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 ルシーアは膠着状態でも焦らずに様子を見ていた。


「相手も大したものだな。うかつには動いてこないか」

「こちらから仕掛けますか?」


 ウォーリナが聞くとルシーアは首を横に振った。


「まだだな、まだ早い」


 だが、そこで城の方角から音が聞こえてきた。


「城で動きがあったようだな」

「ケイシアでしょうか」

「わからんな。だが、これで向こうに動きがあるかもしれん。状況に注意しろ」

「はっ」


 ウォーリナは下がっていき、それと入れ違いにアイレラが姿を現した。


「ルシーア様、ボルツ将軍のほうではすでに戦闘が開始されているようです」

「規模は?」

「小競り合いといった様子です」

「そうか、オーストンとあの刀が届けば大きく動かせそうだな」


 そう言ったルシーアの視線の先、ボルツ達の陣の前では三体の蜥蜴の化物の死体が転がっていた。


「この程度か!」


 ボルツは戦斧をイロニスに向けて突き出した。イロニスはそれに対して苛立ちを見せる。


「おのれ、逆賊が調子に乗ってくれる」


 それからイロニスもボルツも動かず、睨み合いになった。だが、それはそこに現れた一人の男によって、突然破られることになる。その姿を見たイロニスとボルツは同時に声を上げた。


「オーストン!」


 オーストンは防具は付けていたが、刀は自分のものではなく、一振りを腰に差しているだけだった。


「貴様! 脱獄とはやはり叛心があったか!」


 イロニスが周囲に響く大声を上げると、オーストンは黙ってうつむき、それに耳を傾けている様子だった。


「どうした! おとなしくもう一度その身を差し出すか!」


 そしてその場の視線がオーストンに集まった頃、その当人はゆっくりと顔を上げた。


「我が刃は人々のためのもの。死霊とそれに与する者のためではない」


 大声ではなかったが、その声は実によく通り、その場に響いた。数秒の沈黙の後、ボルツの側から歓声が上がる。


 その反応にイロニスはゆっくりと自分の刀に手をかけた。


「オーストン、今まで陛下に貢献をしてきたお前だ、せめて我が刀によって葬ってやろう」

「そうか」


 オーストンは刀に手をかけたが、そこにまた新しい者が、近くの屋根の上に姿を現した。


「ちょっと待った。得物に差がありすぎちゃ、面白くないだろ?」


 ケイシアは鎖で縛られた二本の刀をオーストンの足元に放り投げた。


「あんたの刀だ。使いな」


 オーストンは黙ってその鎖を解くと、今の刀を地面に置き、その大小を腰に差した。イロニスはそれを見てから一歩踏み出す。


「準備は出来たようだな。その刀を使うお前を倒してこそ意味がある」


 そして自分の刀を抜いた。オーストンは刀に手をかけずに、ゆっくりと歩き出し、街から離れ、開けた場所まで移動する。


 イロニスもそれに応じ、刀から手を放すと、オーストンのいる方に一人で歩き出した。二人は十歩ほどの距離で向かい合う。二つの軍団はそれを黙って見守る体勢になっていた。


 イロニスとオーストンは同時に互いの刀に手をかけた。二人は姿勢を低くし、すぐにでも飛び出せる体勢になった。


 二人はほぼ同時に地面を蹴って間合いを詰めると、オーストンが先に刀を抜き打ちに振るう。だが、イロニスは素早く前方に転がってそれを避けると、すぐに片膝をついて振り向いた。オーストンも振り向き、刀を中段に構えた。


 そこでイロニスは片膝をついた状態のまま刀に手を置き、弾かれたように飛び出す。その勢いのまま刀を抜き、オーストンの胴を薙ごうとした。


 だが、オーストンはそれを後ろに下がってかわすと、すぐに刀で跳ね上げる。その狙いは当たり、イロニスの刀は上に弾かれるが、そこですぐに強引に刀を引くと、体勢を立て直した。


 再び二人は向かい合うが、今度はオーストンが上段、イロニスは中段に刀を構えている。


「どうしたオーストン、その妖刀の力は使わないのか」


 オーストンはその問いには沈黙を返した。


「いいだろう、ならば使わせてやろう。この氷牙でな」


 その言葉と同時に、イロニスの持つ刀の周囲の温度が急激に下がり、雹のようなものが刀の周囲に出現し始めた。


 オーストンはそれを黙って見ていたが、イロニスはそこに雹をまとった刀を振った。すると、鋭くとがった雹がオーストンに向かって飛ぶ。オーストンはそれを横に跳んでかわしたが、イロニスは全く動じることなく、再び刀に雹をまとわせた。


「それが氷牙か」

「そうだ、これこそが陛下から賜った至宝。逆賊を討つのに使うにはもったいないものだがな」


 オーストンが目を閉じると、そこからは血の涙が流れ、刀が赤黒く染まった。そして、その両目が開かれると、今までにない気迫でイロニスと対峙する。それを見たイロニスは口を歪ませた。


「見るからに邪悪な力だ。貴様が逆賊となってむしろ幸いだったな」


 そう言って再び刀を振るい、鋭い雹を飛ばす。だが、今度はオーストンはそれを全て刀で叩き落した。そして、刀を顔の横に立てて構える。


「邪悪さとはそのなすことで決まるのだ。力はどんな形にも使える」

「陛下のために振るう力こそが正義、今の貴様こそ邪悪そのものだ!」


 イロニスは地面を蹴り、正面上段からオーストンに切りかかった。オーストンは体さばきでそれをかわすが、イロニスはさらに切りかかると同時に、鋭い雹も飛ばす。


 だが、オーストンはその攻撃も続けてかわし、後ろに下がって間合いをとると、すぐに踏み込み、刀を袈裟切りに振り下ろした。


 その一撃はイロニスの刀で受け止められ、そのまま二人は力を込めて競り合いの体勢になった。しかし、イロニスの刀から鋭い雹が発生し、それがオーストンに襲いかかる。


 オーストンはそれを避けようともしなかった。無数の雹がオーストンを傷つけるが、どれも致命傷にはほど遠い。


「やはりこの距離ではまともに当たらないようだな!」


 オーストンは気合と共にイロニスを押し返し、前蹴りをくらわせた。イロニスは衝撃で後ずさるとすぐに刀を構えなおす。


 対するオーストンは、ゆっくりと中段に構え、イロニスを真っ直ぐ見据えた。


 二人は構えを崩さずに円を描くように動き、ちょうど位置を入れ替えたところで、空気の緊迫は最高潮となる。


 だが、その中間に何者かが上空から降ってきた。その人影二つを見て、オーストンは驚きの表情を浮かべた。


「タケル!」


 そこには確かにタケルと、奇妙な雰囲気を持った小さな少年がいた。両者はオーストンとイロニスのことなど目に入らない様子で離れ、対峙した。

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