8月22日-12:決意
文章、文脈がグチャグチャ。
うん。いつも通りだな。
「あ………ぁぁ…………ッ」
無理に体を動かしながらシキが到着したのはそれから数秒後の事だった。
最初に目にしたのはオトアの姿。シキは小月が劣勢だという事を悟った。
次に目にしたのは倒れ伏す小月の姿。シキは小月が負けたのだと悟った。
最後に目にしたのは倒れ伏す小月を囲う赤い何かの海。シキは小月が死にかけていると悟った。
もう手遅れかもしれない。小月はすでに死んでしまったかもしれない。
しかし、死、などシキにとっては何ともない事。
自らの力を使えば、小月が死にかけていようが死んでいようが助ける事が出来る。
蒼い炎で小月を燃やせば、小月はまた動けるようになる。
だが、シキはそれをオトアが許すとは思っていなかった。
シキが見た最後のオトアの目は、怒りと殺意で満ち溢れていた。
多分、それは今も変わらないだろう。小月を絶対に抹消するであろう。
「………お前か」
オトアはシキを横目で見ると、視線を外したまま一方的に話しかける。
「この凡人の意思程度は尊重してやってもイイと思ってな。コイツは塵に変えるが、お前は見逃してやってもいい。何もしなければ、な」
怪物の最大限の慈悲。
本来ならば、小月を生き返らせてしまう可能性のあるシキを生かしておくはずが無い。しかし、それを見逃すという事は人情と言っても過言ではないレベルだ。
オトアはこの後、小月の肉体をシキの力が通じない状態に変えるつもりであろう。
例えば、オトア自身の言葉を借りて、小月の肉体を粉塵に変え風に流すとか。
そうしてしまえば、塵を全て集める事は不可能な為、シキが小月を生き返らせることは無理となる。
シキはオトアの言葉のみでここまで想像が出来てしまった。
「やめ………て、くれ」
「ムリだ。フカノウだ。そうでなければお前が死ぬことになるぞ」
シキの懇願をオトアは否定する。
「アタシを殺したければ、殺していいから…………ッ!」
「オレがコロシタイのはそこにぶっ倒れてる凡人の方だ。オマエをわざわざコロシタイわけじゃない」
シキの提案はオトアに否定される。
「頼むから………小月は、アタシが巻き込んだだけなんだ。だから…………ッ!」
「何度も言わせるな。ムリだ」
シキの希望はオトアに否定される。
その場に崩れ、泣く事しかシキに出来る事は無かった。
自分の無力さを呪い、その無力のせいで塵と変わる小月を見る事しか、シキに出来る事は無かった。
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………………………シキが、泣いている。
見えはしないけど、確証は無いけど、聞こえる。
シキが、泣いている。
誰のせいで?
そんなの俺のせいに決まってる。
無駄に大口叩いて、シキと一緒に家に帰るって約束したのにこのザマ。バカバカしいにも程がある。
結局、俺が頑張ってもこんなもの。努力や策略、幸運のみでは乗り越えられない壁に阻まれる人生。
悲観的に見れば、生まれた時からそうだった。
鬼才なんて言われる兄貴の弟として生まれた時点で不幸不運と嘆けるだろう。
いくら努力をしたって才能って壁が全てにおいて兄貴を超せない要因となる。
努力をすれば良い、とか、努力をした事が大事なんだ、とか言う奴は居るし俺もその通りだと思う瞬間がいくつかあるけど……それでも現実は過程よりも結果だけしか見ない。
結局、俺は何もかも兄貴より下。劣っていた。
だから努力をせずに堕ちるに堕ちきって、本物の劣等者になった。
そしたら今度は兄貴が死んで、被害者遺族とかに当たる俺が批判されて、ふざけるな、と思っても俺の言葉に耳を貸す奴なんていなかった。
そこからゴミのように毎日を過ごしてたら、7月の終わり辺りにシキと出逢って、兄貴の事とかも蒸し返されたけど、シキのお蔭で毎日が楽しいと思えて………本当にシキと出逢えて良かった。
けど今度はオトアが俺の前に立ち塞がって、俺の無力さとかを思い至らせて、シキを傷付けて、殺そうとして、俺はそれを防ぎたくて。
でも、だから、それでも俺には力が無くて………。
圧倒的な力。それがあったら良いと思った。
「欲しい? 圧倒的な力」
そして気付いたら、白と黒しかないこの世界に来ていた。
そして俺の前には魔神と呼ばれる少女。
またこの状況か…………………俺は何度同じことをやったら気が済むんだろうな。
「欲しいの?」
魔神は俺に問い掛ける。また無意味な。
「どうせ今は、力を貸すんだろ俺に。死に掛けてるから」
今回は狐狩りの時とは違う。しっかりとした利害関係がある。
力を貸さなければ、俺はこのまま死ぬであろう。魔神にとって俺が死ぬことは憑代を無くす事と、多分だが同等。
だから魔神は強制的に俺に力を貸さなければいけない。そうしなければ、自分も死んでしまうから。
「そうだけど………一応、確認したいじゃない。欲してるかどうか」
「随分と余裕なんだな。俺の肉体はこうしてる間にも死へと進んで行ってるんだが」
「なら、早く答えてよ。圧倒的な力、欲しいの?」
「いらない」
即答。考える意味などない。当たり前の言葉。
「……意外と貴方は私の期待外の答えばっかり言ってくれるのね」
驚いた顔で魔神が言う。良い意味か悪い意味かは問わない事にしよう、自分の為に。
「分かったら、さっさと俺の体どうにかしろ。死ぬぞ、割とマジに」
「なんで?」
酷ぇ奴ッ!! 俺は不死身のゾンビじゃないんだぞ! それとも俺が死んでもいいってか!
薄情な奴めッ!
「なんで、いらない、って答えたの?」
「あ、なんだそっちか」
ビビったよ、こん畜生。
しかし、まあ…………困った。
何でって訊かれても、深く考えたわけじゃないし……俺の勘っていうか感性っていうか、さっき思い返した時に思った事だし。
ま、いいか。ある意味、俺の直観だし。
「俺は努力って言葉が苦手っつーか嫌いでさ、圧倒的な力って、努力と同じだと思うんだよね」
「………?」
「圧倒的な力も努力も、結局は独り善がり。まあ、決してそうだとは限らないけど、どちらともさ、自分一人だけの事じゃん。自分一人だけの力」
何か言いたい事がグチャグチャだけど、伝わってんのかな?
すこし心配なんだけど。
「この裏の世界に関わってから、俺の傍にはずっとシキが居た。シキのお蔭で園塚やら師匠やらに逢えた。だからさ、何か少し分かった。圧倒的な力を得るにも努力もするにも結局は自分一人の行動が必要だ。人が行動する事は簡単なんだ。理由なんて後付でいい。取り敢えず動き出せば、行動した事になるんだから。けど、それじゃ結局は独りなんだ。いくら努力したって、圧倒的な力を得たって、独りぼっちじゃ俺は嫌だ」
シキと出逢っちまったから、独りは嫌だって思う事になった。
独りじゃ、つまらない。楽しくない。
ただ平凡な毎日を独りで過ごせば飽きてしまう。
物凄く苦しい時を独りで過ごせば心が折れてしまう。
楽しい時を独りで過ごせば、どこか物足りなさを感じてしまう。
けど俺はシキと出逢って、シキがずっと俺の傍に居てくれたから、ただ平凡な毎日が飽きない。物凄く苦しい時はシキが支えてくれる。楽しい時に物足りなさなんて感じない。
俺もシキに同じことをしてやれてるだろうか?
自信は無い。けどワザとでやる事じゃないんだ。自然と、そうなるんだ。
「俺はどんなに無力でも無能でも無知でもいい。シキの傍にこれからも居られるんなら。圧倒的な力を得てもシキの傍に居られないんなら……独りぼっちなら、俺はそんなクソみたいな力、捨ててやるよ」
俺は我儘だ。
オトアにはこのままじゃ勝てない。圧倒的な力を選べば暴走、独りになってしまう。
だから圧倒的な力を捨てて、勝利を選んだ。
そんなの無茶苦茶だ。弱者が強者に勝つための力を捨てて、勝てるわけが無いのに。
俺は相当な我儘だ。
だけど、そんな不条理、知った事か。
「俺は圧倒的な力なんかより、シキの傍に居られる未来の方が欲しいんだよ。死神なんて関係無い。魔神の力なんてどうでもいい。俺は決めたんだ、シキと一緒に帰るって。これから先もシキの傍に居るって事を」
言った後、恥ずかしくなった。
いやだって何か、愛の告白、みたいな風になっちまってるんだぞ。
相手が誰であれ、思春期真っ盛りの俺にとっては、とてつもなく恥ずかしい。
っていうか、また何でこんな格好良さげな事を言ってんだ。あからさまに、またオトアにボコボコにされるフラグじゃねぇーか。
でも、仕方が無い。
「その言葉、シキに言ってあげて。きっと喜ぶ」
「嫌だ。気恥ずかしい」
「そっ、残念」
最後に魔神が笑っていた事が気に食わない。なんとなくムカつく。
あぁ、その代わりスッキリした。
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「あっ…………あぁ……」
シキは嗚咽混じりに驚嘆し、失望する。
ユラリ、と立ち上がったのだ。小月が。
シキを襲うのは既視感。
狐狩りの最後、魔神の力を借りた小月の暴走。
あの時の原因もシキであった……。
また小月は同じ事を、という失望がシキを包む。
暴走した小月ならばオトアに勝利できるかもしれない。
しかし勝利をしたとしても、その後、小月が自ら止まれるわけなどなく………この状況ではシキが止めるしかないのだ。
シキが小月を殺すしかないのだ。
しかしそもそも、そんな悲劇、小月が許すわけが無い。
「………ぉれ、は…………………………」
呟く。シキに希望を持たせるように。
それだけでシキは理解した。魔神の力を借りた時に口にした解析不能の言語では無い事で、小月が正気である事に。
そして小月は顔を上げ、
「俺、は………最弱だぁぁぁあああああああああああああああああッ!!!!」
叫ぶ。オトアに対する宣言と、自分に対する再確認。
「俺は才能も無いし、努力もしてない! 後天的に得た雑音拒絶も俺が自分にも他人にも世界にも甘かったから中途半端でしょぼい力! 師匠が渡した黑鴉も制作者本人が欠陥品呼ばわり! 徹底的に劣等種。俺は最弱だぁ!」
自分で叫んでて惨めになる小月だったが、その言葉はもう止まらない。
「シキを助けたいとかシキの傍に居たいとか言っといて、結果は惨敗。もう全身ボロボロ! どうしようも無いくらいに負け組だ! だけどな―――――」
最後、一呼吸置いてからオトアに向かって小月は告げる。
「――――――――だけど、俺達はお前に勝つぞ」
オトアは驚愕と茫然と羨望が混じった視線を小月に向ける。
対して小月は決意に満ちた視線で対抗するのみだ。
静寂。嵐の前の静寂。これから再び起こる二人の戦いを一時的に止めている鎖のような静寂。
両者はしばらくお互いを牽制するように睨み合い……………。
そして、小月とオトア。真に決着をつける為、動き出す。
無駄に長いが、こんな文章、どうでもいいんじゃよ。
もう俺は終わらせるために全力を―――――ッ!!
尽くしたいけど、夏にバテてしまった………………