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孤独な探偵に微笑みを  作者: 東雲ゆき
カステラはどこ?
2/5

1 (カステラはどこ?)


高校一年、五月。



私は第一志望であった東園高校に見事合格し、しかも成績最優秀者として入学式に壇上に上がり新入生代表の挨拶までこなしてしまった。


新しい校舎も大分見慣れてきて、クラスメートの顔と名前も完璧に覚えた。



順調な滑り出しだろう。


そして入学式から一か月も経てば、女子なら仲の良い友達の一人くらいできる。



私は教室に入り、自分の机に鞄を置くと隣に座っている彼女に声をかけた。


「おはよう、夏澄」


彼女はそこでやっと、視線を私に向ける。


「おはようございます、律子さん」


にこりと微笑む彼女。


彼女は私を沢緑さんでも律子ちゃんでもなく、律子さんと呼ぶ。


友達にそう呼ばれているのは初めてだ。



私は改めて、彼女を眺める。



アーモンド型の大きな瞳に、程よい高さの鼻とキュッと結ばれた唇がその小さな顔にバランス良くおさまっていて、セミロングの髪は毛先がゆるくウェーブしている。


東園高校は校則が特別厳しいというわけではないけれど、パーマは禁止されているからきっと生まれつきなんだろう。


東園高校の制服であるセーラー服の上から灰色のカーディガンを羽織っていて、どこか儚げな美人といった容貌。



椎葉(しいば) 夏澄(かすみ)は入学初日から、といったら当たり前かもしれないが、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている子だ。



私は、鞄から一冊の文庫本を取り出した。


「そういえば、頼まれてた小説持ってきたよ」


夏澄は笑みを浮かべる。


「本当ですか!楽しみにしてたんです」

「読み終わったら、また何か教えてくれれば貸すから。遠慮なく言って」

「お気遣いありがとうございます。読み終わったら、考えてみますね。本当に、ありがとうございます」

「お礼なんて良いってば。夏澄が喜んでくれるだけで十分嬉しいよ」



私の席は、一番後ろの窓側から二列目。


そして隣、一番後ろの一番窓側に座っているのは、椎葉(しいば) 夏澄(かすみ)である。



夏澄は誰が見てもクラスきっての美人だが、その顔立ちに反してどことなく地味な雰囲気でクラスでも空気のような存在だった。


私も始めは、それに疑問を抱いていて夏澄に近寄ったのだが話してみると夏澄は気さくで特別暗いというわけでもなく、私は夏澄と頻繁に話すようになったのだ。




私が夏澄に文庫本を手渡したときちょうど、担任教師が教室に入ってきた。



私は席に戻り、一時間目の授業が始まった。



***


放課後、私は一人で教室を出て廊下を歩く。


私の所属する1年B組の教室は、東棟四階にある。


そこから私が向かうは、部室棟。



東高の部室棟は、北棟まで行ってそこから渡り廊下を通って行かなければならない。


つまり、東棟からはかなり遠い。




たっぷり十分かけて部室棟まで行き、部室棟の二階まで上ると、一番奥にひっそりと存在する部室のドアを開けた。



ドアを開けると、古びた木の香り。


律子は部室のなかに入り、ドアを閉める。


この香りにも慣れたものだ。



見ると、部室にはすでに私のほかに二人がいた。



「すみません。来るの遅かったですか?」


私は鞄を机に置きながら言う。


「ううん、大丈夫よ。まだ諏訪くんも藤木くんも来ていないもの」


椅子に座っていた柊先輩が言う。



少し茶色がかった髪が腰までのびていて、全体的に華やかな雰囲気だ。しかし、おっとりとした性格で天然という言葉がぴったり合う。

柊先輩は大病院の院長の娘で、校内のなかでも一番のお嬢さまらしい。


確かに、柊先輩はいかにも温室育ちのお嬢さまといった雰囲気をまとっている。



柊先輩は笑みを浮かべる。


「私もさっき来たばかり。唯花ちゃんのほうが早く来てたのよ」


私は唯花に目を向ける。



唯花は私と同じ一年生。


しかし、律子は1年B組だが唯花は1年E組とクラスが違う。

ちなみに絵美は、2年A組で一学年年上である。


唯花はくりっとした丸い目が特徴的で、髪を耳の横でくくっている、可愛らしい印象がある子だ。

小動物的な容姿で、敵を作りにくい性格でもある。

「早く来たって言っても、二分くらいですよー」


唯花がそう言ったとき、ドアが勢いよく開かれた。


入ってきたのは、二人の男子生徒。



「おー今日は集まりがいいねえ」


一方の男子生徒、諏訪先輩が言う。


諏訪先輩は文化委員の副委員長も努めていて、社交的で明るい。

そしてもう一人の男子生徒、藤木先輩は無口で寡黙な人だ。



二人は仲が良い。


正反対だからこそ、仲良くなったのかもしれない。




諏訪先輩と藤木先輩が鞄を机に置くと、柊先輩が口を開いた。


「そういえば律子ちゃん。夏澄ちゃんは今日は来ないの?」

「あ、夏澄は掃除当番だから遅れてきます」

「そうなの。来てくれたら楽しいし、良かった」


柊先輩は嬉しそうに微笑んだ。


***



『読書愛好会』は、私が所属する部である。



部長は(ひいらぎ) 絵美(えみ)。副部長は諏訪(すわ) 柚矢(ゆうや)


あとは、藤木(ふじき) 春馬(はるま)篠塚(しのづか) 唯花(ゆいか)、沢緑 律子の計五名。


東高の部活動存続条件や部活動設立条件は部員数五名以上となっているので、なんとか足りるというくらいの人数だ。


ちなみに柊先輩・諏訪先輩・藤木先輩は二年生で唯花と私は一年生と、読書愛好会には三年生部員がいない。



活動内容といえば、月一度に図書局員により発行される"図書室通信"におすすめの本の紹介文や感想文を載せたり、あとはたまに図書室で図書局員の手伝いをするくらいだ。


読書愛好会だからといって、部員そろって読書するわけではない。



私はこの読書愛好会に、四月下旬くらいから所属している。

ちなみに、夏澄は私の友達ということで読書愛好会には部員たちと同じくらい訪れる。


だから夏澄も、籍は置いていないが半分は読書愛好会部員のようなものだ。




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