戦士たる者
ケイシアが漆黒の怪物と向かい合うと同時に、タケルの前にはあの少年が降ってきていた。
「そうか」
タケルはそれだけつぶやくと、構えをとり、その少年と対峙した。オーストンはその様子を見ると、自分はケイシアの援護にまわることにした。
タケルは自分の両手に光の糸をまとわせると、拳を握った。それと同時に少年が地面を蹴って跳びかかってきた。
タケルはそれをわずかな動きで横にかわすと同時に、少年の背中に拳を振り下ろした。その一撃は少年を地面に叩きつけるが、すぐに手足を使って跳ね上がり、距離をとってからまるでダメージがないように立ち直った。
「我流、光刀」
タケルが両手を打ち合わせると、左手に光の糸が移り、それが短く細い光の刃となった。それを逆手で握ると、今度は攻勢に出る。
光刀が振るわれると、少年の体が削られるが血は流れない。それでもタケルは攻撃の手を緩めることなく光刃を連続で振るった。その速度は徐々に上がっていき、光の刃の軌跡が無数に閃く。
そして、正面からそれを振り下ろそうとした瞬間、少年の顔に表情が宿り、タケルは腕を止めた。
「兄さん」
「意識が戻ったのか」
タケルの言葉に少年はうなずいた。
「そうだよ、でも」
少年はそれだけ言うとうつむいた。
「わかってる。任せておけ」
「お願い、兄さん」
そして少年の表情がまた消え、タケルはその瞬間に後ろに大きく飛び退き、光の刃を構えた。そこに少年が飛びかかるがタケルはそれを正面から迎え撃ち、光の刃で叩き落した。
だが、少年はすぐにそこから一度後ろに跳ね、さらに高く飛び上がると、上空からタケルに降ってくる。それは横に回って回避すると、タケルはすぐに中段の回し蹴りを放った。それは少年の側頭部をとらえ、その体ごと地面に転がす。
少年はすぐに体を起こすが、そこにタケルが滑り込んできて、その首に光の刃を振るう。その一撃はぎりぎりでかわされるが、確実に少年の首を削る。
タケルはすぐに膝で勢いを殺して振り返った。そこに少年が飛びかかってきていたが、タケルは逆立ちするようにして足を空に突き出して、その顎を蹴り上げた。
そこからすぐに立ち上がるとタケルは少年が着地する前に、その落下地点に入った。そして光の刃を下から振り上げた。
それは少年の右腕を切り飛ばしたが、それをものともせずにタケルに左足で蹴りを放った。その一撃はタケルの肩に当たる。
しかし、タケルはその勢いを利用して右足を軸に回転すると、今度は光の刃を少年の脇腹に突き立てた。それから右手の人差し指と中指を同時に立てる。
「我流、光糸」
声と同時に光の刃が糸になり、少年の体の内と外に巻きつく。
「安らぎを」
声と同時に、光の糸が弾け、少年の体が崩れ始めた。そうするとまた、その表情が戻った。それは安らかで、はかない。
「ありがとう、兄さん」
タケルはそれに無言でうなずくと、光の糸を消した。少年の体は末端から崩れていき、そのまま塵となって消えた。
それと同時にタケルの横にケイシアが吹き飛ばされてきた。
「そっちは終わったみたいだな」
踏みとどまったケイシアはタケルに顔を向ける。タケルはそれは見ずに、対峙するオーストンと漆黒の怪物に視線を向けた。
「ありゃ強いなあ。タケル、どんな手があるんだ?」
タケルは無言で光の刃を左手に作り出し、握った。それを見てケイシアは口元を歪める。
「なるほど、そりゃいい手だ」
ケイシアも長剣に青い炎をまとわせ、構えた。そしてオーストンが漆黒の怪物から距離をとると同時に、二人は地面を蹴った。
ケイシアが先に到達し、切りかかるが、漆黒の怪物は上に飛んでそれをかわす。だが、ケイシアは踏ん張ると、長剣を上空に向かって振るい、青い炎を飛ばした。それもかわされると、漆黒の怪物は方向を変え、ミヌスに向かって急降下していく。
だが、その足に光の糸が絡みつき、軌道を変えられたところに、右手を光の糸で包んだタケルが跳び上がって来ていた。
その貫手は確実に漆黒の怪物の腹部に刺さり、体勢を崩させた。タケルはそのまま足で頭部を挟み、体を回転させて地面に向かってそれを投げ落とした。
漆黒の怪物は脳天から地面に激突し、タケルはミヌスの前に着地した。そしてすぐにミヌスの背に隠すようにすると、漆黒の怪物の落下地点を見る。次の瞬間、そこから何かが伸びてきたが、それは横からのオーストンの刀で断ち切られた。
それに続いて漆黒の怪物がオーストンに真っ直ぐ向かってくる。オーストンはそれをなんとか刀で受けたが、勢いに押されてしまう。そのままそれはタケルに向かおうとしたが、その前にさらにケイシアが立ちはだかった。
そこからケイシアは正面から左手で長剣を振り下ろして勢いを削ぐと、右手で漆黒の怪物の喉をつかんだ。
「やれやれ、つかまえた」
言葉と同時にケイシアの右手から青い炎がほとばしった。その炎は頭から広がり、瞬く間に漆黒の怪物の全身を包む。だが、その翼が開くと青い炎は散らされてしまう。
「そうくると思ったぜ!」
ケイシアは漆黒の怪物を軽く放り投げると、その右の翼を半ばから振り上げた長剣で切り落とした。さらに一歩踏み出すと、今度はそれを振り下ろして漆黒の怪物に叩きつけた。
「ちっ」
漆黒の怪物は吹き飛んだが、ケイシアは舌打ちをした。
「通ってないな、まったく、楽しませてくれるよ」
その視線の先で、右の翼の半分を失った漆黒の怪物が立ち上がった。その胸元にはケイシアの一撃の痕があったが、漆黒の体に飲み込まれていく。それから右の翼と左の翼が崩れ、変わりに両腕が膨れ上がった。
「気をつけろ!」
オーストンは叫びながらケイシアの横に並んだ。
「ああ、わかってる」
ケイシアも長剣に青い炎をまとわせて構えた。
「タケル、ミヌスは頼むぞ」
タケルはそれに無言でうなずくと、オーストンはそれを気配で察してうなずいた。
「なんだ、娘を他人に託していいのかい?」
「心配はいらん」
「そうかい!」
漆黒の怪物が動き始め、ケイシアも動き出した。そして跳躍すると長剣を振り下ろしたが、その一撃は右腕の一振りで弾かれた。さらに左腕が伸び、ケイシアを打ち、派手に飛ばす。さらに切りかかってきたオーストンの刀を右腕で受け、その刀身を腕を切らせながらも受け止めた。
「これは!?」
オーストンがうめいたが、漆黒の怪物は刀を受けた右腕を振り回し、オーストンを放り投げた。そしてすぐにタケルに向かって加速した。
「行かせんぞ」
「おっと、まだ遊んでもらわないとな」
しかし、後方からオーストンの刀とケイシアの長剣が同時に漆黒の怪物の胴に突き刺さっていた。それでも漆黒の怪物はそれを振り払い、タケルに向かおうとしたが、その目の前には光の刃を振りかぶったタケルの姿があった。




