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物語は『はい、始まるよ』とは始まってくれない。
気がつけば、すでにスタートのホイッスルが鳴っている。
そういうものなのだ。
沢緑 律子の場合も、物語は”あの子”と出会ったときから始まったのか、はたまた”あの子”に出会う前から始まっていたのか、今となっては定かではない。
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私は、勉学も運動も何をやっても最初から人並み以上にできた。
それを自慢に思ったりすることは決してなかったけれど、何をしても退屈だった。
中学校にあがったら、何か私を唸らせるようなことに巡り会えるかもしれないと淡い期待を抱いていたが、何も変わらなかった。
けれど幸福というものは、首を長くして辛抱強く待っていれば訪れるものだ。
私の場合もまた然り。
何事もなく中学を卒業し、私は高校に入学した。
名門校というわけではないが、そこそこの進学率を誇っている高校。
そこで私は、ある女の子と出会った。
不思議な女の子だ。
いや、不思議だと思ったのはきっと私だけだろうと思う。
そしてふり返ってみると、そんな彼女といるとろくな目にあっていない。
それが私の求めた、面白いことなのかは今となってはもう分からないけれど。
それでもその女の子、椎葉 夏澄との出会いが私を大きく変えた。
彼女と出会えて、良かった。
それは変わらない。