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光と闇の接近

 今日は肩までの茶色の髪と、洋装に身を包んだ女は昼の公園で池を眺めていた。そこに白髪の男がゆっくりと近づいてきた。


「話を聞かせてもらおう」


 その一言に女はかすかに顔をしかめた。


「めかしこんだ女性にはまず言うことがあるんじゃないかね」

「何を言って欲しいというんだ」

「はいはい、あんたに期待したこっちが馬鹿だった」


 それから二人は移動し、微妙な距離をとって岩に腰かけた。まずは女が一枚の紙を男に差し出した。


「とりあえず、この間の書類からわかったことだ。目新しいようなことは特になかった」

「そうか。それより、最近街の様子が何かおかしいようだが」

「ああ、それは死霊だ。実際に確認もされたらしい」

「死霊か」


 そこで男は黙り込んで、空を見上げた。女はそれを見てにやりと笑う。


「気になるかい? まあ死霊と言ったらあんた達の仇敵だものな」

「そうだな、今出てきたというのも気になる」

「今この街にいる光の一族はあんただけだしな」


 そこで男は立ち上がった。


「死霊狩りでもするのかい?」

「我らが倒すべき存在だ」

「そう言うと思って、これを持ってきてやったよ」


 女は今度はたたんだ紙を差し出した。男がそれを受け取って広げると、そこにはこの街の地図が描かれていた。


「最近見回りが重点的にされてる場所だ。それと、この国一番の剣士が警備に駆り出されてるらしいぞ」

「剣士? そうか、話は聞いたことがあるな」

「会ってみたらどうだ」

「そうしてどうする」

「そのうち役に立つことだろう。会っておいたほうがいい」


 二人はそこで互いに黙り込んだ。だが、しばらくすると男は立ち上がる。


「その剣士に会ってみよう」

「それは楽しみじゃないか。まあ、あんたならすぐに見つけられるさ」


 男はそれに答えず、黙って立ち去っていった。それを見送った女はしばらくそのまま座っていたが、結局立ち上がった。


「どうなることかね。あの二人のやりあいは見てみたいところだけど、それはまずいかもか」


 そうは言ったが、女は特に気にするような雰囲気も見せずに立ち上がると、その場から立ち去った。


 そしてその日の夜、オーストンは今日も一人で街を見回っていた。最初の日以外、死霊とは遭遇していなかったが、少しも気の緩みは見られなかった。


 今日も何者とも遭遇せずに終わるかと思ったが、そこに道の向こうから歩いてくる白髪の男が目に入った。オーストンはその男にただならぬものを感じて立ち止まる。そうすると男も立ち止まり、二人は十歩ほどの距離で向かい合った。


「お前がこの国一番の剣士というわけか」


 オーストンは片足を引いて、刀に手をかけた。


「何者だ」


 その問いに男は短剣を左手で抜き、鎖を巻いてある右腕を前に突き出して姿勢を低くした。


「お前は、まさか光の一族の者か?」


 オーストンはそう言って刀から手を放そうとしたが、男は構えをとかない。


「確かめるのなら、簡単な方法がある」

「待て!」


 オーストンは叫んだが、男はそれにかまわず地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。そして、左手の短剣が勢いよく振るわれた。


 オーストンは刀を抜かずにそれを横にかわすと、素早く後ろに下がって男と距離をとった。


「なぜ戦う!」

「戦士を測るのに戦いに勝るものはない。お前も抜け」

「そうか、ならば仕方があるまい」


 オーストンは刀に手をかけ、構えた。再び男が飛び込んできたが、それに居合いで合わせる。その刀の峰と短剣が激しくぶつかり、火花を散らした。


 男はそこで後ろに跳んだが、オーストンはそこから踏み込んで、再び峰打ちで今度は逆袈裟に刀を振り上げた。


 だが、その一撃は空を切っていた。斜め後方に地面を転がってそれを回避していた男は素早く立ち上がる。オーストンも刀を戻すと、それを下段に構えた。


「もういいだろう」


 オーストンはそう言ったが、まだ男にこの戦いを終わらせる意思はないようだった。


「いくぞ」


 男が再びオーストンに向かって踏み込むと、オーストンもそれに応じて、二人の刃がなんども交錯して夜の闇に火花を散らした。


「鉄鎖術、貫」


 一度距離をとった男が右腕の鎖をほどいてからそう言うと、鎖が右手に巻きつき、鋼鉄の貫手となった。そこからは男の右手と左の短剣が振るわれ、オーストンは押され始める。


「お前の目的は復讐か」


 攻撃を受けながらオーストンが口を開くと、男は攻撃を止めて下がった。


「それならどうする」

「止めなくてはならない。気持ちはわかるが、それでもこれ以上無駄な血を流させるわけにはいかん」

「そんなことで、止められると思っているのか?」

「あれはそう単純な話ではないのだ。いくら腕が立っても一人ではどうすることもできんぞ」

「ほう」


 男はそう言うと、短剣を下ろした。


「どうやら、ただの腕自慢ではないらしいな」


 そして右手の鎖も解くと、元のように素早く右腕に巻きつけた。オーストンもそれに応じて刀を鞘に収める。


「我が名はオーストン。貴殿は」

「タケルだ」

「タケルか。貴殿の言う復讐とは単純なものではないのだな?」

「関係のないものに手を出すつもりはない。そして死霊が出たならば、それを放置しておくこともない。だが、真実には必ずたどりつき、受けるべき者に報いは受けさせる」

「ならば、私に助力をしてくれまいか。光の一族への攻撃の件は私も調べているし、今はこの街の死霊を狩っているのだ」

「お前の持つ、その妖刀の力でか」


 それだけ言うと、タケルは一歩後ろに下がった。オーストンは多少あわてたように足を踏み出す。


「待ってくれ、助力を」

「まだだ。だが、死霊は狩る」


 そのままタケルの姿はどんどん闇に溶け込んでいく。


「オーストン、お前に力を貸すと決まったわけではない。まだ戦士としての力の全てを見たわけではないからな」

「待ってくれ!」


 オーストンは駆け出したが、タケルの姿は完全に闇に溶け込み、どこにもその姿はなかった。


「また刃を交わすときがあるだろう」


 タケルの声だけがその場に響いた。オーストンはしばらくその場に立ち尽くしていたが、気を取り直して見回りを開始した。


「タケルか。さすがに光の一族だ」

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