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王都動乱の始まり

 それから十日ほどは散発的に死霊の被害が発生したが、それほどの被害はなく、オーストンだけで対処できていた。


 だが十一日目の昼。仮眠をとっていたオーストンは、駆け込んできた武装しているヘンリックに起こされた。


「一体何事だ?」

「それが、死霊に憑かれたものによって城の門が破られたという噂が広がっています。城への道は封鎖されているので真偽はわかりませんが、何か起きたことは間違いありません」

「こんな時間からか。すぐに向かうぞ」


 それからオーストンはすぐに装備を整え、槍を持ったヘンリックを伴って家の前に立っていた。それを見送るアンナは娘のミヌスの手を握っていた。


「いってらっしゃいませ。家のことは私が責任を持ちます」

「頼む。ミヌスもいい子にしているんだぞ」

「はい、お父様」


 二人に見送られ、オーストンとヘンリックは城への道を進んだ。街は何が起こっているのか確かめようとしている人の姿があり、言い知れない不安が誰の心にもあるようだった。


 そのまま二人が進んでいくと、道の向こうから服に血がべったりとついている女が走ってきた。


「誰か! 助けて!」


 オーストンはすぐにその女に駆け寄ると、体を支えた。女は荒い息で、顔は蒼白だった。


「何があった」

「それが、向こうで化物が出て」

「場所はどこだ」


 女は無言で自分が走ってきた方向を指差すと、そのまま気を失ってしまった。オーストンはその女を手近な者に預けると、ヘンリックに向かって一つうなずき、すぐに走り始めた。


 その頃、オーストン達の目的地では周囲の建物に火がつき、そこから何とか駆け出してきた老人は何者かに背中を抉られ、鮮血を上げながら玄関の前に倒れた。


 それ以外の建物にも火が放たれていて、逃げ惑う人々がいたが、それを襲う人の形をした、だがあきらかに人ではないものが何体もいた。


「ひい! 助けてくれ!」


 中年の男が腰を抜かして道の真ん中を後ずさっていた。その前には人の形をした何かが迫り、その男の足を踏みつけ、逆方向に曲げた。中年の男は声もなく気を失い、さらに顔面を踏み抜かれて動かなくなった。


 さらにそれは、倒れた親らしき者を起こそうとしている子ども二人に目をつけると、口からよだれを垂らしながら近づいていった。そして恐怖に固まっている子どもの前に来ると、その狂気しか感じられない赤い目それを見る。


「うおおおおお!」


 気合と共にそれの胸から槍が突き出た。だが、刺されたはずのそれは槍を強引に引き抜き、それに引きずられてぶつかってきた兵士を振り向きざまに振った腕で吹き飛ばした。


 そして再び子ども二人に向き直ろうとしたが、瞬間、その目の前に布のようなものが落ちてきた。同時にその何かは正面から衝撃を受け、後ろに吹き飛ばされる。だが、すぐに四つんばいになると、自分を吹き飛ばした相手を視界にとらえようとした。


「はいそれまで」


 次の瞬間にはそれの頭は剣で真っ二つにされていた。それでも動こうとしたが、その首に足が勢いよく乗せられると、動けずにじたばたするだけだった。


「まったく、どうしようもない連中だ」


 そのつぶやきと同時に、じたばたしているものの背中に剣が突き立てられてからねじられると、それは動かなくなった。その剣の持ち主、茶色の短髪と同じ色の髪を持ち、青い胸当てをしている女は自分が投げたフードを拾った。


 それから子どものほうに向き直ると、そのフードを二人の上に放った。


「そこでじっとしてるんだ。そのうち助けがくる」


 それだけ言うと、女は建物から出てきた別の人間のような何かに向き直った。


「どれだけいるのかね。それにしてもこの程度の相手で大混乱とは、ここの連中も情けない」


 建物から出てきた何かがそこに飛びかかってきたが、女はそれを一撃で切り捨てると、地面に転がったそれを踏みつけ、さらに止めを刺す。


「やっとおでましか」


 そして何かを見つけたようで、剣を背中の鞘に収めるとすぐにその場から走り去った。


 それから少し遅れて、オーストンとヘンリックがその場に到着した。そして二人はその場の惨状に気を引き締めて警戒する。


「思ったよりも悪い状況だな」

「はい。火はすぐに消さなければ大変なことになります」

「そのためには脅威の排除だ。お前は無事な者を探して保護しろ」


 オーストンは刀を抜き、周囲を警戒しながら歩き出した。数歩行くと、いきなり近くの家の屋根を突き破って何かが飛びかかってきた。


 オーストンは瞬時に反応してそれを空中で切り、その衝撃で自分の横に転がったそれをよく見た。それはまだ人間の姿だったが、口は耳まで裂け、爪は鋭く、歯も鋭利で巨大になっていた。なにより、その目は全体が赤く染まり、狂気以外の何も映していない。


「なんということだ」


 オーストンはそうつぶやきながら、あがいているそれに近づいていく。


「死霊がここまで人を変えるものか」


 それから刀を赤黒く染めると、それに突き立てて止めを刺した。


「オーストン様!」


 そこに兵士を抱えたヘンリックが近づく。


「負傷していますが、無事だった者です」


 それからその兵士を道に座らせると、ヘンリックは周囲の警戒を始めた。一度刀を鞘に収め、顔を拭ったオーストンはその兵士と同じ目線になると口を開いた。


「何があったのだ?」


 負傷に顔をしかめていた兵士はそれでもなんとかオーストンのことを見た。


「オーストン様、それが、突然あの化物が数十体現れて、人を襲い始めたんです。我々もなんとか抵抗したのですが、歯が立たずにいるうちに、奴らは家にまで入って火を放ち始めました、ぐぅぅ」


 傷が痛むらしく、うめき声をあげる。オーストンはせかさずに、またしゃべれる状態になるまで待った。


「それから奴らのほとんどは城のある方向に跳ねていきました。それでも何体か残っていたのは人を襲っていましたが、突然現れた剣士が二体のあれを倒したんです」

「剣士だと? 死霊憑きを倒せるとは、それはどんな者だったのだ?」

「長剣を使う女でした。すぐにいなくなってしまったので詳しくはわかりませんでしたが」

「そうか、怪我をしているのに色々聞いてすまなかった」

「オーストン様、あとは私が」


 そう言ったヘンリックにうなずくと、オーストンは立ち上がった。


「ここは頼んだ。私は城に向かう」

「くれぐれもお気をつけを」


 ヘンリックに見送られ、オーストンは城を目指して走り出した。

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