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希望のありか

 オーストンとイロニスの一騎打ちから、いつのまにかタケルと奇妙な少年がその場に現れたせいで、おかしな状況になっていた。


 少なくとも少年は他の二人のことなど目に入らない様子で、タケルに飛びかかった。タケルは短剣で受けたが、その少年はさらにそこから跳んでタケルの後ろにまわった。


 そこから少年は再びタケルに襲いかかったが、それは横から入ったオーストンによって弾かれた。それからオーストンはタケルに顔を向ける。


「これはどういうことだ!」

「お前が気にすることではない」


 それだけ言うとタケルは地面を蹴って少年との距離を詰めると、短剣を振るった。だが、その一撃は腕で防がれ、傷をつけることさえできなかった。タケルはすぐに飛び退くと、再びオーストンの横に戻った。


「あれはいったいなんだ」


 オーストンが聞くとタケルは顔は動かさずに答える。


「死者だ。死霊の力で肉体を作られ、動かされている」

「それでは実体化した死霊そのものだと!」


 オーストンの言葉はイロニスの攻撃で遮られた。


「余所見とは余裕だな!」


 イロニスは受けられた刀を押し込む。だが、オーストンはそれをいなすと、横に跳んで距離をとった。


 その場の状況はオーストンとタケルとイロニスと少年という二対二の対決という様子になっていた。ケイシアは飛び出したくてうずうずしている様子だったが、とりあえず抑えた。


「まあ今はあっちか、残念」


 そしてその場から立ち去っていく。その視線の先にあったオーストンは、イロニスと少年から目を離さずにじりじりと移動していた。


「タケルよ、我々の敵は同じだ」

「協力しろと言いたいのか」

「討つべきものが同じならそうすべきだろう」

「いいだろう」


 タケルはうなずくと、オーストンの横に移動した。


「元将軍、このまま見ていて良いのですか」


 レイスが聞くとボルツは黙ってうなずく。


「今はいいだろう。イロニスを引きつけておくだけでも意味がある」

「確かにそうですね」

「それにあの戦いはただでは終わらんだろう。それまでは、近衛の連中を動かさないようにしてかなければいかんぞ」

「元将軍が先走らなければ大丈夫だと思いますよ。他にも不安な要素はありますが」


 レイスはウィバルドとその後ろに立つアンナとミヌスを見た。ウィバルドには多少の感情の揺れが見られたが、アンナとミヌスは落ち着いている様子だった。


「まあ、とりあえずは大丈夫ですか」


 そしてレイスが視線を戦いの場に戻すと、ちょうどタケルと少年が同時に動いたところだった。少年の勢いは矢のようだったが、タケルはそれに短剣を振るった。


 だが、響いたのは金属同士がぶつかるような音で、その勢いを利用して宙に舞った少年は、空中で軌道を変えてタケルに上空から襲いかかる。


 そこにオーストンが入って刀を振るい、少年をとらえたがやはり金属同士がぶつかるような音がして、少年は衝撃を利用して派手に後ろに飛び退いた。


「どういうことだ、さっきとは手応えがまるで違うぞ」

「あれが完全になるのはこれからだ」


 そこにイロニスの放った雹が飛来したので、二人は左右にそれを避けた。そして、その隙をつくかのように少年の膝の関節がいきなり逆に深く曲がった。


 その足が伸びると、少年の体は今までの倍以上の速度で飛び、タケルとオーストンの上を越える。だが、タケルはとっさに右腿の鎖を外してそれに向けて伸ばした。鎖は少年の足に絡みついたが、タケルの体ごと持っていかれる。


 少年はタケルを引っ張ったまま、真っ直ぐミヌスに向かっていったが、その前に二本の刀を抜いたウィバルドが走りこんだ。


「おお!」


 刀を交差させて少年にぶつけたが、ウィバルドはその重さに押し切られそうになる。


「はっ!」


 そこにアンナの槍が振り下ろされ少年を打ち、その勢いが多少逸らされることによって、ウィバルドは少年の勢いを地面の方に向けられた。


 少年が地面に激突し、そこに鎖を右手に巻きつけたタケルが降ってくると、地面にめり込んだ少年の体にその貫手を叩きつけた。


 だが、少年はそこからいきなり飛び上がり、タケルを突き飛ばして街の方に跳び出し、そのまま跳ねていって街に消えていった。


 それを見たイロニスは慌てた様子で自陣に戻っていく。オーストンもそれを確認してすぐにミヌスに駆け寄った。


「大丈夫か!?」

「はい、お兄様が守ってくれたので」

「そうか」


 それだけ言ってオーストンはウィバルドの目を正面から見た。刀を収めたウィバルドもそれを真っ直ぐに見返す。二人はしばらくそうしていたが、オーストンの方が先に口を開いた。


「久しぶりだな」

「はい」

「見違えたぞ。これが終わったら立ち合おう」


 ウィバルドはそれに何も答えずに、ただうなずいた。オーストンもそれにうなずき、立ち上がったタケルに視線を向ける。


「大丈夫か?」

「問題はない」


 タケルはそれだけ言うと短剣を収め、ミヌスのことを見つめた。そして、おもむろにミヌスに近寄ると、視線の高さを合わせた。


 そのまま数秒の間、ミヌスの目を見ると、立ち上がった。そこにボルツが歩いてくる。ボルツはその場の全員の無事を確認してから、改めてタケルのことを見た。


「お前が話に聞く光の一族の者だな。話は聞いているぞ」

「なぜ知っている」

「師から聞いたのだ」


 それからボルツは自分の戦斧を手にとってタケルに見せつけるようにした。タケルはそれを確認すると、納得した様子だった。


「そうか、お前は認められた者だな。それよりも、今はそこの子どもだ」


 タケルがミヌスに視線を向けると、その他の者の視線もミヌスに集まった。それから最初に口を開いたのはアンナだった。


「どういうことですか?」

「あれは明らかにその子どもを狙っていた」

「偶然ではないのか? それとも何かあるというのか?」


 オーストンがそう言うと、タケルは額に指を当てる。


「死霊は人の命を食うことを好むが、その中でも自らを進化させる者を見つけると他は目に入らなくなる」

「進化だと?」


 ボルツは首をかしげた。タケルはそれを気にせずに続ける。


「だが、それは死霊にとっては最大の弱点となる力でもある」


 それからタケルは一度言葉を切り、再びミヌスを見る。その表情は一見したところ変わらないが、ミヌスにはどこか優しい雰囲気もあるように見えた。


「その子はこれから死霊に狙われる。守らなくてはならない」

「ではタケル、お前が一緒に行動するということなのか?」

「そういうことだ。死霊を討つにはちょうどいい」 


 その言葉を聞いたボルツはにやりと笑った。


「では、お前も戦力と考えて良いのだな?」

「指図に従う気はない」

「何、お前はただ死霊を狩ればいい。すぐに動きがあるはずだからな」


 それからボルツはオーストンに顔を向けた。


「これからのことで話がある」

「わかりました、状況も詳しく聞かせてもらいましょう。タケル、娘のことは頼む」


 そしてオーストンとボルツはその場を離れた。

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