻していた。タケルはそのうちの一人の腕をつかまえると、強引に自分に引き寄せた。


「な、なんだ?」


 その兵士は突然のことにただ驚いてタケルの顔を見る。


「何が起こっているのか、わかっているのか?」


 兵士はタケルに何か言おうとしたが、その目を見るとなぜか従わなければならないような気がしてきて、口を開いた。


「詳しくはわからないが、賊が侵入したんだろう。この街の方々で人が襲われたり火が放たれたりしているらしい」

「そうか、仕事に戻るといい」


 タケルが腕を放すと、兵士はすぐに自分の仕事に戻っていった。だが、その進路に突然人影が降ってきた。そしてそれは赤い目を光らせると兵士に腕を振り下ろそうとしたが、次の瞬間にはその背後から伸びてきた足に吹き飛ばされていた。


「借りるぞ」


 そうつぶやくと同時に、タケルは兵士の腰の刀を右手で逆手に抜くと、前に走り、しりもちをついた形になっていた死霊憑きの首一瞬光ったように見えた刀ではね、さらに振り向かずにそれを突き出し、心臓を貫いた。


 それから刀を引き抜くと、頭を失ったものはその場に倒れ動かなくなった。タケルは突然のことに呆然としている兵士に、柄を向けて刀を差し出す。


「気を抜かないほうがいい」


 兵士は目の前のことに呆然としていたが、なんとかその刀を受け取った。


「あ、ああ」


 兵士がさらに何か言う前に、タケルはすぐにその場から走り去っていった。残された兵士は自分の刀をじっと見たが、それが光ったのは気のせいだということにして、鞘に収めると、すぐに自分の仕事に戻った。


 それから数十分後、タケルは家が燃え、何人もの住民や兵士が倒れている場所に立っていた。


「思ったよりも状況は悪いようだな」

「それがわかってるなら、こんなところで何をしてるんだ?」


 そこに剣を背負った女が屋根から飛び降りてきた。タケルはそれがわかっていたようで、振り返ろうともしない。


「お前が何をしている」

「あんたと同じじゃないか。しかし、そうやってちゃんと武装してるのは初めてみるけど、なかなかきまってるじゃないか」

「それより、今起こっていることの源はどこだ」

「さあ、それがわかればこんなところでぐずぐずしてないだろうね」

「そうか、ならばこの街の中心だな」

「城に行くのかい? まあ、あそこなら面白いことがありそうだけど」

「邪魔をしなければ楽しみでもなんでもするといい」

「はいはい。死なない程度にやってきなよ!」


 女は背負った剣を抜き放つと、背後から跳んできた死霊憑きを一撃で切り、地面に叩きつけた。


「まったく、本当にどうしようもない」


 そうつぶやいてから、地面に埋まったそれに剣を突き刺す。そして女が振り向いた時には、タケルの姿はなくなっていた。


「せっかちな男だこと」


 女はそうつぶやいてから、剣を肩に担いだ。その周囲には血の臭いに引かれたのか、赤い目をしたものが複数集まってきていた。


「こっちは私がやっておくか」


 にやりと笑うと、女は剣を構えた。


 一方、道なりではなく、低い建物は登っていって真っ直ぐ城に向かうタケルだったが、その途中で人間でも獣でもない、巨大なものを見つけた。


「あんなものまでいたか」


 タケルは足を止め、その巨大なものをよく観察した。それはいくつもの人間の体や動物の体が集まり、常人の二倍の大きさはあって、まるで巨人のごとくなっているものだった。その巨人ゆっくりと動きながらも、その重量で近くの建物を破壊している。


 何人かの兵士が槍を持ってそれを包囲していたが、どうしていいかわからないようで、ただ牽制することしかできていなかった。その間にも建物はどんどん破壊されていく。


 タケルはその様子を見ていたが、おもむろに動き出すと、その巨人の近くの半分壊された建物の屋根に到達した。そしてタケルはそこから一気に空高く跳び上がると、右の腿の鎖を解いた。


「鉄鎖術、激」


 声と同時にその鎖は足に巻きつき、足の指先からすねまでが鎖に覆われた状態になった。タケルは空中で体を一回転させてから、落下の勢いのまま背後から巨人の右肩に蹴りを炸裂させた。


 肉が弾け、どす黒い血が飛び散り、鈍い音がして巨人の右腕を構成していた肉塊が地面に落ちる。着地したタケルは間髪いれずにしゃがんだ状態のまま体を回転させると、右足を巨人の右足首にあたる部分に叩きつけた。


 その一撃は多少肉を弾けさせたが、足首を破壊するには至らない。タケルはすぐにその場から転がって移動し、振り下ろされた巨人の左手のかわした。


 そしてタケルは片膝をついた状態で短剣を左手で逆手で抜くと同時に、右足の鎖とマフラーを右手で外した。タケルが短剣を上に投げると、まずはその柄に鎖が、そして刀身にマフラーが巻きついていった。


「光術、帯剣」


 そのつぶやきと同時にタケルが左手でそれを逆手でつかむと、その手にあるのは鎖が柄となった薄く鋭い刃を持った光輝く長剣だった。


 巨人は地面についていた左手を持ち上げると、体が崩れるのもかまわずに急激に動いてタケルに迫る。


 だが、タケルは全く動じずに中腰になり輝く剣を構えると、それをぎりぎりまで引き付けて地面を蹴ると、低い体勢のままそれと斜めに交錯した。


 結果は数秒後、巨人の体に斜めに光の軌跡が現れると、それは天を仰ぎ体の末端からぼろぼろと崩壊していった。タケルは立ち上がると、それに近づき、人間ならみぞおちにあたる部分に剣を突き刺した。


 そのままのじっとしていると、巨人の体はあらかた崩れ、残ったのはタケルの剣が刺さっている人間の頭蓋骨だけになった。タケルはそれを空中に放り投げると、剣で十字に切り、背を向けた。それからすぐに、切られた頭蓋骨は地面に落ちると粉々に崩れる。


 それを見ていた兵士達はしばらくの間あっけにとられていたが、気を取り直した時には、そこに残っていたのはバラバラになった肉の塊と頭蓋骨だった欠片だけだった。

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